白クマ
日医白クマ通信 No.1209
2009年11月30日(月)


第9回医療政策会議
「社会保障の役割と国民負担率」について講演

第9回医療政策会議


 第9回医療政策会議(議長・田中滋慶大大学院教授)が11月25日、日医会館で開催された。当日は、これまでの勉強会の最後として、田中教授が、「社会保障の役割と国民負担率」と題して、講演を行った。

 田中氏は、初めに、19日に開催された社会保障審議会医療部会での診療報酬改定に関する議論について触れ、前回改定においても、勤務医支援など重点分野への配分を行ったが、疲弊感は解消されていないとして、勤務医問題は、その所得が問題なのではなく、急性期医療における入院日数の短縮や医療密度の高まりと、医療安全・医療IT・インフォームドコンセント・手術同意書など、医療以外のさまざまな業務にかかる時間が増えたことによる労働状態が問題であると指摘。さらに、急性期医療では、病床当たりの従事者数と有形固定資産が共に増え続け、病院運営のためのコストが増えているのだから、問題解決のためには、医療費の総枠を増やし、入院基本料といった診療報酬の仕組みを考えるべきであり、急性期医療を支える地域医療を含めた、全体の議論を進めていくことが重要だとした。

 次に、税社会保障負担の議論のためには、マクロ経済を見る必要があるとし、日本は、著しい需要不足に陥っており、デフレとロストジェネレーションが懸念される状況だと説明。しかし、金融システムは壊れておらず、技術力も低下していないとして、国債の発行額に固執して需要不足を生むべきではないとした。

 そのうえで、『社会保障と経済社会』(東京大学出版会)の第2巻『社会保障と経済・財政』II部「社会保障の財政・税制」に執筆した「(3)社会保障の役割と国民負担率」を基に解説した。

 「国民負担率」とは、租税社会保障負担額の対マクロ経済比であり、対国民所得比でその推移を見ると、平成元年の38.4%までは上がり続けたが、平成21 年が38.9%と、その間ほとんど変わっていない。さらに、国際比較においても、OECD加盟29カ国中25位と下から5番目の低さである。

 また、負担率の大小とマクロ経済および社会保障について、「厚生白書1995 年版」や「経済財政白書2003年版」からの引用を示し、税社会負担、国民負担率は文化的・社会的・歴史的背景を踏まえて人々が選んだ、社会の在り方にかかわる意思決定がもたらした結果の指標であり、経済活力や、国民生活の豊かさの違いと関連付けることに意味はないとした。

 さらに、縦軸に負担率、横軸に給付水準をとって「税社会保障負担と給付(福祉)水準」を表す図として示し、日本は、中負担中福祉にほころびが出始めて、低負担低福祉に近づいているとした。

 また、資源配分方法には、(1)市場経済 (2)組織内での配分 (3)政府にしか出来ない公共財 (4)公益のための価値財 (5)自助・互助・共助・公助―があり、それぞれ、市場・公的・公益セクターに属する。医療・介護・教育・保育は価値財であり、公益セクターに属する。上位目的は分野ごとに異なり、効率的資源配分とは上位目的が効率的に達成できたかどうかで、経済学的には、宇沢弘文先生の「社会的共通資本」がこれにあたる。公益セクターのガバナンスは、平常時は損益ベースで提供可能であるが、災害時など非平常時(収入がない時)にも地域不特定多数に対し供給が求められ、この分野の経済学的特徴としては、上位目的を効率的に果たすために、適切な機能分化と協調・連携、ライバルとも協力する点を挙げた。

 そして、この公益セクターの分野(基本的に社会保障と教育分野)が大きくなってくると、当然、その財源としての税社会保障負担の在り方も変わり、大きくなってくる。

 国民負担を減らすには、利用時の強制徴収を増やすしかないが、それでは、経済学的に、所得階層によって異なる“価格弾力性”を通じて、主に弱者に負担が掛かる。特に医療では、身体的・経済的に弱い人に集中してニーズが発生しており、ニーズのある弱者に負担が多くなってしまうと指摘。したがって、価値財であり、公益セクターに属する社会保障は、市場による資源配分の効率だけでは追求出来ないため、経済を超えた価値観、社会の存続に対する、もっと上位の概念からの発想で、政府に委ねたものであると強調した。

◆問い合わせ先:日本医師会総合医療政策課 TEL:03-3946-2121(代)


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