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令和元年(2019年)12月20日(金) / 南から北から / 日医ニュース

秘湯をめぐる冒険

 もう歳も歳だしということで2年ほど前から家内とあちこちの温泉に行き出しました。日本秘湯を守る会というのにも入会してスタンプ集めにもいそしみましたが、むしろ、お湯はいいけど辺鄙(へんぴ)な場所にある一軒宿的な温泉旅館が施設の老朽化、経営者の高齢化や後継者不足などからどんどん潰れていっていて、今を外せばもう二度と訪ねられなくなるという危機感がありました。
 斯(か)くの如(ごと)き温泉を訪ねるとすると、まずアプローチにすごい困難を伴うことがあります。島根の小屋原温泉熊谷旅館は山の中の一軒宿で、最初、北から行った時には道幅が車ぎりぎり、横は崖、木の枝が車をこするという壮絶な経験をしました。何のことはない、南から入れば普通の道だったのですが。
 長野の秋山郷を訪ねた時には離合困難な場所のある、断崖絶壁の道を走りました。国道なのに何でガードレールがないか聞いてみたら、いや、夏にはある、冬はそのまま谷底に雪を落として除雪するからガードレールは取り払うとのことでした。
 次に、これが一番の問題かと思うのですが、このような宿は建物ぼろ、浴槽ぼろぼろ、トイレ共同、洗面所共同、露天はアブ、部屋にはもれなくカメムシがついてくる、というようなところが多いのです。
 従業員なしの家族経営みたいなところも多いので、豪華絢爛(けんらん)な食事に期待してもいけません。更に「温泉街」というものはまず存在しないので、宿に着いたら求道者のごとくひたすら何回も温泉に入るしかすることがありません。
 従って、よくよく理解のある奥さんでないと最悪宿泊拒否、ないし二度と一緒に行ってもらえなくなるでしょう。うちの場合、家内はついて来てはくれますが、「私はちゃんとした旅館は決して嫌いではない」とつぶやいております。
 反面、お湯は源泉掛け流し、それぞれ個性があってすごくいいし、宿泊費は概してとても安いし、宿の人も親切です。大手旅行サイトにも載ってないところが多く、物理的に団体さんは無理なので極めて静かです。
 今まで訪ねた中で、立ち寄りなら島根の千原温泉が一番好きです。鄙(ひな)びてます。しーんとした浴槽の足下からぷくぷくと泡が浮いてきます。宿泊は先に書いた島根の小屋原温泉でしょうか。炭酸が多くて泡つきが半端ありません。新潟の駒の湯温泉もいいお湯でした。要はぬる湯が好きなようです。日帰りで行くなら富山の庄川湯谷温泉辺りがお薦めです。我こそはと思う方がおられたらぜひ訪ねてみて下さい。
 東北・北海道はいいお湯がいっぱいありますが、福島の一部を除き攻めきれていません。ということで、昨年2月、休みをとって秋田は乳頭温泉郷の孫六温泉というところに出掛けてきました。
 両側雪の壁、大雪でホワイトアウトする道路を走り、ようよう近くまでたどりついて電話したら、そこに車を置いて歩いて来て下さい、と。荷物を持って家内と2人、雪の山道登山となりました。実際は30分位だと思うのですが、タ方だし滑って転ぶし、本気で遭難するかと思いました。
 その時、はたと気がついたのです、今を外せば行けなくなるのはお宿の事情ばかりでないこと。あと10年もしたら、歳を取りすぎた我々自身がたどりつけなくなることに。急がねばなりません。

(一部省略)

滋賀県 滋賀県医師会報 第850号より

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