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第1249号(平成25年9月20日) |
平成25年度近畿医師会連合定時委員総会
「国民皆保険制度の堅持,営利企業による医療経営参入は断固阻止」等について決議を採択
平成二十五年度近畿医師会連合定時委員総会が九月一日,和歌山市内で開催され,日医から横倉義武会長を始め,三上裕司・小森貴・藤川謙二各常任理事が出席した.
「医療保険」「勤務医」「地域医療・介護保険」について分科会を開催
各分科会では,会の冒頭寺下浩彰近畿医師会連合委員長(和歌山県医師会長)が各会場を訪れ,あいさつするとともに活発な議論を要請した.
第一分科会「医療保険」では,次期診療報酬改定への対応について協議した.
協議では,次期診療報酬改定に向けた喫緊の課題や診療報酬改定の中での消費税のあり方などについて二府四県医師会より報告が行われた.その中で控除対象外消費税の問題に関し,各府県医師会より「ゼロ税率を含む軽減税率,もしくは非課税・還付を強く提唱すべき」「一〇%引き上げ時の抜本的改革に関し,課税業者への転換や四段階税制廃止への動きを考慮すると,原則課税によるゼロ税率導入は小規模医療機関への影響が大きく,非課税維持・還付制度導入の検討も考慮すべき」などの意見がアンケート結果として出された.
藤川常任理事は,控除対象外消費税問題の抜本的な解決に向け,政府,財務省が一〇%時に日医などの提言を実現出来るかが本当の正念場とした上で,「『八%時の対応が定着したにもかかわらず,どうして一〇%で改めて変える必要があるのか』といった反対が出る危険性がいまだ残っている.日医としてしっかりと確約をとることを,政治的にもしなければいけない」と述べた.
第二分科会「勤務医」では,医師会組織率強化などについて各府県担当からの報告に基づき,意見交換が行われた.
議論の中では,日医に入会することにより新たな専門医資格の認定・更新を受けやすくする仕組みをつくるなどを念頭に,勤務医を半ば強制的に入会させるような仕組みを構築する必要性に言及してはどうかとの意見や郡市区,府県をまたいで異動した時の入退会手続きが面倒といった意見も出た.一方,「入会金・会費の低減化」「入会方法の簡素化」「広報活動の強化」「大胆な発想であるが,各地域医師会への入会で自動的に日医会員になる」等の意見が出された.
小森常任理事は,医師会が勤務医を守る存在でないと,入会する必然性も魅力もないとした上で,福島県立大野病院事件を踏まえ,「善意の医療による刑事訴追が二度と起こらないような体制づくりを,医師会が主導して行っていく」と述べた.
第三分科会「地域医療・介護保険」では,在宅医療の取り組みや地域包括ケアについてアンケート調査を行った結果の報告が各府県医師会より行われた.
その中では,「地域医師会が中心となって,医療関係職種のみならず介護支援専門員や地域包括支援センターも参加した多職種連携モデル研修を行っている」「在宅医療を担う医師の確保に向け医師を対象とした研修を行っている」との意見がある一方,「マンパワー不足により,医師の努力で何とか行っている」との意見もあった.また,サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)でモラルハザードが起きている問題については,「少なからず囲い込みが行われている」「サ高住の経営者による医療機関への圧力が問題」「フリーアクセスが阻害される恐れがある」との指摘の他,「利用者は知らずに入居してしまうことも考えられることから,医師会としてきちんとした方針を出さなければならない」との意見が出された.
地域包括ケアに関しては,医療連携の重要性について多くの意見が出され,「地域連携クリティカルパス」「医療と介護の連携シート」の運用を通じた認知症の人及び家族を支援する体制構築について意見が出された.
三上常任理事は,サ高住の問題に関し,「今後出来るだけ早く検証を行い,アンフェアな形にならないようにしていかなければならない」と述べた.また,「在支診・在支病の一部では,条件が整えば機能強化型在支診・在支病の届出の希望を持っているが,届出をしていない在支診・在支病の多くは,常勤医師三名以上の配置,定期的なカンファレンス実施が困難等を理由としていることから,地区医師会において連携のグループをつくって頂いたり,コーディネートの役割を担って頂きたい」と要請した.
委員総会
午後からは,委員総会が行われ,寺下委員長のあいさつの後,役員選任報告が行われた.来賓としてあいさつした横倉会長は,冒頭第二十三回参議院選挙において羽生田俊副会長が当選したことへの御礼を述べ,今後も日医は政府の各種政策に対し,是々非々の姿勢で対応していくことに変わりはないとして強い意志を表明した.また,八月に安倍晋三総理に提出された社会保障制度改革国民会議報告書に対し,「日医が求めてきた国民健康保険の保険者広域化や所得に応じた負担,地域の実情に応じた先行きの医療・介護サービス提供体制のモデル像が描かれていることは高く評価したい.また,国民皆保険を形骸化させる『混合診療の全面解禁』『保険外併用療養の拡張』『セルフメディケーション』についての記載がなく,新自由主義的な発想から脱却したことも特筆すべき点である」と述べた.その一方で,国民に更なる負担を強いる内容もあるとして,引き続き注視していく必要があるとした.その上で,「日本医師会綱領の理念の下,会員の団結が求められる時は今しかない.国民医療の向上に向けた医療政策を政府や国民に訴えていく」として,協力要請を行った.
続いて,「平成二十四年度近畿医師会連合会務報告」の後,「平成二十四年度近畿医師会連合歳入歳出決算に関し承認を求める件」等の議案三件を審議し,了承された.
その後,第一分科会で議論が行われた決議(下掲)を採択.最後に,次期主務地医師会を京都府医師会とすることが紹介され,会は閉会となった.
現場の立場から 医療再生の道筋を
特別講演では,「医療再生の処方箋(せん)〜患者の権利尊重から擁護する医師へ〜」と題して,本田宏済生会栗橋病院院長補佐による講演が行われた.
本田氏は,日本人はメディアリテラシーが低く情報操作に騙(だま)されているとして,自身で情報収集することの意義を強調.最後に,「自分だけ,自分の家族だけ,自分の会社や組織だけ,そして自分の国だけが幸せ」ということは不可能であるとして,医療者もそれぞれの立場で,医療,そして日本再生に立ち上がるべきであるとした.
決議
現在も東日本大震災および原発事故の復興が続けられている中,さらに発生の危険度が高まっている大震災等への対応が迫られているわが国において,経済情勢は新政権の打ち出した経済活性化策等によりやや明るさを取り戻しつつあるが,なお不透明感は拭えない.また,世界経済のグローバル化が一段と進み,環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加に踏み出したわが国は今後一層厳しい対応を迫られることが予想される.国民の生活,特に皆保険制度の堅持のため,交渉において止むを得ないときには「ノー」と言える強い志が必要である.
一方で,日々進歩する先端医療や加速される高齢者人口の増加など多様化する医療状況の中で,今後の社会保障制度の充実のために安定した財源を確保し,医療・介護難民のいない社会を創り上げるべきである.そして,持続可能な充実した医療制度を作成し,わが国独自の安心で安全な高齢社会の構築を図らなければならない.
よって,以下の事項を政府に強く要望する.
記
一,大震災等への対応を急ぐこと
一,健全な国民皆保険制度を堅持すること
一,営利企業による医療経営参入は断固阻止すること
一,医療連携を図り安心して在宅医療を受けられる環境整備を進めること
一,多様化する病院機能を担う勤務医の適切な労務環境の改善を推進すること
一,日々進歩する医療の中,基本診療料のより適切な評価を行うこと
以上,決議する.
平成25年9月1日
近畿医師会連合定時委員総会
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