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令和2年(2020年)3月5日(木) / 日医ニュース

「進化する医療ICT」をメインテーマに開催

「進化する医療ICT」をメインテーマに開催今村副会長

「進化する医療ICT」をメインテーマに開催今村副会長

 令和元年度日本医師会医療情報システム協議会が「進化する医療ICT」をメインテーマとして、2月1、2の両日、日医会館大講堂で開催された。
 2日間にわたってオンライン診療やAI等、直近の話題をテーマとしたシンポジウムやセッションが行われた。
 石川広己常任理事の開会宣言に続いて、横倉義武会長(今村聡副会長代読)はあいさつの中で、「生涯にわたり、健やかで活躍し続ける社会の実現には、『かかりつけ医』を中心とした"予防・治療・支える医療"の提供が求められており、その実現に向けたツールとして、ICTやAIの発展は必要不可欠である」と、その重要性を強調するとともに、「本協議会で得られた知識を地域での取り組みに活用して欲しい」と述べた。
 続いてあいさつした久米川啓運営委員会委員長(香川県医師会長)は、「便利なはずのICTやAIも使い方を間違えると大きな問題を引き起こしかねない」と危惧し、確実な進歩を遂げるためにも、ICTやAIの負の部分にも注意することが必要だとして、本協議会がその役割を果たすことに期待感を示した。

Ⅰ.めざすべき「オンライン診療」

200305h2.jpg 引き続き行われた「Ⅰ.めざすべき『オンライン診療』」では、今村副会長が、まず、「オンライン診療はあくまで対面診療を補完するツールで、対面診療と同等のものとは言えない」との日医の見解を改めて示す一方、超高齢・人口減少社会が進む中で、地域の医療を守るためには、オンライン診療の活用を考えていく必要もあると指摘。対象疾患の拡大により、モラルハザードを引き起こす恐れがあることから、国民皆保険の堅持に向けた適切な普及を求めるとともに、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針(以下、指針)」(令和元年7月改定)において、オンライン診療を実施する医師に対する研修の義務化が盛り込まれたことを受けて、本研修を日医が受託し、本年4月より運用開始予定であることを報告した。
 佐々木健厚生労働省医政局医事課長は、「患者が医療関係者といる場合のオンライン診療に関する位置づけ・課題」「初診対面診療の原則の例外事由の考え方」など、指針改正のポイントを中心に概説。
 緊急避妊薬の処方については、新たにオンライン診療を実施する医師に義務付けられた研修とともに緊急避妊薬の処方に向けた研修も追加していることに触れ、「緊急避妊薬の適切な利用促進に近づいたものとなっている」とするとともに、今後も、患者が安心してオンライン診療を受けられるよう、定期的に指針の見直しを行っていく考えを示した。
 原量宏日本遠隔医療学会名誉会長/香川大学瀬戸内圏研究センター特任教授は、オンライン診療ではバイタル情報が得られないことから、一定の研修を受けた看護師がリアルタイムで患者のバイタルセンサーの役目を担う香川県独自の制度「オリーブナース」や胎児心拍と陣痛を超音波で計測する超小型モバイルCTGを活用した遠隔妊婦管理の活用事例を紹介。
 今後も、産科診療における遠隔医療への適正な診療報酬の獲得を目指してモニタリング事業を実施するなど、安全性の確保に向け取り組んでいくとした。
 黒木春郎外房こどもクリニック理事長は、オンライン診療は外来診療の代替・補完としてではなく、入院・外来・在宅に続く第4の診療形態として適応を議論すべきとの考えの下、自院で実施しているオンライン診療事例を紹介。その適応は疾患別ではなく、あくまでも状態が安定している患者とすることで、専門医不足の地域など、医療資源偏在の解決にもつながることだとするとともに、「保険診療での普及が悪用事例への牽制にもつながる」と述べた。
 加藤浩晃京都府立医科大学/デジタルハリウッド大学大学院客員教授は、オンライン診療の新たな診療形態として、D to P with M(Medical Device)を提案。視・触診、聴打診と同等のデータを得られる医療機器を活用することで患者の状態を把握できることから、対面診療でなくても診察が可能になり、生活習慣病などの治療中断を防ぐこともできるとして、診療形態の一つとして選択できるよう、更に事例収集していくとした。
 引き続き、矢野一博日医総研主任研究員から、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に基づいたオンライン診療におけるセキュリティーに関する指定発言の後、6人のシンポジストによるシンポジウムが行われ、フロアの参加者との間で活発な意見交換が行われた。

 

Ⅱ.AIの「光」と「影」

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 「Ⅱ.AIの『光』と『影』」では、杉山武志内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付上席政策調査員が、IoTやAI、ビッグデータ等を活用した新たな社会"Society 5.0"の実現に向けて策定した「AI戦略2019」(2019年6月11日統合イノベーション戦略推進会議決定)を取り巻く現状を概説。
 あらゆる分野で活躍する人材の育成を目指した教育環境の整備などを行う他、AI研究開発の活性化に向けた研究開発ネットワークを設立し、オールジャパン体制で推進中であるとした上で、健康・医療・介護分野に関しては技術開発だけでなく、医療従事者や介護従事者の負担軽減につながる研究開発を進めていくとした。
 喜連川優国立情報学研究所長/東京大学教授は、医療へのAI活用に向け、さまざまな学会と連携して医療画像ビッグデータ基盤の構築を目指す「臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業」を詳説。ITの総合力を集結し、研究者が利用しやすい形式に変更したデータをオープンプラットホームとして利用できるシステムであり、これまでにない情報量を提供できるとする一方、日本はIT人材が不足していることを憂慮。「今後も、着実に事業を推進していきたい」と述べた。
 北野宏明株式会社ソニーコンピューターサイエンス研究所代表取締役は、AIは深層学習の進歩によって、認識や分類に関して人間と同等かそれ以上の正確性を実現することが可能になっているとして、その事例を紹介。今後、AIの人間の認知力や試行力の限界を超えた分類・推定により、医療現場に供給できる知識が加速度的に増えることで、医療の進歩・発展に貢献できるのではないかとの考えを示した。
 藤田広志岐阜大学工学部特任教授・名誉教授は、計算機支援診断システム(CAD)がAIを利用した深層学習により、開発時間の大幅な短縮の他、人間を超える性能に進化し、糖尿病性網膜症のスクリーニングが可能なAIソフトウエアの商品化がされるなど、世界中でその開発が進む中、日本では「技術開発がさまざまな規制により遅れている」「海外に日本の質の良いデータが買われている」こと等を問題視。日本でもオープンデータとして利用できるよう、早急な対応を求めた。

Ⅲ.災害時のICT

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 2日目午前の「Ⅲ.災害時のICT」では、まず石川常任理事が、平成に起きた大地震を振り返り、災害時におけるスムーズな対応には平素からの医療・介護の地域連携が重要であることを強調。近年は、台風や異常気象による暴風雨で浸水、土砂崩壊、ライフライン途絶等が生じるなど、新しい災害への対応が課題であるとした他、南海トラフ大震災想定訓練(別記事参照)では有効な情報を素早く支援者に伝えるため、ICTを駆使していることを説明した。
 小笠原敏浩岩手県立大船渡病院統括副院長は、震災前から取り組んでいた岩手県周産期医療情報システム「いーはとーぶ」で、インターネットを用いて複数の医療機関や市町村と連携し、周産期の搬送やトリアージを行うとともに、多職種で妊婦の見守りを行ってきたことを紹介。東日本大震災によって、陸前高田市役所にあった情報が全て失われたが、盛岡市のサーバーに残っている妊婦情報により、妊婦の安否確認及び避難状況の把握や保健指導ができたことを報告した。
 登米祐也宮城県医師会常任理事/宮城県災害医療コーディネーターは、東日本大震災による津波で医療情報を喪失した経験から、電子カルテの導入を促進し、災害に備えた医療情報のバックアップ体制を模索してきた経緯を概説。行政の医療情報連携システムの一部としてSS―MIX2のデータ形式で構築したとし、「現在は、県内病床数の約90%をリアルタイムにバックアップしているが、1日の容量は82病院分で20MB程度であり、画像や2号紙を取り込まなければ大きくない」と述べた。
 若井聡智国立病院機構大阪医療センター/厚労省DMAT事務局次長は、災害時の情報共有として、医療資源と需要情報を共有する「EMIS」、災害医療チームの診療情報を管理する「J―SPEED」のメリットと問題点を報告。発災直後はEMISに入力されるニーズが増加するため、DMATが災害医療の情報・指揮調整を行うとし、熊本地震においては、J―SPEEDによってノロウイルス感染症集団発生を早期に検知できたとした。
 鶴岡優子つるかめ診療所長は、栃木県の医療介護専用SNSを用いた連携ネットワーク「どこでも連絡帳」の仕組みを説明した上で、東日本大震災を機に、自身の医院においても在宅医療に携わるケアマネジャー、看護師、リハビリ職、介護職等、多職種の勉強会を始め、SNSを用いてつながりを深めてきたことを紹介。年1回、住民を対象とした市民講座も開催し、防災への意識を高めているとした。
 その後、講演した5名のパネリストによるパネルディスカッションが行われた。
 午前にはその他、別会場において、「事例報告セッション」として、地域医療ネットワークに関する北九州市、仙台市の両医師会の取り組みに加え、医師資格証の活用に関して茨城県、徳島県、山梨県の各医師会と日医治験促進センターの取り組みが報告され、質疑応答が行われた。

Ⅳ.EHR・PHRの実現に向けて

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 午後からは、「Ⅳ.EHR・PHRの実現に向けて」が行われた。
 長島公之常任理事は、病を防ぐのに役立つPHR(Personal Health Record)と、治し支えるための地域医療連携ネットワークであるEHR(Electronic Medical Record)をつなぐ要は"かかりつけ医"であるとして、それら医療情報のセキュリティを担保するためにも、「医師資格証(HPKI)」が重要であることを強調。普及拡大に向け、紙の医師免許証をHPKI機能付きカード型に切り替えることについて厚労省と協議しているとした。
 笹子宗一郎厚労省政策統括官付情報化担当参事官室政策企画官(併)医政局総務課医療情報化推進室は、今後、全国の医療・介護のレセプト等のデータベースを連結解析していくとした上で、その際の識別子(ID)として個人単位化された被保険者番号を活用する仕組みについて解説。また、オンライン資格確認や電子カルテ等の普及のため、医療機関等へ支援を行う「医療情報化支援基金」創設について説明した。
 山本隆一一般財団法人医療情報システム開発センター理事長/自治医科大学客員教授は、医療に関わる情報の公益的利活用の意義を訴える一方、患者のプライバシーを守るために匿名化する重要性を強調。現在、160億件のレセプトデータと2億5000件の特定健診・特定保健指導のデータを有するNDB(National Database)は、厳格な審査やセキュリティ要件が課されているため、安全性を確保した上で、そこから汎用性の高い基礎的な集計表を作成した「NDBオープンデータ」を公開し、民間事業者も利用可能であることなどを説明した。
 石川常任理事は、患者個人の医療情報が病気や治療の目的ではなく、漏洩したことで生じた人権侵害のケースとして、優生保護法による強制不妊手術やハンセン病の差別を例示。マイナンバーは、遺伝子情報なども含む機微性の高い医療記録が名寄せできる可能性もあることから、医療等IDとしては使えず、日医は個人のプライバシーを守る医療専用ネットワークの構築を目指していることを概説した。
 濱本勲香川県医師会常任理事は、総務省の実証事業である「ネットワークを活用した医療機関・保険者間連携に関する調査」として、保険者が有するレセプト情報を、患者の同意の下で医師に開示する仕組み「RICSS(リックス)」について、医師・薬剤師に臨床現場で使ってもらった結果を紹介。問題点の改善は必要なものの、おおむね良好な感想が寄せられたとし、新患や救急外来での情報入手、災害現場での避難者の状況把握に役立つとした。
 その後、講演した5名のパネリストによるパネルディスカッションでは、オンライン資格確認の方法や費用負担などを巡り、活発な意見交換が行われた。

閉会式

200305h6.jpg 閉会式では、次期担当県の須藤英仁群馬県医師会長が次の協議会に向けた抱負を述べた後、運営委員会副委員長の若林久男香川県医師会副会長が2日間の協議会を総括し、閉会となった。
 参加者は469名であり、「医師資格証(HPKIカード)」を使った出欠管理では、267名の利用があった。

 

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