白クマ
日医白クマ通信 No.1633
2013年1月30日(水)


第3回第XIII次生命倫理懇談会
「母体血を用いた出生前遺伝学的検査を中心に出生前診断に関しヒアリング」

第XIII次生命倫理懇談会


 第3回生命倫理懇談会(座長:久史麿日本医学会長)が1月24日、日医会館で開催され、「出生前診断」を巡ってヒアリングと質疑応答が行われた。

 左合治彦国立成育医療研究センター周産期センター長は、「出生前診断―母体血を用いた出生前遺伝学的検査を中心に―」と題し、NIPT(Non-Invasive Prenatal Genetic Testing;無侵襲的出生前遺伝学的検査)の中の「母体血胎児染色体検査」を中心に、(1)検査の原理、(2)検査の精度、(3)臨床研究と問題点、(4)日本における遺伝学的出生前診断の現状、(5)染色体異常・人工妊娠中絶、(6)展望―について講演した。

 母体血胎児染色体検査は、母体血中に存在するDNA断片の約10%が胎児由来であることから、次世代シークエンサーという新しい技術を用いて特定の染色体数の異常を検出するもので、あくまで精度の高い非確定的検査であると説明。NIPT研究の背景としては、1.同検査が臨床サービスとして2011年10月に米国で開始され、日本への導入が不可避の状況である、2.母体採血だけと安易に出来るため、専門家以外も行うことが可能である、3.不十分な遺伝カウンセリング体制下で行われると、誤った解釈により妊娠継続の有無を判断するため大きな混乱を生む、4.近い将来、その他の染色体異常や種々の遺伝性疾患が母体血で診断出来るようになるため、準備が必要である、5.十分な遺伝カウンセリング体制の下で臨床研究として開始することが望まれる―ことを挙げた。

 また、自らも発起人の一人となった、専門家の自主的組織NIPTコンソーシアムが、NIPTを適切に運用するための遺伝カウンセリングの基礎資料を作成することを目的に、「無侵襲的出生前遺伝学的検査である母体血中cell‐free DNA胎児染色体検査の遺伝カウンセリングに関する研究」を計画し、36施設が研究参加、20施設以上が研究実施予定であることを説明。その上で、NIPT研究の基本的な考え方は、「マススクリーニングとして行わない」「適切な遺伝カウンセリング体制を整備する」「染色体異常児を産む選択をサポートする」ことであるとした。

 更に、妊娠11〜13週に胎児のNT(Nuchal Translucency;後頸部浮腫)を計測し、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー、ターナー症候群等の染色体異常のリスクを判定する超音波検査や母体血清マーカー検査などの無侵襲的検査・非確定的検査と、絨毛採取や羊水穿刺などの侵襲的検査・確定的検査についても触れ、高齢妊娠の増加に伴い、これらの出生前診断は日本で現在、増加傾向にあるとした。一方、胎児適応がなく、ほとんどが正常胎児であるという人工妊娠中絶の矛盾に対する検討の必要性も示した。

 先進諸国と比べて、わが国の出生前遺伝学的検査率は低く、「母体血清マーカー検査の利点・欠点を説明し、妊婦は検査を自発的に受けるかどうかを決める(米国産婦人科医会 ACOG 1996)」「全ての妊婦、母体年齢にかかわらず、胎児染色体異常スクリーニング検査を20週前に提供する(米国産婦人科医会 ACOG 2007)」とされ、受けない権利も認めている米国と比べ、日本では、「医師は妊婦に対して本検査の情報を積極的に知らせる必要はなく、本検査を勧めるべきではない(厚生科学審議会先端医療技術評価部会 1999)」と否定的であったものの、昨年、日本産科婦人科学会が発表した見解では、「産婦人科医が妊婦に対して母体血清マーカー検査を行う場合には、適切かつ十分な遺伝カウンセリングを提供出来る体制を整え、適切に情報を提供することが求められている」とされたことを紹介した。

 左合センター長は、出生前診断を“受ける権利”を認めている日本においては、他の検査も含めNIPTをどのように使用するか検討することが重要であり、そのためには、一般臨床の前に、臨床研究が必要であるとした他、NIPTが社会的な問題となっている主な原因は、今まであいまいにされてきた日本における出生前診断のあり方にあると指摘。抑圧する態度から、正確な情報提供と遺伝カウンセリング体制の整備への転換が必要であると強調した。

 質疑応答では、「出生前診断に精通した臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラーが複数名所属し、専門外来を設置し診療している」等のNIPT臨床研究実施のための施設条件では大学病院に限られるのではないかとの指摘や、末梢血で出来るという、従来の出生前診断との決定的な違いがあるため、日本産科婦人科学会のみでなく、日医・日本医学会が全体として取り組むことを求める意見などが出された他、報道のあり方、遺伝カウンセリングの体制整備状況や人材育成、十分かつ適切な情報の提供、決して誘導せず後悔のない選択をサポートすることや遺伝カウンセリング時の医師の姿勢の重要性、社会制度や社会保障のあり方等を巡って意見が交換され、最後に、久座長が、遺伝カウンセラーの数も限られているとして、「日本産科婦人科学会としても積極的に産婦人科医全体へのカウンセリング教育をしていただくことが必要ではないか」と述べた。

◆問い合わせ先:日本医師会庶務課 TEL:03-3946-2121(代)


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