白クマ
日医白クマ通信 No.613
2007年3月16日(金)


第5回医療政策会議
「神野直彦東大教授が日本の社会保障について財政学の見地から講演」

第5回医療政策会議


 第5回医療政策会議(議長・田中滋慶大大学院教授)が3月7日、日本医師会館で開かれ、神野直彦東大大学院経済学研究科教授が「日本の社会保障への財政学からのアプローチ」と題して講演を行った。

 冒頭、挨拶に立った唐澤人会長は、医療をとりまく様々な問題の根底には医療費財源の問題があるとして医療政策について転換を図る必要性を強調し、「わが国の経済状況は上向いているというが、諸外国に比べると明らかに医療政策は低いレベルにある。これをつまびらかに証明し、説明を求めていきたい」と述べた。

 続いて講演を行った神野教授は、「産業構造の変化により、男性中心の重化学工業を基盤とする福祉国家が成り立たなくなった」として、租税と現金給付による事後的所得再分配の限界を強調。今日では、知識社会化による雇用構造の変容に伴い、これまで家庭内労働を引き受けていた女性が労働市場へ進出するようになったが、医療・福祉・教育などの公共サービスの充実こそがその前提条件であり、結果的には事後的な再分配の必要が減るとした。 第5回医療政策会議

 一方、政府の支出は「経済・公共」に重きが置かれ、「文化・教育」や「保健・社会保障」はおざなりであると指摘。日本と対称的に、社会保障支出を手厚くしてきた北欧諸国が、ここにきて日本より高い経済成長率を誇っていることをあげ、「日本は1985年に世界で最も豊かな国になった。そのとき日本は、次はどのような社会が到来し、どういうインフラが必要で、どういうセーフティネットを張らなくてはいけないかを考えなくてはならなかったのに、それを怠ったため“失われた90年代”になってしまった」と述べ、財政再建の名の下に公共サービスが切り捨てられている現状に警鐘を鳴らした。

 質疑応答では委員から様々な質問が出され、人口減少社会の社会保障制度について、神野教授は「少子・高齢社会を社会の共同事業として乗り越える決意があるなら、今こそ医療や福祉などを充実させ準備しなくてはならない」と強調した。

◆問い合わせ先:日本医師会情報企画課 TEL:03‐3946‐2121(代)


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