白クマ
日医白クマ通信 No.401
2006年5月18日(木)


茨城県医師会 座談会「萎縮医療に陥らないために」(抜粋)

 5月10日、茨城県医師会で行われた座談会「萎縮医療に陥らないために」の模様(抜粋)をお伝えします。(No.397で、概要は既報)

1.福島県立大野病院産婦人科医逮捕事件について
 福島県立大野病院産婦人科医師の逮捕刑事起訴は医療界に大きな衝撃をもたらした。医療を担う医師が何ら事前の連絡もなく、外来診療中に犯罪者の如く逮捕された。起訴理由は、第1に業務上過失致死(刑法第211条)と、第2に医師法違反(医師法第21条異状死の届出義務)である。

 外科系・産婦人科系諸団体より猛烈な抗議声明と当該医師および支援団体への支援が展開され、マスコミも大きく報道している。大学関連病院で産婦人科が一人しかいない132の施設では、分娩からの撤退を余儀なくされ、分娩医療機関の減少および重症患者・救急患者の受け入れが困難となり、萎縮医療に陥っている。

 問題は医師法21条の解釈である。医師法21条は昭和23年7月に制定されたものである。当初の立法趣旨は「医師が犯罪の発見と公安の維持に協力すること」であった。

 茨城県医師会は「福島事件に対する抗議声明文」を出すと共に、日本医師会に「異状死の定義(警察への届出が必要な症例の特定)と中立的異状死判定機関の創設」を求める要望書を提出した。

<異状死に関する各学会の解釈>
(1)「異状死」ガイドライン:日本法医学会/平成6年5月

 診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの。注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中、または診療行為の比較的直後における予期しない死亡。診療行為の過誤や過失の有無を問わない。

(2)診療に関連した「異状死」:(社)日本外科学会声明/平成13年3月
 日本法医学会のガイドラインに対する抗議声明である。

(3)「診療行為に関連した患者の死亡・障害の報告」についてのガイドライン:外科関連10学会協議会/平成14年7月
 何らかの重大な医療過誤の存在が強く疑われ、または何らかの医療過誤の存在が明らかであり、それらが患者の死亡の原因となったと考えられる場合には、診療に従事した医師は、速やかに所轄警察署への報告を行うことが望ましい。

(4)中立的専門機関の設置 19学会/平成16年9月30日
 医療行為に関連した患者死亡の届出を受け、死体解剖を含めた分析と検証を行う中立的専門機関の設置が必要であり、その創設を速やかに実現するため、19学会が結集して努力すると決意。

(5)それを受けて、厚労省で「医療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を開始したと受け止められる。

2.医療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業について
 厚労省が推進するモデル事業で平成17年9月より開始された。全国(東京・大阪・愛知・兵庫・茨城・新潟)で15件の取り扱いがあった。しかし、従来通り、医師法21条の解釈があいまいなまま警察への届出が本事業よりも優先され、法医・病理・臨床医による解剖と死因の究明さらに事故防止対策というこのモデル事業の役割が生かされていない。

3.無過失補償制度について
 脳性麻痺と無過失補償制度創設に関しては日本医師会前執行部が取り組んだ。現執行部もこれを引き継ぎ、国会議員、地方議員などに設立への働きかけをすることになっている。産婦人科医療は脳性麻痺を主とした紛争・医療裁判が多く、臨床研修医及び医学生が産婦人科を志望しない要因となっている。当面、脳性麻痺を先行するが将来は全医療を対象とする。社会保障制度が充実した北欧は既にこの制度を取り入れている。

4.茨城県医療問題中立処理委員会について
 医事紛争の中には患者側の誤解により発生するものもある。現在、医事紛争が発生した場合、会員の要請により医師会内に医事紛争処理委員会が開かれているが、外部から見れば、医療側に偏っているとの誤解を受ける可能性がある。特に、患者側にとっては、医療側に過失ありとの裁定がなされた場合でも満足できず、ましてや過失がないとの裁定の場合は、度重なる要求も起きている。まず、紛争を解決するために、患者側・医療側双方が胸襟を開いて真摯に話し合い、互いの誤解を解くことができる場(中立委員会)を設けることが必要であり、茨城県医師会が中心となり、全国に先駆けて「茨城県医療問題中立処理委員会」を立ち上げた。今後の成果が期待される。

(文責:茨城県医師会常任理事 石渡 勇)


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