Vol.1公開:令和6年5月
思春期の多汗症
神奈川県立こども医療センター皮膚科
馬場直子
多汗症ってどんな病気?
汗をかきやすい人とかきにくい人がいますが、ある程度は遺伝的体質や生まれ育った環境によって決まります。しかし、異常に汗が多くて、日常生活に支障があるほどの場合を多汗症と言います。汗は本来、人の体の恒常性を保つために、体温調節や水分調節をする大事な働きをしています。体温が上昇して、血液の温度が一定以上に上昇しすぎると、「体温を下げるために汗をかきなさい」という指令が中枢神経(脳)から交感神経を伝ってエクリン汗腺(全身皮膚の真皮にある汗を分泌する腺)に到達します。指令を受けたエクリン汗腺は、そこに来ている毛細血管から水分や電解質などの汗の成分を受け取って汗を作りだし、細いホースのような汗管から皮膚の表面に向かって汗を分泌します。
症状は、全身または部分的
思春期にみられる多汗症の多くは、原因が特定できない
全身の汗が多い「全身性多汗症」と、手足、脇の下、顔や頭などだけに、温熱や精神的負荷の有無に関わらず、日常生活に支障があるほどの大量の発汗を生じる「限局性多汗症」に分けられます。特殊なものとして、辛い食べ物を食べたときに顔に汗を多量にかく人もいます。また多汗症の中には、原因がはっきりわからない生まれつきの体質としての「原発性多汗症」と、何らかの薬剤や感染症、甲状腺疾患、糖尿病、膠原病、悪性腫瘍などが原因になって「二次的に生じる多汗症」がありますが、思春期にみられる多汗症の多くは原因が特定できない体質としての原発性多汗症です。
診断は問診で
多汗症の診断は6つの簡単な質問(表1)に答えてもらい、そのうち2つ以上の項目が6ヵ月以上続くようであれば多汗症と診断できます。
また重症度を評価するためには、表2のような4段階のうちスコア3または4であれば多汗症として保険診療を受けることができます。あくまで汗の量ではなく、汗が多いためにどのくらい日常生活に支障があるかで決まります。
QOLの低下-どんなことに困り、
どのように対処しているか
多汗症によって思春期の子どもたちはどんなことに困っているのでしょうか? 具体的には手足の汗が多いと、人と手をつなげない、モバイルタッチ、ピアノや鉄棒が手がすべってできない、試験用紙が濡れて消しゴムが使えない(破れてしまう)、サンダルが履けない、靴下がびしょびしょに濡れてしまうなどが挙げられています。また、わき汗が多いと、汗じみが気になって色のついた洋服が着られない、手を挙げられない、つり革をつかめないといった悩みや、顔や頭の汗が多いと、恥ずかしくて人との対面が苦手、好きな髪型にできない、勉強に集中できないといった声も聞かれます。
しかし、なかには汗が多いことで悩んでいても、口に出すのは恥ずかしいと考え、一人で悩んで親にも言えず、ドラッグストアで自分の小遣いで制汗剤を買い、こっそり付けている子どもも多いようです。
このように、思春期の子どもたちは大人が思っている以上に汗のことで悩み、困っているけれど、どう対処してよいのかわからないのです。実際に多汗症で悩んで医療機関を受診した人の割合はわずか4.6%しかいなかったという大規模なアンケート調査の結果もあります。
治療には、保険診療で処方できる
塗り薬がある
多汗症は現在、皮膚科で治療できる時代になっています。多汗症であると診断されれば、保険診療で処方できる塗り薬が複数あります。汗の量ではなく、どのくらい患者さんが汗で困っていて、日常生活に支障があるかによって、治療方法が異なります。まずは皮膚科を受診して、実情を話せば、医師が薬を処方してくれます。1日1回、脇の下や手足などに薬を塗るだけで、徐々に汗をかく量を抑えられ、汗で困らない日常生活を送ることができるようになりますので、一度受診してみてください。
他にも、保険診療ではない治療法ですが、ボトックスという毒素を注射して汗腺を破壊する方法や、イオントフェレーシスといって弱い電流を手のひらなどに流して汗腺の機能を低下させる方法などもあります。本人とよく話し合って治療法を選択することになりますが、まずは保険診療の塗り薬を使ってみることが第一選択肢になります。
他にも、保険診療ではない治療法ですが、ボトックスという毒素を注射して汗腺を破壊する方法や、イオントフェレーシスといって弱い電流を手のひらなどに流して汗腺の機能を低下させる方法などもあります。本人とよく話し合って治療法を選択することになりますが、まずは保険診療の塗り薬を使ってみることが第一選択肢になります。
また、自分からは言い出せないお子さんに対して、ご家庭や学校の先生方で、多汗で困っていそうだなと感じたら、「皮膚科で相談してみようか」と声をかけてあげてください。ちょっと背中を押していただくことで、一歩踏み出して解決につながることもあるでしょう。
日常生活で気をつけること
汗をかかないように水分制限をする、運動を控えるなどという対処法はお勧めできません。また汗を減らすための特定の食べ物はありません。適度に運動をして、ある程度の汗をかいて、その後シャワーを浴びたり、1日1回は入浴して身体を清潔に保つことが必要です。その後、処方された塗り薬を1日1回塗ることを習慣にすれば、きっと多汗で悩むことがなくなってくると思います。
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