白クマ
日医白クマ通信 No.296
2005年12月8日(木)


櫻井副会長・松原常任理事
政府・与党医療改革協議会の「医療制度改革大綱」について記者会見

記者会見


 政府・与党医療改革協議会は、12月1日、「医療制度改革大綱」を決定した。大綱には、「新たな高齢者医療制度の創設」「レセプトのIT化等の推進」などが明記されたほか、診療報酬改定については「引き下げの方向で検討し、措置する」とされた。また、日医がその導入に反対していた「保険免責制」「医療給付費の伸びを経済指標に合わせること」などは書き込まれなかった。

 これに対して、櫻井秀也副会長と松原謙二常任理事は、12月6日、日医会館で記者会見を行い、大綱に対する日医の見解を次のように説明した。

 先般、政府・与党医療改革協議会が『医療制度改革大綱』を公表した。

 この大綱は平成17年10月19日に示された「厚生労働省試案」に、内閣府からの経済的な側面を追加・修正したものであり、“国民不在の医療制度改革大綱”といっても過言ではない。

 日医は国民医療を担う立場として、国民のための視野から「医療制度改革大綱」について以下の問題点を指摘したい。

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◇1.医療費適正化の総合的な推進

国は医療保険制度によって、国民に必要かつ十分な医療を給付することにより、憲法で保障した国民の健康権を守っている。
今回の「医療制度改革大綱」は、経済財政のみを重視した国民不在の大綱といわざるを得ない。
将来の医療給付費の規模の見通しに、対国民所得比や対GDP比を指標として示し、厚生労働省及び経済財政諮問会議等で検討すると規定している。しかも、一定の増加が見込まれる場合は、その要因を検証し、施策の見直しの必要性について検討すると明言している。
国が医療費適正化について基本方針を示し、それに基づき都道府県に医療費適正化政策の計画実行を行わせ、その計画の確実な実施のためには、都道府県別の診療報酬の特例について国と都道府県で協議し、国が措置するとあり、これは運用によってはまさしく伸び率総枠管理となり、国民は必要な時に必要な医療が受けられなくなることが予想される。国民皆保険制度の崩壊に繋がり、国民の健康権を守る立場から反対である。さらに、都道府県別の診療報酬の特例は、だれもが平等に医療を受け、国民全体で支えあうという国民皆保険の理念に反するものである。

◇2.患者負担増等について

財政のつじつま合わせの以下の負担増に反対である。
 ・高齢者の患者負担の引き上げ
 ・療養病床における食費、居住費負担
 ・高額療養費の自己負担限度額の引き上げ
 ・人工透析患者の自己負担額限度額の引き上げ

◇3.レセプトオンライン化について

医療の適切なIT化については日医も賛成し、促進すべきであると考える。しかし、レセプトのオンライン化については、個人情報の保護、費用の問題等をはじめとして解決すべき課題が多く、現時点での義務化は時期尚早である。

◇4.医療費の詳細を記した領収書の義務化について

医療情報の提供は、当然推進すべきである。しかし、現在の診療報酬体系はきわめて難解であり、まず解り易い診療報酬体系とすることが先決である。現時点における義務化は混乱を引き起こす可能性が高い。

◇5.中医協の見直しについて

中医協の見直しについては、国会で承認された公益委員が中心となって取りまとめた「中央社会保険医療協議会の在り方の見直しについて」(平成16年10月27日 中医協全員懇談会了解)や、中医協の在り方に関する有識者会議の報告「中央社会保険医療協議会の新たな出発のために」(平成17年7月20日)を受けて適切に動き出した状況をまったく無視し、突如、団体推薦規定を廃止するとしたことは大変遺憾である。
内閣府は、団体推薦の廃止と委員数を変更し各側同数となるよう指示し、当初は「6:6:6」とのことであった。
本会は、医療現場からの意見がまったく無視され、厚生労働省が恣意的に委員を任命することとなり、国のコントロール化が強化される懸念があることから、団体推薦枠の廃止については一貫して反対してきたところである。さらに、委員数を変更することは、中医協における適切な議論のためには、受け入れることができない。
与党協案が「6(公益側):7(支払側):7(診療側)」となり、「委員任命に当たっての、地域医療を担う関係者等の意見の配慮に関する規定を設ける」という文言が入ったことは一応の評価に値する。

◇6.診療報酬改定

医療の安全確保、医療の質の向上、小児医療・産科医療等へ対応を行うためには、医業経営基盤の安定が必要不可欠である。
国民医療という視点から、国民が安心して良質な医療を受けられるために、良質な医療を、継続して安定的に提供することが必要であり、特に、医療の安全と質の向上を確保するための医療従事者の人件費の確保が必要である。
そのためには、最低限、人件費確保のための3%以上の診療報酬プラス改定が必要である。
しかるに、財政の視野のみに徹した診療報酬の検討は、国民の安全を犠牲にするものであり、受け入れることはできない。

◇7.まとめ

以上の点から、今回の政府・与党協の「医療制度改革大綱」は、世界に誇れる国民皆保険制度の崩壊を導く恐れがあることから、国民が安心して、どこでも受けられる医療提供体制を早急に整え、国民が納得するものを構築できるよう再検討することが急務である。
法案作成に当っては政権与党としての責任を十分果たし、対処することを望むものである。

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