白クマ
日医白クマ通信 No.1142
2009年5月26日(火)


第6回医療政策会議
「政治再編の課題としての社会保障」について講演

第6回医療政策会議


 第6回医療政策会議(議長・田中滋慶大大学院教授)が5月20日、日医会館で開催され、山口二郎北大大学院教授が、「政治再編の課題としての社会保障」と題して、講演を行った。

 山口氏は、まず、最近の政局の動きについて解説。その後、昨年秋以降、構造改革による矛盾が露呈し、市場原理主義がもたらす弊害について幅広く国民が理解するようになったという意味では、社会保障の立て直しを主張してきた者には追い風が吹き出したとの現状認識を示した。そのうえで、アメリカ大統領選挙を例に、変革期における政治の重要性を強調。「日本では、構造改革の破綻が明確化し、貧困や失業などが深刻化するなか、相互扶助や社会的な連帯の可能性が見えてきた」と述べた。

 次に、日本は社会的な基盤が脆弱であり、これは政策形成システムに根本的な欠陥があるのではないかと指摘。1990年代の日本の経済対策について、大蔵(現財務)省の表面的健全財政主義によって当初予算の規模が抑制され、年度途中の補正予算による景気対策では中身を問わない予算配分と、予算消化の自己目的化が行われたため、140兆円もの追加景気対策にもかかわらず、目に見える成果がないと説明。この「90年代の教訓」として、(1)財務官僚の近視眼的健全財政主義が経済を悪化させる、(2)政策の優先順位に踏み込んだ政治的指導力が不可欠、(3)各省庁に政策対応を指示しても、良い知恵は出てこない―の3つを挙げた。そして、この教訓は、現在審議中の補正予算にも当てはまり、的外れの経済対策であると批判した。

 さらに、日本は、世界的金融、経済危機に巻き込まれた面はあるが、実は、小泉構造改革による経済社会の疲弊、つまり基礎体力の消耗こそが経済危機の真因であり、この二重の危機によって深刻化していると解説。そこで、本当の意味での経済対策とは何かの議論が必要であり、そのなかで「社会保障の再構築」が非常に重要なテーマとして浮上してくると強調した。そして、経済対策の手順としては、1)構造改革の誤りを率直に認める、2)新しい基本的価値を明確にする、3)必要な政策に十分な資金を投入する―ことだとした。

 また、現在は需要と供給のミスマッチが深刻である公共サービスの供給原理を、供給の対象を絞り込んでいく「採用試験型」から、一定基準を満たせば政策的サービスを提供する「資格試験型」に転換すべきであり、それに対する合意が得られれば、おのずと財源論議は展開していくとして、国民全体が負担しながら普遍的なサービスを提供していくとの方向で議論を発展させていかなければ、社会保障の再構築は出来ないのではないかとの考えを示した。

 最後に、普遍的政策によるリスクの社会化に軸を移していくことを争点にすべきであるとの持論を展開。今後の総選挙での政治再編の可能性のなかでも、社会保障の再構築という課題について、国民的な合意を作っていくことは可能であり、その方向で議論していくべきだと強調した。

◆問い合わせ先:日本医師会総合医療政策課 TEL:03-3946-2121(代)


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