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第1262号(平成26年4月5日) |
日医各種委員会答申・報告書(その1)
今号から数回にわたって,平成24・25年度の会内委員会が取りまとめた答申及び報告書の概要を紹介していく(全文は日医ホームページ・メンバーズルーム参照).
特区対策委員会とりまとめ
全国の特区の現状と課題について説明
特区対策委員会(委員長:川島龍一兵庫県医師会長)は,「特区の現状と課題および対応について」を取りまとめた.
その中では,医療分野における特区構想について,日本の医療制度を根底から揺るがしかねない多くの問題を含んでおり,国民皆保険の崩壊へと繋(つな)がる恐れもあるとした上で,「株式会社の医療機関経営への参入」「保険外併用療養(いわゆる混合診療)」等の個別分野について,その現状と委員会としての見解を説明している.
「株式会社の医療機関経営への参入」については,(1)地域医療の継続性を確保出来ない(2)所得によって受けられる医療に格差が生じ,医療費が高騰する(3)混合診療全面解禁への布石,ひいては国民皆保険の崩壊につながる─等の問題点を挙げ,例え特区であろうとも,容認することは出来ないとしている.
「保険外併用療養(いわゆる混合診療)」に関しては,現行の保険外併用療養の仕組みを維持し,今後も先進医療等は全て評価療養の対象とし,有効性,安全性,効率性,社会的妥当性が確保された段階で,速やかに公的医療保険に収載することを基本にすべきであると指摘.
保険外併用療養の拡大によって,先進医療等を公的保険に組み込むインセンティブが働きにくくなるならば,本末転倒であるとするとともに,特区においても安全性の確保は絶対であり,現在の先進医療制度の適用を受ける必要があるとしている.
また,安倍政権が進める「国家戦略特区」については,「護(まも)るべきは守る」姿勢が今こそ問われているとして,日医に対して監視を怠ることなく,今後も是々非々の立場から,国・省庁へ意見具申することを求めている.
環境保健委員会答申
環境と健康影響に関するリスクコミュニケーションの重要性を示唆
環境保健委員会(委員長:大塚明廣徳島県医師会副会長)は,このほど会長諮問「環境における低線量放射線被ばくと地球温暖化による健康影響」に対する答申を取りまとめた.
答申の内容は,(一)はじめに,(二)環境問題に関する基本的な考え方,(三)環境における低線量放射線被曝(ばく)と地球温暖化による健康影響,(四)環境リスクへの対応,(五)日本医師会及び医師の役割,(六)まとめ─から構成されている.
「低線量放射線被曝(ばく)」では,放射線による人体への影響を解説するとともに,福島県の健康管理調査等により疾病の早期発見・早期治療を目指し,医師は被災者の健康管理を行い,行政や地域住民等とのリスクコミュニケーション(専門知識や情報を共有し意思疎通を図ること)を行うことが重要とした.
「温暖化による健康影響」では,熱中症の増加を取り上げ,熱中症の発生増加と重症化を克服する唯一の方法は,地球温暖化を抑止することであり,病院・診療所等の省エネルギー対策を実行することが,国民からの信頼獲得にも沿うとした.
更に,同委員会が日医会員を対象に行った「リスクコミュニケーションに関するアンケート調査」の結果,東京電力福島第一原子力発電所の事故後の「低線量放射線被曝(ばく)と健康影響」に関する質問が,乳幼児や小学生以上の子どもをもつ父母から多かったこと,また,「地球温暖化と熱中症」に関しては,夏期に,高齢者及びその同居者から,高齢者の「水分・塩分補給」や「エアコンの使い方」「脳血管疾患」に関する質問が多いこと等が明らかになったことを紹介した.
これらの結果から,日医や同委員会並びに各医師会は,対象集団の特性に応じて,住民が欲している知識・情報と共に医師・専門家として伝えたいメッセージを整理して,リスクコミュニケーションが円滑かつ効果的に行えるように支援する必要があるとしている.
国際保健検討委員会答申
地域医療の課題解決に向けて3つの事項を提言
国際保健検討委員会(委員長:神馬征峰東大大学院教授)は,横倉義武会長からの諮問「世界医師会(WMA)の活動を中心とした国際貢献と地域医療」に関して検討を重ね,答申を取りまとめた.
答申では,まず,日医の活動として,世界医師会(WMA)のヘルシンキ宣言の改訂作業に深く関与したこと,アジア大洋州医師会連合(CMAAO)デリー総会で「児童虐待」をテーマとした議論に積極的に関わったことなど,その成果が委員会に報告され,問題を共有したことに言及.また,WMAのJunior Doctors Network(JDN)の活動では,「組織構築」「認知度の向上」「若手医師を対象としたAnnual Survey」を活動の軸として,国際活動における日本の若手医師のプラットフォームの基盤づくりを進めていくとした.
その他,同委員会が直接関与した「武見プログラム三十周年記念シンポジウム」や,「震災・救急活動の新たな展開」として,台風三十号によるフィリピン被災地での国際医療ボランティア組織(AMDA)と自衛隊との連携による救援活動を紹介.また,地域医療が抱える問題に国際保健がどのような解決策を提示出来るかが今後の課題とした上で,(一)国際保健による地域医療への貢献,(二)WMA,CMAAOにおけるJMA,JMA─JDNの国際貢献,(三)発信力の強化─を提言している.
(一)では,平時の地域医療に対しても国際保健の貢献を追求すべきとしている.(二)では,ヘルシンキ宣言改訂後も,WMA,CMAAOは世界的な保健課題について議論を続けていくべきとしている他,JMA─JDNも含めた日本人医師による国際貢献に期待感を表明.更に,(三)では,既存のJMAJ誌,国内雑誌等にとどまらず,多彩なメディアを介して,地域医療の成功例や国際保健の地域医療への貢献に関する発信力の強化を求めている.
国民生活安全対策委員会答申
国民の健康を守る医師会のあり方を提言
平成二十四・二十五年度国民生活安全対策委員会(委員長:加藤哲夫前島根県医師会長)は,このほど,横倉義武会長からの諮問「国民の健康を守る医師会のあり方〜国民生活での生命・健康に脅威となる事象の検証及びその対策〜・食品安全・いわゆる『補完・代替医療』・その他」に対する答申を取りまとめた.
内容は,(一)はじめに,(二)国民生活での生命・健康に脅威となる事象の検証及びその対策について,(三)国民の健康を守る医師会のあり方・本委員会のあり方,(四)おわりに─からなっている.
(二)では,食品安全として健康食品や特定保健用食品における承認・製造・販売・広告等で各種問題を指摘するとともに,市場拡大する健康食品や,いわゆる「補完・代替医療」等エビデンスが不明瞭なものが,医療と近縁であるかのような誤解を生じさせていること等に対し,学校教育を含めた国民への啓発の重要性を指摘.(三)では,九州でのP.M2.5飛来の問題等,地域ごとの問題について,情報収集及び住民へのアナウンスを行うことも,地域医師会の重要な役割の一つであるとしている.
また,本委員会が,何か問題が生じた際に,相談先や情報収集先を分類して情報提供することを目的として,過去十二年間でさまざまな問題と対峙してきた結果を基に作成した「実地医家向け緊急時対応リーフレット(案)」を提示.日医に対しては,ホームページ上で公開するなど,その活用を求めている.
なお,巻末には,参考資料として,「国民生活安全対策委員会開催状況」が,別添資料として「健康食品安全情報システム委員会報告書」がそれぞれ添付されている.
学校保健委員会答申
現代的な健康課題もスクリーニング出来る保健調査票を提案
学校保健委員会(委員長:衞藤日本子ども家庭総合研究所長)は,会長諮問「これからの学校健診と健康教育」に対する答申を取りまとめた.
同委員会では,昨年六月に中間答申を取りまとめ,文部科学省に健康診断の効率化や保健調査の充実など,提言と要望を行っている.
本答申は,中間答申を更に検討する形で取りまとめられたもので,(一)はじめに,(二)現状と改善案(対策),(三)結び─からなっている.
現在,地域ごとに作成・活用されている保健調査票について,現代的な健康課題に対する調査の地域差や,関係者の情報共有,スクリーニングに濃淡があるなどの課題を踏まえ,全国の学校現場での保健調査項目の平準化と更なる充実のため,従来から用いられてきた保健調査の項目を整理し,現代的な健康課題に関する保健調査項目を新たに追加.答申では,その検討過程を詳述するとともに,例として三パターンの保健調査票を,巻末資料に収載している.その中で,児童の出生からの成育や既往症,予防接種状況など,学校での保健管理に求められる情報を入学時に家族から情報提供してもらい,データベースとして活用することなどが提案されている.
これらは,昨年十二月に文科省の「学校における健康診断の在り方等に関する検討会」が取りまとめた意見書に沿って省令改正が行われることに伴い,『健康診断マニュアル』も改訂される見通しであることから,文科省に保健調査票例の活用を求め,要望する方針である.
また,今後の健康診断,健康教育への医師会の関わりとして,都道府県医師会,郡市区医師会が行政や教育委員会,専門診療科の医師や地域基幹病院,学校の関係者と協議する場の設置が必要であるとして,「児童・生徒の健康支援の仕組み(仮称)」の制度創設を提言している.
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