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平成27年(2015年)12月20日(日) / 日医ニュース

ある街(まち)医者の四半世紀

 30歳代半ばに、ふとしたきっかけで開業医の道を選んだ。その頃の患者の年齢は当然ながら年上の方たちが大半であった。オフィス街という場所柄働き盛りのサラリーマンやOLが多く、「こんな若造で本当に大丈夫なのか」と胡散臭(うさんくさ)そうな目線をひしひしと感じ、冷や汗をかきながら無我夢中で診療をしていたのを思い出す。
 もし私が患者だったならどうしてもらいたいか、どうしたら満足してクリニックを後にできるかと開業当初から考え心掛けていた。数年が経つと、癌(がん)の診断や生活習慣病を診るのは勤務医と同じだが患者の病気に影響を及ぼす生活や人生も積極的に診る、つまり病気を診るだけではなく病気を持つ人を診るのが開業医の使命なのだと、ぼんやりながら見えてきた。
 四半世紀の年月が経つと人々は変わる。当時から通う患者の多くは高齢化のため足腰が弱くなっているが、律儀に遠くからでも通ってくれている。「最後まで元気でいたいから検査や薬が必要」と言って来院する90歳を超える方もいる。一方現役のサラリーマンだった男性は退職し暇を持て余す。女性は家庭と仕事の両立に悩む。配偶者を亡くして一人暮らしになったり、毎日が親の介護の方もいる。そうするうちに私は老若男女の職場や家庭の人間関係から生じる心の相談や診療もするようになった。
 「体調はいかがですか」「私が死ぬまで元気でいてくださいね」と診察の帰り際、患者から言われることが最近続いた。健康を気遣われるほど具合が悪そうに見えるのかなと一瞬ドキッとしたが、「私は元気ですよ、これからも頼りにしていますよ」との感謝と励ましの言葉なのだろうと好意的に解釈している。そして医師としてこれからも進化していこうと、思いを新たにすることしばしばである。

(文)

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