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日医ニュース1120号 オピニオン ―各界有識者からの提言― |
「世界一の医療を守るには」 日医ニュースでは、各界の有識者より、医療に対する提言を頂いております。 |
─「混合診療自由化」は国民皆保険を破壊する大きな罠─ 菊池英博(日本金融財政研究所長) |
1994年から始まった、アメリカから日本への「対日年次要望書」によって、アメリカ側から「混合診療の認可」と「公的医療費の圧縮」が要望されており、これに便乗して社会保障関連の財政支出を削減しようとしたのが、政府・財務省である。小泉内閣は「構造改革」と称して、デフレが進んでいる時には絶対にしてはならない緊縮財政(投資関連支出・地方交付税交付金の削減)を強行し、デフレの結果、増加した不良債権を加速処理することによって、実態経済を極端に萎縮させ、税収が大幅に落ちこんでしまった。このツケ回しが定率減税の廃止(3.3兆円の所得税アップ)であり、医療費の増加が財政赤字の原因であると財務省が宣伝して、消費税を引き上げようとしている。 しかし、「社会保障関連の増加が財政赤字の原因である」という財務省の主張は、事実に反する。GDP(国内総生産)に占める政府の医療費支出が日本よりも大きいイギリス、ドイツ、フランスなどの方が、日本よりも財政状態(財政赤字のGDP比)が良好なのである。つまり、日本にとって、医療費の増加が財政赤字の原因ではないのに、医療費の増加にこじつけて、「構造改革失敗のツケ」を医療費圧縮に回してきているのである。 |
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●混合診療自由化が国民皆保険を破壊する。認めてはならない。
政府は、イギリスで失敗し、アメリカでさらに医療システムを崩壊させている市場原理型医療システムを強引に日本に導入しようとしており、その突破口として、混合診療を全面的に自由化させようとしている。導入推進者は、「混合診療を認めれば、未承認の新薬や治療法を利用しやすくなる」と有利な点を強調する。
しかし、実態は、「自由診療」分野(保険外診療)で扱う厚生労働省が認可していない医術や薬品は、製薬会社や病院が自由に価格を決めるため、より利益の上がる商品となる。これによって、診療費は高騰する。保険会社は自由診療向け保険といった新種保険を開発するなど、外資系の保険会社、製薬会社が中心となって、医療保険に対する公的支出を削減しろという圧力を掛けてくる。つまり、混合診療は市場原理型医療への突破口となるのだ。そうなると、「健康と人命には貧富の差がない」という国民皆健康保険が崩され、「貧乏人は医者にかかれない」ことになる。混合診療の自由化要求は、国民皆保険制度破壊を狙う罠であり、絶対に認めてはならない。
●後期高齢者医療制度は国民皆保険崩壊への決定的第一歩、早急に凍結。
「後期高齢者医療制度」は、75歳以上の高齢者1,300万人を今までの健康保険制度から分離し、「介護保険料」に加えて、全員から保険料を徴収する「新しい保険制度」である。その特徴は、(1)今まで家族の扶養家族として保険料を支払っていなかった人まで年金から天引きで保険料を徴収される(2)保険者は、地域的広域連合(都道府県単位)になり、医療費支出が大きい地域ほど加入者の保険料が高くなる仕組みになっている(3)各地域連合ごとに保険料が違い、二年で財政均衡を目標としており、高齢者が多い地域ほど、保険料が高くなるであろう。この方針こそ、国民皆保険を崩すものだ(4)「医療費の適正化」という建前のもとで、「主治医制度」を設け、主治医の診療報酬は「月額6,000円」に制限され、患者が別の医師に診療を求めにくくなり、また必要な検査が制限されることになるであろう。
後期高齢者医療制度は、日本が財政危機ではないのに、市場原理型医療システムを導入して、高齢者の「心と命を犠牲にして国民医療費の抑制を図ろうとする」政策である。
●こうすれば世界一の医療システムを堅持できる。
提案(1)2006年6月の「医療制度改革法案」を全面的に凍結する(2)混合診療の認可を絶対に認めない(3)当面の医師不足対策として、早急に看護師・勤務職員といった医療職以外の人員の倍増を図る(アメリカには、この種の職員が日本の十倍いる)(4)日本の医療費のGDP比率は8%であり、OECD加盟国平均9%より1%(5兆円)少ない。早急にこのギャップを埋め、短期間に診療報酬を増額し、さらに十年単位の計画として、病院の近代化、看護施設の充実、高齢者の医療施設の開発など、新規分野への医療費を増やす(5兆円)。
これらの資金は、われわれ国民の預貯金と政府保有の金融資産を活用していけば、増税なしで調達できるのだ。こういう政治と政策が望まれる。
(菊池英博 東京大学卒。旧東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)を経て、文京学院大学教授。衆参両院の予算公聴会で「積極財政が日本を救う」と公述。2007年4月より現職・経済アナリスト)
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