日医ニュース
日医ニュース目次 第1269号(平成26年7月20日)

第132回日本医師会定例代議員会・第133回日本医師会臨時代議員会
横倉会長/国民と共に歩む専門家集団としての医師会を目指し,会務に取り組む決意を表明

 第132回日本医師会定例代議員会が6月28日,第133回日本医師会臨時代議員会が29日に,日医会館大講堂で開催された.
 定例代議員会で会長に再任された横倉義武会長は,次のように所信を表明し,「組織を強くする」「地域医療を支える」「将来の医療を考える」の3つの方針を携え,「国民と共に歩む専門家集団としての医師会」を目指し,会務を執行していく決意を示した.

第132回日本医師会定例代議員会・第133回日本医師会臨時代議員会/横倉会長/国民と共に歩む専門家集団としての医師会を目指し,会務に取り組む決意を表明(写真) はじめに,昨日開催の第百三十二回日本医師会定例代議員会におきまして,二期目となります会長職を拝命致しましたことを,改めて深く御礼申し上げます.会員並びに代議員のご支持とご期待に応えるべく,先頭に立って会務の遂行に全身全霊で臨む決意であります.
 この二年間,私は「継続と改革」「地域から国へ」をスローガンに,医療を取り巻くさまざまな問題の解決に向けて,医療界の更なる大同団結を訴えながら,「地域医療の再興」を掲げました.そして,地域の実情に沿った医療提供体制の構築を主張していく中で,来るべき二〇二五年に向け,その目指すべき具体的なゴールを明確にしてきました.
 その際,まず,何よりも心掛けましたことは,「国民と共に歩む」という姿勢です.
 なぜなら,私ども医師の責務は,国民が健康で文化的な生活を生涯にわたり送る手助けを行うことであり,私どもが担う医学・医療の恩恵は,広く国民に還元されるべきものであるからです.
 そして,真の国づくりとは,健康で安心して暮らせる「まちづくり」と,それを支える人を育てていくことであり,医療はまさにその根幹であります.

二期目の会務に当たって掲げる三つの方針

 検討中の多くの難題の解決に向けて実を結ばせるのが二期目であり,目的地が近くなれば,正確に到達するための詳細な地図が必要となります.また,目標に向けての到達度が高くなれば,その精度を上げるために,より具体的な方策が求められます.あるべき姿を日医の考える方向性へ近づけていくため,三つの方針を掲げさせて頂きます.
 まず,第一の方針は「組織を強くする」であります.
 私どもが主張する国民のための医療を更に推進していくためには,医師会の組織力を従来に増して強化していかなければなりません.
 その思いから,昨年九月,関係役職員で構成する組織強化に向けたワーキンググループを会内に立ち上げました.その中で,時代に即応した組織のあり方と会員獲得に向けた具体的な取り組みについて検討を行うとともに,一部の取り組みについては既に着手したところです.その詳細は,先般,報告書の形で取りまとめ,都道府県医師会及び郡市区等医師会へお配り致しました.今後は会内に実務を担う委員会を立ち上げ,まずは会員情報システムを都道府県医師会との相互利用も含めて再構築する等,より実践的な議論と取り組みを引き継いで参ります.
 一方,医師会が担ってきた地域医療への貢献や,会員の先生方のご協力による健康福祉への地道な取り組みについては,国民の目に医師会の活動であるということが,なかなか見えていないという状況があります.
 こうした状況に対し,私どもは地域医療に挺身(ていしん)することは医師として当然の責務であるとの認識の下,殊更に地域医療への奉仕を国民に積極的にアピールして参りませんでした.
 しかし,これでは医師会という組織が正しく理解されず,私どもの主張する医療に対する考え方や取り組みについて,国民からの共感や支持が得られにくいままになってしまいます.かつて,田中角栄元首相が述べられたように,民主政治においては,一つひとつの政策がどんなに優れていても国民各位の理解と支持がなければ,その政策効果を上げることは出来ません.
 そのため,日医の理念や目的を,多くの国民や全ての医師に対して分かりやすく発信していくことで,医師会が決して利益追求団体ではなく,「国民と共に歩む専門家集団」として認識して頂けるようになるのではないかと考えました.
 そこで,昨年六月の代議員会において,わが国全ての医師の団結と,国民と医師会との連帯の象徴となるよう,「日本医師会綱領」の採択をお諮りし,ご承認頂いた次第であります.
 継続は「力」でありますが,そのためには多大な労力を要しますし,ましてや,改革は一日にして成りません.
 「日本医師会綱領」を旗印として,今後とも医療界の更なる団結を図りながら,地域から積み上げていく国民医療のビジョンを広く会員や国民に発信しつつ,国民医療の向上に向けて,さまざまな公益的活動を深化して参ります.
 第二の方針は「地域医療を支える」であります.
 団塊の世代が後期高齢者となる二〇二五年を見据え,病床の機能分化と連携,在宅医療・介護の充実,医療従事者の確保と勤務環境の改善等により,国民皆保険の下,「かかりつけ医」を中心とした地域包括ケアを推進していくことが重要です.一方で,国民医療のあり方もそれに伴って変革し,社会の要求・動向も変化していきます.
 人口減少により,二〇四〇年には消滅の可能性が危惧される自治体もあります.しかし,医療のないところに人は住むことが出来ず,医療は不可欠なライフラインであり,いわば医療は「まちづくり」であります.
 地域医療の提供方法は地域により異なります.それぞれの地域で,医療の需要と必要な医療資源とは異なるからです.異なる状況を国が一つの制度で運営する事は,現在機能している地域の医療を壊す恐れがあります.
 日医は医療の専門家集団として,国民医療を守る立場からの明確なビジョンを国民に示し,そのビジョンの下で適切な実行力を発揮していかなければなりません.昨年八月に,日医と四病院団体協議会とが医療提供体制のあり方について合同提言を致しました.
 今後は,医療・介護サービスの提供体制改革に向けた新たな財政支援制度におきましては,病床機能報告制度が行われますが,各都道府県が地域の特性に配慮しながら作成するビジョンに基づいて,地域住民の健康を守っていくための施策が展開されていくことになります.
 地域医療を守るということは,国からのトップダウンではなく,地域の行政や地域の医師会が主体となり,地域にある全ての人的・物的資源を再評価した上で投入し,地域の実情を反映した,地域に即した形での「まちづくり」を行っていくことです.
 超高齢社会を迎えた日本のこれからを考える時に,「かかりつけ医」を中心とした地域のネットワークの中で,医療・介護・福祉・生活サービス等を一体的かつ適切に提供する地域包括ケアシステムを,地域を知り,地域と共に歩んできた医師会がつくり上げていかなければなりません.また,日医としても高齢社会における「かかりつけ医」を養成し,その機能を推進していく必要があります.
 第三の方針は「将来の医療を考える」であります.
 国の債務は一千兆円を超え,わが国の経済成長は伸び悩んでいます.また,労働力人口も,出生率が回復し,かつ女性がスウェーデン並みに労働に従事し,高齢者が現在よりも五年長く働いたとしても,二割程度減少することが見込まれています.
 このような状況において,社会保障費は,医療,介護等を中心に増加することが予想され,今後も財政を緊縮しようとする立場から,規制改革や,成長戦略の名の下に,保険給付範囲を狭める圧力が続いていきます.財政主導で行われてきた繰り返される医療改革は,この根幹たる医療の土台ともいうべき国民皆保険を崩壊へと導く危険にさらし続けて参りました.最近におきましても,過度な医療への規制改革が叫ばれ,医療本体の産業化に向けた動きが加速しているところであります.
 経済財政諮問会議,規制改革会議,産業競争力会議といった三つの政府関係会議から,骨太の方針,規制改革,成長戦略について,それぞれ六月二十四日に閣議決定がされました.
 主に,(1)保険外併用療養の拡大(2)医療費の都道府県別支出目標(3)薬価改定頻度(4)医療提供体制(5)医療保険財源(6)セルフメディケーションの推進(7)医療周辺産業の活性化(8)医療・介護のICT化の推進(9)女性医師の活用─などが掲げられております.日医は,それぞれの項目につきまして,あるべき姿の方向性を示しながら,個別に厳しく対峙(たいじ)していく所存です.
 特に,保険外併用療養の拡大が提言されておりますが,新しい医療の提供に当たっては,安全性・有効性を確認することが必須であり,更に,将来的に保険収載につながるようにすることが大前提です.
 また,都道府県ごとの医療費の目標の設定が掲げられておりますが,現在,地域の実情を的確に把握し,都道府県行政と地域医師会が一体となって地域医療ビジョンの策定に向けて尽力をしているところであります.数値目標ありきでは適切な地域医療を提供する阻害要因となる恐れがあります.
 更に,薬価改定頻度につきましては,最終的に「薬価調査・薬価改定の在り方について,診療報酬本体への影響に留意しつつ,その頻度を含めて検討する」との表現になりましたが,当初は薬価の毎年改定が求められておりました.
 加えて,医療提供体制については,プライマリケア体制の確立を提言していますが,わが国のプライマリケアを担っているのが,まさに「かかりつけ医」であります.

医療界の団結を図り,国の政策を正しい方向に導く

 財政主導で行われてきた繰り返される医療改革は国民に何をもたらしたのでしょうか.
 こうした議論が繰り返されるたび,私どもは会員のご協力と,国民の理解を求めながら,明確に国民の医療を守る声を上げて参りましたが,今,改めて,「国民の健康を守るための規制については,その評価のあり方をしっかりと主張していかなければならない」と痛切に感じているところであります.
 国民にとって必要とする医療が過不足なく受けられる社会をつくっていくため,生涯保健事業を推進し,健康寿命を延伸させる等,時代に即した改革を進めながら,国民皆保険を堅持し,持続可能なものとしていかなければなりません.
 将来の医療のため,国や厚生労働省が必要とする施策ではなく,地域で真に必要なものは何かを政策提言することが可能な体制をつくるため,国民に最も近い存在であるかかりつけ医,更には地域医師会を中心として,必要な情報収集と分析に力を注ぎます.会員の情報格差をなくすよう,日医の問題意識を分かりやすく伝えるため,実情を把握し,分析した上で,具体化して発信をしていきます.更には医政も重要であり,予算編成において,しっかりと財源を確保していくことも重要となります.
 繰り返し申し上げますが,これまで申し上げた三つの方針である「組織を強化し,地域医療を支え,将来の医療を考える」,これらを行う目的は全て国民の医療と健康のためです.
 そのため,「国民の安全な医療に資する政策か」「公的医療保険による国民皆保険は堅持出来る政策か」を判断基準に,今後とも政府の政策に対しては,是々非々の態度で臨んで参ります.
 そして,日医こそが,わが国の医師を代表し,医療界全体をリードする唯一の団体であるとの矜持(きょうじ)をもって,オールジャパン体制の下,多くの関係団体とも連携しながら,わが国の医学・医療を牽引(けんいん)し続けて参ります.
 より良い国民医療の構築に向けて,三つの方針を携え,「国民と共に歩む専門家集団としての医師会」を目指し,日医の会務を執行していく決意であります.
 郡市区等医師会,都道府県医師会,日医が,それぞれの役割を果たしていく中で,持続可能な医療システムを確立出来るか,これからが正念場です.
 地域包括ケアの取り組みに代表されるように,従来の組織体制では対応が困難となっているものもあります.
 この二年の間,日医事務局内に薬務対策室や地域包括ケア推進室を創設致しましたが,求められる医療提供体制は,日々刻々と変化しており,更には大規模災害や,感染症パンデミックなど,さまざまな局面に対処する力も必要です.
 迅速かつ効果的に対応出来るようにするため,例えば,都道府県医師会担当理事連絡協議会の開催,情報共有体制の整備など地域医師会との連携を進めていく一方,委員会や事務局機能の再編・再構築を行っていかなければなりません.
 日医は,今後も医療界の更なる団結を図りながら,あるべき地域医療の実現に向けて,国政が誤った方向へ進まぬよう引き続き注視しながら,強力な発言力で,国の政策を正しい方向へ導いていくよう努めて参ります.
 二期目に臨むに当たり,新執行部一同,より良い国民医療の構築に向けて,会員や国民との対話を尊重しながら,真摯(しんし)に医師会運営に当たっていくことをここにお誓いし,所信表明とさせて頂きます.

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