日医ニュース
日医ニュース目次 第1242号(平成25年6月5日)

横倉会長,日本記者クラブで講演
地域医療再興のため,かかりつけ医に対する国民の理解を深める

 横倉義武会長は五月二十四日,日本記者クラブの昼食会に招かれて講演を行い,地域医療の再興に向けた日医の考えを説明した.

日医の考えを説明する横倉会長

 日本記者クラブは,一九六九年にわが国の主要な新聞,通信,放送各社が協力して設立したナショナル・プレスクラブであり,横倉会長が日本記者クラブで講演するのは,会長就任以来二回目となる.
 横倉会長はまず,日医について,(1)本年四月より公益社団法人に移行したこと(2)「国民の安全な医療に資する政策か」「公的医療保険による国民皆保険は堅持出来る政策か」という二つの重要事項を政策の判断基準として,会務運営を行っていること─等を説明.患者を取り巻く医療環境の時間的変化や各地域が抱える医療問題(医療資源,専門医分布)の把握に努め,集められた情報を基に日医総研で分析を行い,国に対して政策提言しているとした.

日医の考える「かかりつけ医」とは

 地域医療の再興のための方策に関しては,第一に,「かかりつけ医」の役割を国民に理解してもらい,普及させることが必要だと指摘.今後は,「かかりつけ医」を中心として,「切れ目のない医療・介護」を提供していく体制を整備していくことが日医の大きな政策目標になるとした.
 その上で,日医の考える「かかりつけ医」については,就業形態や診療科を問わず,「医療的機能」と「社会的機能」の両方の機能(別掲)を有する医師であると説明.今後は,「かかりつけ医」に在宅医療にも積極的に参加してもらうことが必要になるとして,本年三月に開催した「在宅医療支援フォーラム」に続いて,七月には,都道府県医師会の担当者を集めて,「在宅医リーダー研修会(仮称)」を開催する予定であることを紹介した.
 更に,横倉会長は,ITを活用した地域医療連携をより推進していくことも必要だとして,現在行われている広島県尾道市,静岡県,山形県鶴岡地区,長崎市での取り組みを概説.その取り組みを全国に広げるとともに,医療に関わる法令・制度,教育・研修,財源等に医師会が積極的に関与することで,地域医療全体の質を向上させていく考えを示した.
 今後,急速に進展する高齢化への対応に関しては,「将来の人口構成(性別,年齢階級別)」や「性・年齢に応じた有病率」等を用いて予測した医療ニーズを基に,各地域でしっかり議論してもらい,それぞれの地域に合った医療提供体制を構築していくことが必要だと指摘.また,乳幼児期から高齢期まで,さまざまな形で行われている健診を生涯保健事業として体系化するとともに,健診の際に健康教育をしっかり行うことで健康寿命を延ばしていくことも重要になるとした.

医療事故調査制度の早期の創設を求める

 医師不足・偏在の問題については,「その解決が,地域医療再興のための最重要課題となっている」とした上で,日医の考える医師偏在解消策の一試案〔(1)医師不足地域の医学部に地域医療再興講座を設置するなどにより,大学医学部における役職・身分を保障し,キャリアアップにつなげる(2)地域医療再興講座については,国が通常の外数(別枠で上乗せ)で運営費交付金,私学助成金を全額措置する(3)国がその講座の医師の採用を全面的に支援する〕を紹介.特に医師不足が深刻な東北地方では有効な手段になると述べた.
 更に,現在の医学部教育のあり方を見直す必要性にも触れ,四年間(医学部五,六年生,臨床研修一,二年目)を通じて,プライマリ・ケア能力の獲得を目指す,日医の医師養成案について説明.
 その上で,将来的な方策に関しては,医師会,行政,大学,住民代表等で構成される「都道府県地域医療対策センター(仮称)」を創設することを提案.そこで,医師の養成と医師確保対策を推進していくべきとの考えを示した.
 また,毎年百人程度の医師が業務上過失致死・傷害で送検されている現状があることにも言及し,「医療現場が委縮せずに,誠実かつ積極的に医療の向上に取り組んでいくことが出来るようにするためにも,医療事故調査制度の早期の創設が必要だ」と強調.その創設に向けた理解と協力を求めた.

国民皆保険の堅持が不可欠

 TPPの問題については,国民皆保険の堅持を強く求めてきたことを説明した上で,これまでの米国からの医療の市場化要望を踏まえると,TPPには,(1)中医協での薬価決定プロセスへの干渉(2)私的医療保険の拡大(3)株式会社の医療への参入─等の懸念があると指摘.安倍晋三内閣総理大臣は,国民皆保険は守ると言明されているが,交渉の段階で,日医が提示した国民皆保険堅持のための三条件(「公的な医療給付範囲を将来にわたって維持すること」「混合診療を全面解禁しないこと」「営利企業(株式会社)を医療機関経営に参入させないこと」)を守ることが出来ないと判断した場合には,TPP交渉から,速やかに撤退することも必要との考えを示した.
 更に,横倉会長は,現在議論が進められている規制緩和の問題にも触れ,過度な規制緩和には反対する意向を表明.混合診療の全面解禁を行うべきとの意見があることについても,先進医療から保険適用された例を紹介し,「現在ある保険外併用療養を弾力的に活用すれば,混合診療を全面的に解禁しなくても十分対応出来る」と述べた.
 その後の質疑では,(一)政治との距離,(二)マイナンバー法─についての日医の考えを問う質問が出された.
 (一)について,横倉会長は,「医療には医師法,医療法,健康保険法等,さまざまな法律の規制があり,政治との関わりなしには何もすることは出来ない」とし,日医の政策を実現していくためにも政治との距離を縮めていくことは必要だとした.
 (二)では,マイナンバー法の対象に医療も含めるべきとの考えが記者から示されたことに対して,「医療情報は機微性が高く,個人情報の漏洩を防ぐためにも個別法をつくって欲しい」と主張してきたことを説明.個別法がない現段階においては,医療をマイナンバー法の対象に含めることは時期尚早として,反対の意向を示した.
 なお,本講演の模様は,日本記者クラブのホームページ(http://www.jnpc.or.jp/)で視聴可能となっている.

横倉会長,日本記者クラブで講演/地域医療再興のため,かかりつけ医に対する国民の理解を深める(表)

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