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令和元年(2019年)12月5日(木) / 日医ニュース

―ワーク・ライフ・バランス:課題とその解決手段―

―ワーク・ライフ・バランス:課題とその解決手段―

―ワーク・ライフ・バランス:課題とその解決手段―

 「第7回人間を中心とした医療国際会議」〔人間を中心とした医療国際組織(International College of Person Centered Medicine:ICPCM)、日医共催、日医産業保健委員会協力〕が「ワーク・ライフ・バランス:課題とその解決手段」をテーマとして、11月2日に日医会館大講堂で開催された。
 会議には日本を含め11カ国、22名の海外参加者を含む約370名の参加があった。

開会セッション

 冒頭のあいさつに立った横倉義武会長(世界医師会(WMA)元会長)は、医師の勤務環境におけるWell-Being、燃え尽き症候群、ワーク・ライフ・バランスの問題は、各国共有の喫緊に取り組むべき課題に位置付けられていると指摘。多数の諸外国の関係者が出席する本国際会議においてグローバルな視点から議論がなされることで、医師の働き方改革に重要な示唆を与え、実り多い成果が上がることに期待を寄せた。
 続いて、ジョン・スネーデル国立レイキャビク大学老年医学教授/ICPCM会長/WMA元会長は、医師の燃え尽き症候群が増加傾向にあり、注目を集めているとした上で、「現在の医療システムにおける市場主導型の解決手段に加え、現代医学の断片化された技術開発により、医師と患者の関係は危険にさらされている。医師の中心的な役割に立ち返り、多面的な問題に対処し、解決策を示す必要がある」と述べた。
 次に、KKアガラワル アジア大洋州医師会連合(CMAAO)会長は、医師の燃え尽き症候群がCMAAO加盟19カ国の共通課題となっており、アジアにおいても医師の長時間勤務が問題となっていることなどに言及。CMAAOとしてアジア向けのガイドラインを作成したいとの考えを示し、「医師自身が幸せでないと患者を幸せにできない」と述べるなど、日本語を交えたあいさつを行った。

セッション1

 「人間中心の医療の概念、ワーク・ライフ・バランス及び燃え尽き症候群」をテーマとしたセッション1では、まず、ジュアン・メジッチ マウントサイナイ・アイカーン医科大学精神学教授/ICPCM事務局長が、生命・健康を守る活動の歴史や人間を中心とした医療(Person Centered Medicine:PCM)の中核的概念等を説明するとともに、人間を中心とした健康と生活を理解する上で、中心的役割を果たすWell-Beingの価値を強調した。
 ワーディ・ファン・スターデン プレトリア大学健康科学倫理・哲学センター長/ICPCM理事は、PCMの範囲や仕事について説明した上で、「PCMは、雇用者と従業員の両者による積極的投資を通じて、患者や医師が生き生きと暮らすことのできる、健康的な労働環境へのアプローチを提供する」と述べた。
 堤明純北里大学医学部公衆衛生学教授は、日本におけるワーク・ライフ・バランスの定義や働き方改革の背景と医師の課題を報告した。
 イフサン・サロウム マイアミ大学精神学・行動科学終身教授/ICPCM理事は、燃え尽き症候群の定義や症状を紹介した上で、疾病分類としての限界があることを指摘した。

セッション2

 二つ目のセッションは、「医療専門職における労働時間と働き方改革の国際比較」をテーマとして、まず、ミゲル・ジョルジュWMA会長/ブラジル医師会理事が、2019年7月にランセットに掲載された医師のバーンアウトに関する論説を紹介した上で、この問題に関するWMAの活動として、2015年に「医師のWell-Beingに関するWMA声明」を採択し、各国医師会へ向けて勧告を発表したことを報告した。
 ラミン・パルサ・パルシWMA理事/ドイツ医師会理事は、過度の長時間労働と柔軟性のない勤務環境は、職業上の燃え尽きに寄与する要因となると指摘。ドイツの医師を対象とした調査についても紹介した。
 スネーデル教授は、北欧諸国の状況を報告した上で、「各国において、燃え尽き症状の要因は共通しており、仕事に関連したストレスや仕事と家庭生活のアンバランスがその主な原因となっている」と述べるとともに、デスクワークの負担の増加が燃え尽き症状を引き起こす傾向にあると指摘した。
 中嶋義文三井記念病院精神科部長は、日本の医療制度の特徴及び医師・看護師の労働時間等を報告し、働き方改革における時間外労働の上限規制について説明した。

セッション3

 「医療専門職の訓練及びワーク・ライフ・バランスと燃え尽き症候群の予防の推進」をテーマとしたセッション3では、ジム・アップルヤード国際医科大学協会長/ICPCM顧問/WMA元会長が、米国の全国調査で研修医の59%が燃え尽き症候群とされたことを報告。バーンアウトのリスク軽減のため、予防・健康増進・ストレス軽減意識の教育を、医学生の頃から研修医まで継続的に行うべきであるとした。
 バーンアウトについて、ミッシェル・ボトゥボー西ブリタニー大学小児・思春期精神科名誉教授/ICPCM理事は、「従来、患者に同情し過ぎたことによる疲弊が原因と考えられていたが、主体的な共感力を養うことによって、反対に燃え尽き症候群への耐性が向上され、患者のアウトカムも向上する」と強調した。
 ドイツ家庭医協会のウルリッヒ・ヴァイゲルト会長は、ドイツの家庭医は労働時間が長く、負担も大きいことから、チームやグループでの共同診療、医師会等のネットワークが活発になってきていることを説明。定住義務の廃止や、柔軟な労働モデルを認めるなど、革新的なケア構造が医療システムの効率と満足度を高めているとした。
 一方、日本の状況について報告した和田耕治国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授は、医学部入学時点で学習への燃え尽きが見られ、バーンアウトのリスクが高い学生も周りに助けを求めない傾向があるとするとともに、「医療機関における産業保健体制の整備だけでなく、医師自身にも予防のための意識付けや健康な生活習慣が求められる」と述べた。

セッション4

 「Well-being、医療制度、管理と職業上の安全に関する国際展望」をテーマとしたセッション4では、ドイツ連邦保険医協会のステファン・ホーフマイスター副会長が、ドイツの外来診療の課題として、①医療ニーズの増大②パートタイム雇用の増加③迫りくる医師不足④開業医への政治的制約の増大―を挙げ、燃え尽きるのを防ぐためにも、フリーランスの原則強化、官僚主義の縮小、医師以外の専門職へのシフト強化による効率改善が必要であるとした。
 イギリスの国民保健サービス(NHS)における燃え尽き症候群の事例を取り上げたヘレン・ミラー ダンディー大学精神科コンサルタント/ICPCM理事は、人員不足と危険な労働環境、いじめ文化、目標重視の姿勢などがスタッフの士気低下を招いているとし、職場において「人間中心」を促進する組織戦略が望まれるとした。
 ペルーの病院を対象に「人間中心の医療指標」を用いて行った研究を紹介したメジッチ教授は、評価が高かったのは私立病院、公立病院、公立専門病院、公立総合病院、社会保険病院の順であったが、医療の質は定義が困難で、指標に改善の余地があるとした。
 後期研修医の中安杏奈氏(日本赤十字社医療センター第一産婦人科)は、医師の地域偏在と診療科偏在はワーク・ライフ・バランスの改善によって軽減されるとした他、若手医師の意識調査では「シフト勤務の実施と夜勤後の休息」「医師の数の増加」「主治医制から当直医制への変更」など、休息を求める意見が多かったことを紹介した。

閉会セッション

 閉会セッションでは、アップルヤード教授が、「医師の燃え尽き症候群はどの国でも非常に大きな問題となっており、真剣に取り組むことが極めて重要である。もし、放置したならば患者のケアが損なわれ、医療過誤が増えるため、バーンアウトの問題に積極的に対峙していく必要がある」と総括。
 その後、ファン・スターデン教授がICPCMの文書「2019年ワーク・ライフ・バランスと人間を中心とした医療に関する東京宣言」案について説明した。
 同宣言は、ICPCMが人間中心の医療の観点から取りまとめたもので、良好なワーク・ライフ・バランスを達成するため、利害関係者や雇用者等に意識改革と具体的行動を求める12項目の勧告からなり、参加者からWebを通じて意見を募ると説明した。
 最後に、メジッチ教授が、本会議の次へのステップとして、「人間中心の医療を更に練り上げるため、例えばテクノロジーの開発に積極的に関与して適切に活用していくなど、革新的取り組みを進める必要がある」とし、教育プログラムや人間を中心としたケアに関する研究など、各国医師会が協力していく重要性を強調。来年4月には、「セルフケアとWell-being」をテーマとした会議を開くことを紹介した。

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