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第1263号(平成26年4月20日) |
第131回日本医師会臨時代議員会
地域医療の再興に向け喫緊の課題対応を強化─横倉会長
第131回日本医師会臨時代議員会が3月30日,日医会館大講堂で開催された.
当日は理事枠を増やすため,日医の定款を一部改正すること等を賛成多数で承認.横倉義武会長は冒頭,次のようにあいさつし,国民皆保険の堅持とかかりつけ医を中心とした地域包括ケアシステムの整備により地域医療を再興させ,優れたわが国の医療システムを世界に発信していきたいとの意向を示した.
会長あいさつ
本日は,第百三十一回日本医師会臨時代議員会に,ご出席を頂き,誠にありがとうございます.
今年の冬は殊の外厳しい寒さで雪により難渋された会員の先生方が多かったのではないかと思います.厳しい冬が過ぎ,隣接の六義園の桜も満開となりました.
日頃から日医の会務運営と諸事業にご理解とご支援を頂いておりますことに対し,厚く御礼申し上げます.
本日の臨時代議員会では,定款改正を含めた二つの重要議案を上程いたしております.慎重にご審議の上,何とぞご承認賜りますよう,よろしくお願い申し上げます.
さて,本代議員会の開催に当たり,若干の所感を申し上げたいと存じます.
医師と患者・社会を結び付ける要が医師会
われわれ執行部は,二年前の代議員会でご信任頂いてより,「継続と改革」「地域から国へ」をスローガンに掲げながら,「国民と共に歩む専門家集団としての医師会」を目指し,鋭意努力してまいりました.
昨年四月一日には公益社団法人への移行を果たしました.移行に当たり,「国民医療体制の確立」「安全な医療提供の推進」「保健活動を通じた国民の健康確保」「医療機関の経営の安定化」等を目的とした,さまざまな活動の公益性を深化させていく中で,医学・医療を通じた国民への奉仕を,皆様の前で改めてお誓いいたしました.
また,六月開催の定例代議員会では,わが国全ての医師の団結と融和の“指標”となるよう,『日本医師会綱領』を採択頂きました.本綱領は,わが国の宝である国民皆保険を柱に,時流に流されることのない日医の基本姿勢を,国民との約束という形で示したものであります.
七月に行われた参議院議員選挙では,当時,副会長であった羽生田俊先生が初当選を遂げられ,日医が描くあるべき医療のビジョンを,国政により反映させやすい状況が整いました.
この参議院選挙を受けまして,十月に開催された臨時代議員会では,新たに副会長として松原謙二先生,常任理事に大野和美先生,そして,理事に魚谷純先生をそれぞれご選出頂きました.診療報酬改定に向けた議論が本格化していく中で,政府や経済界と確実に議論や交渉が出来る先生方をお迎え出来たことを大変心強く思っておりましたが,大野和美先生の突然のご逝去という事態はまさに痛恨の極みであり,心よりご冥福をお祈り申し上げる次第であります.
十二月には平成二十六年度の診療報酬改定財源が決定されました.厳しい国家財政の中,診療報酬本体で〇・一%のプラスとなる一方,社会保障・税一体改革への対応としては,医療法等の改正により創設される基金五百四十四億円に三百六十億円を上積みし,全体で九百四億円の基金で対応することになりました.
今回の診療報酬改定は消費税率引き上げと同じ時期となったため,保険料や患者負担を増やさないようにするとの,政府の強い意向を反映した結果で薬価引き下げを勘案しますと一・二六%の引き下げであります.
国民との約束である社会保障・税一体改革に基づき,消費税引き上げ分を社会保障の充実に充てることになっていた点等を考えますと,決して十分な内容とは言えません.
特に,引き下げられた薬価は,診療報酬本体の改定財源に充てられるべきであり,そもそも健康保険法において診察等と不可分一体である薬剤の財源を切り分けることがあってはならないはずです.
従って,今回は極めて特例的な措置であると考えておりますので,今回のケースが前例とならぬよう,今後とも強く主張してまいります.
この他,医療界の長年の懸案事項である医療事故調査制度の創設については,「個人への責任追及から組織での対応への転換」を柱とする,日医の理念がほぼ入れられた形で,現在,医療事故の再発防止に向けた調査の仕組み等を医療法に位置付けることが,国政の場で検討されております.
また,このたびの専門医制度改革に当たっては,日医が日本医学会と共に中心的役割を担う考えを示すとともに,制度運営に当たっては,日医生涯教育制度の積極的活用を主張しています.
全てを言い尽くすことは適(かな)いませんが,この一年間を振り返ってみますと,まさに医療とは臨床的奉仕であるとともに社会的奉仕であり,その活動に挺身(ていしん)する医師を支え,医師と患者・社会とをより良い形で結び付ける“要”こそが医師会であるとの思いを強くいたします.
今後求められる明確なビジョンと実行力
これまで取り組んできた活動を礎に,崩壊した地域医療を持続可能なシステムとして再興していくためにも,今後,必要なのはこれからの国民医療はどうあるべきかとの視点に基づく「ビジョンと実行」であると考えます.
その中で,医師会に求められることは,医療の専門家集団として,国民医療を守る立場からの明確なビジョンを示し,そのビジョンの下で強力な実行力を発揮することであり,そして,われわれ執行部はそれに応えなければいけません.
すなわち,団塊の世代が後期高齢者となる二〇二五年を見据えた「ビジョン」としては,病床の機能分化・連携,在宅医療・介護の充実,医療従事者の確保・勤務環境の改善等により,“かかりつけ医”を中心とした地域包括ケアを推進する必要があります.
そのため,まずは国民の皆様に“かかりつけ医”をもってもらい,“かかりつけ医”を中心とした地域のネットワークの中で,患者の病態に合った形で先端医療までの橋渡しを行っていく,それこそが今後必要な「地域医療」の姿であると考えます.
また,地域包括ケアの考え方としては,住まいの確保を軸として,地域の医療・介護・福祉・生活サービス等を一体的,かつ適切に提供することで,誰もが住み慣れた場所で最期まで安心して暮らすことが出来る社会をつくるということが重要です.
更に,今後ますます高齢化が進展していく中で,若い方々に対しては,生活習慣の改善による疾病予防と疾病の早期発見・早期治療を,高齢者の方々に対しては,生活の不具合の早期発見・早期対応による生活を営むための機能の維持を図っていかなければなりません.その結果,健康寿命の延伸につながり,高齢者の方々におきましては,社会から「支えられる側」から,社会を「支える側」になって頂くことも必要でしょう.
このように,持続可能な地域医療体制の構築に向けては,国からのトップダウンではなく,地域が主体となって,地域にある全ての人的・物的資源を再評価した上で投入し,地域の実情を反映した,地域に即した形での“まちづくり”を行っていくことが重要です.
わが国の医療システムを高齢社会を安心へと導く世界モデルに
こうした場面において,医師会として「実行」していくことが求められる点は,二つあると考えます.
一つ目は,「地域の実情に合った形で,地域医療をどうつくり上げていくのか,行政にどのように提案し,協働していくのか」という課題を,現場を担う会員一人ひとりの声に耳を傾けながら,解決していくということです.
特に,今後地域で必要な医療・介護は,先に触れました基金を原資に,都道府県が作成したビジョンに基づき実施されていきます.そのため,地域を知り,地域と共に歩んでこられた都道府県医師会が,都道府県と円滑な関係を築きつつ,明日の医療のビジョンを描きながら,地域住民の健康を守って頂くことになります.そのビジョンは,都道府県ごとの特性に応じたものになっていくと考えられます.
日医といたしましては,本年二月,事務局内に「地域包括ケア推進室」を設置し,行政と地域医師会との連携・調整を実務的に円滑たらしめ,地域ごとの方針・計画策定を支援する体制を整えたところであります.
二つ目は,地域医療提供体制を維持していくための基本的な仕組みである,わが国の歴史と日本国民固有の価値観に基づき築き上げられた「国民皆保険」をしっかりと守って,次の世代に受け継いでいくことであり,これは医師会のみならず,われわれ全ての医療人に課せられた義務であります.
この義務を果たすため,日医は政策の判断基準として,「国民の安全で安心な医療提供に資する政策か」「公的医療保険による国民皆保険が堅持出来る政策か」の二つに重点を置いてきました.
今後とも医療界の更なる団結を図りながら,今後あるべき地域医療の姿の実現に向けて,強力な発信力と実行力を用いながら,国の各種政策を正しい方向に導いていくよう,努めてまいります.
特に,医療が市場原理主義の自由競争に委ねられるようなことになれば,国民皆保険の崩壊のみならず,医療の安全性と平等性が失われる事態になることは明らかでありますので,政府の中の過度な規制緩和の動きに対しては,厳しく反対の姿勢を取り,これを阻止してまいります.
最近においても規制改革会議や国家戦略特区の検討の中で,保険外併用療養の更なる拡大の検討や医学部新設の議論が行われています.私どもは先ほど申し上げた政策に係る二点の判断基準を基に,懸念する点は強く政府に是正を求めてまいります.
以上述べてまいりましたとおり,これからの国民医療についてのビジョンを描きながら,国民皆保険の堅持と,地域の実情に即した“かかりつけ医”を中心とする地域包括ケアシステムを整備し,それを推進していくことによって,疲弊した地域医療は必ずや再興するものと確信いたします.その第一歩が,このたびの社会保障・税一体改革による医療提供体制の改革であり,その成否は国内のみならず,世界中の多くの人々が注目しているところであります.
世界的に見ましても,高齢化は先進諸国を始め多くの国が直面する,あるいは近い将来に直面する大きな課題となっております.そうした中,国民の健康寿命を世界トップレベルにまで押し上げたわが国の医療システムが,国家財政や人口動態の影響を受けながら変革と再生を遂げることにより,世界が経験したことのない高齢社会を“安心”へと導く世界モデルになるでしょう.
かつてわが国が欧米諸国から進んだ医学・医療を学んだように,今度はわれわれが,優れた医療システムを世界に発信することで,世界中の人々の幸福の実現に貢献していこうではありませんか.それこそが,二〇二五年を見据えた上での,われわれが目指すべきもう一つの大きなビジョンであります.
国民医療の向上はもとより,そうした意味におきましても,『日本医師会綱領』の理念の下に医師の大同団結を図り,郡市区等医師会,都道府県医師会,そして日医がそれぞれの役割を果たす中で,医師会員の総力を挙げて地域医療を再興し,わが国の優れた医療システムを確立していかなければなりません.
代議員の先生方におかれましては,引き続き特段のご理解ご協力を賜りますよう,この場をお借りして深くお願い申し上げます.
また,本日は後程,来年四月に開催されます「第二十九回日本医学会総会二〇一五関西」についてのご案内が,会頭の井村裕夫先生を始めとする皆様よりございます.
今回のテーマは「医学と医療の革新を目指して〜健康社会を共に生きるきずなの構築〜」でありますので,広く会員に参加を呼び掛け,医療者間,あるいは医療者と国民との新たな関係構築に繋(つな)がる成果が得られるよう,会の成功に貢献してまいりたいと存じますので,重ねてご協力のほどお願い申し上げます.
結びに,これまでの会務運営に多大なるご尽力を賜りましたことを衷心より感謝申し上げ,あいさつの言葉とさせて頂きます.ご清聴ありがとうございました.
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