|
第4回第XII次生命倫理懇談会 「小児生体肝移植」と「非血縁造血幹細胞移植」に関するヒアリング |
原中勝征会長のあいさつの後、「小児生体肝移植の現況」と題して講演した河原秀夫小山市民病院長(自治医科大学移植外科)は、スライドを用いて、まず、肝臓の移植部位や手法、生体肝移植が臨床に適用出来るようになるまでの自身の動物実験の経過、切り分けたドナーの肝臓をレシピエントの肝臓に吻合する手術の様子などを解説した。 そのうえで、日本における生体肝移植件数の推移を示し、当初、小児例を中心に行われていた生体肝移植が成人にも適用されるようになり、1989年から2009年までに5,653例(成人3,573例、小児2,080例)が行われたことを報告。なお、脳死下における肝臓の臓器提供・移植件数(1997年〜2011年)については、97例に留まっているとした。 生体肝移植レシピエントの累積生存率については、1年生存率が成人80.5%、小児87.9%、5年生存率が成人71.7%、小児84.9%、10年生存率が成人65.4%、小児82.2%と小児の方が高く、技術的に難しい新生児における生体肝移植においても好成績が得られるようになってきたことを説明。 また、自治医科大学移植外科を取り上げ、18歳未満の小児に特化した移植施設という特徴を持つ同施設においては、0歳、新生児の症例も含めて好成績で、胆道閉鎖症に対する肝移植数やレシピエントの10年生存率等いずれも我が国最高の数値を示していることなどから、日本の小児肝移植の拠点病院として確立されているとした。 質疑応答では、生体ドナーの死亡例からドナーの安全性、提供意思の自発性等ドナーの権利の保証について話し合われた。また、日本の脳死肝移植数が生体肝移植数の約1%という実績に対して、健康な人から肝臓を摘出するという医療は非倫理的だという考え方がある一方、日本の生体肝移植の成績が他国に比べて良いことから、外国人を受け入れる医療ツーリズム構想も一部に見られ、今後、日本の臓器移植がどのような方向に向かっていくのかという課題も浮き彫りにされた。 続いて、「非血縁造血幹細胞移植の生命倫理」と題して講演した正岡徹委員(骨髄移植推進財団理事長)は、造血幹細胞移植には、(1)骨髄、(2)末梢血幹細胞、(3)臍帯血―の3種があり、2008年の1年間に、非血縁の骨髄移植が1,104例、臍帯血移植838例、血縁者間の骨髄移植が456例、末梢血幹細胞移植が517例行われ、今年3月には、日本でも非血縁の末梢血幹細胞移植の一例目が実施されたことを説明した。 生命倫理の問題としては、ドナー・レシピエント双方の健康被害の防止があるとし、レシピエントに疾病を持ち込まないよう、ドナーには既往歴や健康状態などさまざまな除外条件を設けていることを紹介した。 一方、ドナーが骨髄と末梢血幹細胞を提供するに当たっては、採取傷による痛み、吐き気、倦怠感などの合併症を伴う可能性があることから、採取前の管理や終了後のフォローアップの体制を整えているとした。ドナーに健康被害が出た場合の医療費は、レシピエント、移植病院、採取病院、骨髄移植推進財団が話し合いのうえ負担することになっているとし、1995〜2010年に骨髄バンク団体保険の適用になったのは112件で、このうち17件は後遺障害が残ったことを説明した。 正岡委員は、「骨髄提供者のアンケートでは、『もう一度提供を依頼されたら?』という質問に77%が『提供する』と回答しており、非常にありがたい」と述べるとともに、東日本大震災の混乱のなかでも、予定されていたすべての移植が無事に完了したことを報告した。 質疑応答のなかで正岡委員は、「非血縁者間の末梢血幹細胞移植は日本では始まったばかりだが、世界的には骨髄、臍帯血を合わせたよりも多くの数が実施されている。末梢血幹細胞移植の進展のためにも、末梢血を採る病院を年内に100施設ほど認定したい」との意向を示した。このほか、ドナーの採取後の後遺症状の訴えで、因果関係が全くないと思われる場合への対応、移植後、患者の病気が再発した場合の再移植の問題などを課題に挙げた。 ◆問い合わせ先:日本医師会企画課 TEL:03-3946-2121(代) |
日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/ Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved. |