
Vol.6公開:令和7年3月
児童・生徒の睡眠障害
東京都立多摩北部医療センター小児科 部長
小保内 俊雅

はじめに
睡眠の効果として、心身の成長や、傷ついた細胞の修復、記憶の定着、免疫力の活性化などが知られています。睡眠障害とは睡眠に何らかの問題がある状態のことで、睡眠が妨げられると日中の活動に支障をきたし、心と体の健康に影響します。
生活リズムの夜型傾向から睡眠障害へ

近年、日本社会全体の生活リズムは夜型傾向が進行しています。この大人たちの生活様式は子どもたちにも大きく影響していて、子どもの生活リズムを乱す最大の要因だと考えられています。さらに、デジタル機器が子どもにとって身近なものになり、ゲームやスマートフォンを深夜まで手放せなくなったり、学習塾や習い事のスケジュールが過密になるなどして、就寝時刻が不規則になったり後退する子どもたちも見受けられます。
就寝が深夜や明け方になると、必要な睡眠が十分にとれないまま起床時刻になり、すっきり起きられなくなります。睡眠・覚醒リズムが乱れていると、睡眠障害が疑われます。睡眠障害になると、朝の体調がすぐれなかったり、気力がわかなかったりして、登校困難を引き起こすこともあります。生活のリズムが乱れてくると、睡眠障害が徐々に進むという悪循環に陥ります。できるだけ早期に睡眠障害の兆候をとらえ、規則正しい生活リズムを取り戻すように修正する必要があります。

睡眠障害に気づくには
児童・生徒(ここでは小学生・中学生・高校生の年代、概ね6~18歳を指す)の昼の生活状況や睡眠の様子で、異常(表1)が複数見られたら、起床時の様子を振り返ってみましょう。なかなか起きられない、もしくは起床時に体調がすぐれない状態が続くようなら、「睡眠日誌」(※1)を書くことをお勧めします。
「睡眠日誌」は、起床時刻(目が覚めた時刻)、離床時刻(布団やベッドから出て活動を始めた時刻)、入床時刻、入眠時刻を記録するものです。睡眠障害では睡眠覚醒リズムが不規則になりやすいのですが、診療時に口頭で日々の生活の状況を説明するだけでは、医療者が睡眠状況を含む普段の生活リズムを把握するのは難しいため、その時に「睡眠日誌」が役立ちます。また、可視化することにより、本人や保護者が生活リズムの乱れを正確に認識できるようになります。「睡眠日誌」には、起床時刻と離床時刻、入床時刻は正確に記録する必要がありますが、入眠時刻の記録は大まかでかまいません。入眠時刻を正確に書くことに意識が集中すると、寝付けなくなってしまうからです。
※1:「睡眠日誌」で検索すると、テンプレートや書き方が紹介されています。信頼のおける医療機関のものを参考にしましょう。無料のアプリもあります。


睡眠障害の症状・原因・診断
主訴が起床困難の場合には、入眠時の様子を問診し、眠らないのか、眠れないのかを確認します。眠らない場合は、長時間のゲームなどの要因が背景になることが多くあります。眠れないという場合は、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)(※2)や心理的要因を考えます。この場合は、しばしば中途覚醒を伴います。
レストレスレッグス症候群では安静時の足の違和感がポイントです。足の違和感を幼児期から覚えていると、それを異常と感じないことがあるので注意が必要です。成長痛(※3)の既往や、足の違和感を緩和するために無意識に貧乏ゆすりをしてしまう場合は、レストレスレッグス症候群かもしれません。入眠に問題がない場合は、睡眠時無呼吸症候群が考えられます。睡眠中の呼吸音を録音することが診断の参考になります。
家に引きこもりがちな場合には、日に日に生活リズムが後退することがあります。人の体内時計の周期が自然の周期より1時間程度長く設定されているために、毎日少しずつ睡眠時間帯がずれてしまうのです。これは、概日リズム障害フリーラン型というタイプの睡眠障害です。
※2:入眠前や安静にしている時に、脚の内側から不快感が起こり、入眠困難や中途覚醒を生じる。鉄不足の時にもこの症状が起こることがある。
※3:幼児・学童期に、夕方から夜間就寝時にふくらはぎ、ひざ、足首などが痛む。器質的な異常はなく、明らかな原因は不明。
睡眠障害の治療

睡眠障害の治療に際しては、「睡眠日誌」を用いて、本人に生活リズムの乱れを確認してもらいます。次に、自分で理想の生活リズムをデザインしてもらいます。起床時刻を自分で決めることが重要です。起床時刻は9時以前にしてもらいます。翌日からその時刻に起きて日光浴をして、朝食をとってもらい、昼寝をしないこと、夜になって眠気が来たら必ず眠ることを守ってもらいます。この生活を1週間続けることができれば、これが習慣になります。
もしできなかった場合は、入院して生活リズムを習慣化する治療を行い、入院中の1週間はデジタルデトックス(※4)に充てます。この時期には心理的アプローチはしません。生活リズムが乱れていると、脳が正常に機能しないからです。
※4:パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器を使用しないこと。

おわりに
健やかな日々を送るには、規則正しい生活が必要です。「規則正しい」とは、起床時刻を揃えることです。そして、日光浴をして、朝食をとりましょう。「早起き・日光浴・朝食」は大事なポイントで、睡眠障害の予防にも、治療にもなります。
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