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第1102号(平成19年8月5日) |
平成20年度予算の概算要求で,唐澤会長ら役員が厚生労働大臣に要望
安心で安全な医療を守るためには医療費財源の確保が不可欠
唐澤人会長,羽生田俊・中川俊男両常任理事は,七月九日,厚生労働省に柳澤伯夫厚労大臣を訪れ,平成二十年度予算の概算要求に向けた要望書を提出した.なお,厚労省からは松谷有希雄医政局長らが同席した.
左から,羽生田常任理事,唐澤会長,中川常任理事,柳澤厚労大臣,松谷厚労省医政局長 |
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唐澤会長は会談の冒頭,昨年六月に医療制度改革関連法案が成立し,その主たる制度改正が平成二十年度に施行されることについて,「今日,地域医療は崩壊の危機に瀕している.また,医師・看護師など医療職種の不足問題,山間地・過疎地域で進む高齢化と医師不足,さらに産科医療の縮小など,日本の医療は大きな曲がり角に来ている.これらの原因には,長年にわたる医療費抑制政策があり,国民にとって身近であるべき医療を守り,安心で安全な医療制度を確立するためには,医療費財源の確保が不可欠となっている.大臣には,以上の点をご理解賜りたい」と述べた.
つづいて,中川常任理事が,持参した資料を基に,医療費財源確保の必要性などについて,次のとおり訴えた.
二〇〇一〜二〇〇六年度の過去五年間で,あるべき社会保障費(国の負担分)の自然増に対し,累計三兆三千億円が失われた.この削減額の約七割が,医療・介護費の抑制分で占められている.こうした医療費抑制策が今後五年間も続くと,累計(十年間)で十二兆千億円が,医療では約八兆円が失われる(図).その結果,健全な医業経営は困難となり,地域医療の基盤が揺らぐ.
また,非常に大きな問題として,医師数の絶対的不足がある.人口千人当たり医師数は,一人当たりGDPがOECD平均以上の国のなかで最下位となっている.加えて,医事関係訴訟の増加(一九九六年が五百七十五件,〇五年が九百九十九件と,十年間で一・七倍)と,福島県立大野病院における産婦人科医の逮捕など,刑事訴追の不安も高まっている.また,小児科を標榜する施設は,十年間で六ポイント減少(九六年が三五・二%,〇六年が二九・二%),分娩実施施設は十年間で二七%減少(九六年が三千九百九十一施設,〇六年は二千九百三十三施設)しており,地域医療崩壊の大きな要因の一つになっている.
そのうえで,同常任理事は,〇七年は,過去最速のペースで医療機関の倒産が進んでいること(〇七年は五月までに二十八件,〇六年は通年で三十件)などを説明.
また,わが国の高齢化率が急速に進み,七十五歳以上のみの世帯人口比率が増加(九五年が二二・五%,〇五年が三三・二%)し,いわゆる「孤独死」が大きな社会問題になりつつあること,さらに,患者実態を踏まえれば,長期療養病床は二〇一二年には二十六万床必要であるにもかかわらず,国の計画では十五万床となっており,このままでは,十一万人の「医療難民」が発生することを指摘.新たな介護施設などが整備されなければ,「介護難民」も最大で十五万人発生することが予想されると訴えた.
さらに,中川常任理事は,日医では,「あるべき医療費」について,GDPに占める総医療費の比率を,少なくともOECD加盟国平均並みの八・八%(二〇〇三年.日本は八%)とすべきと考えるが,万が一,これからも医療費抑制が続けられれば,一五年には六兆八千億円の不足となることを危惧.「ここから予想される結果として,“安心のためのコスト”どころか,“安全のためのコスト”さえも確保できない状況となることは火を見るより明らかである」と述べ,今後は,医療技術の発展などに伴う自然増(年率二%)プラスアルファの確保が絶対必要だと強調した.
一方,羽生田常任理事は,厚労省の委託事業として,本年一月に“女性医師バンク”を開設し,医師の再就業支援事業に取り組んでいることを報告し,「女性医師の働きやすい環境づくりが,出産・育児に伴う離職率を下げ,医師不足対策にもつながる.国も尽力して欲しい」と要請した.
日医からの要望に対して,柳澤厚労大臣は,「非常に良いタイミングで来てもらった」と述べ,「日ごろ,国民医療に努力を払われていることに感謝している.平成二十年度予算についての日医の考え方が分かって良かった.医師確保対策については,政府・与党で緊急対策を立て,実行に移している.次期診療報酬改定については,予算編成のプロセスのなかで検討していきたい」などと語り,申し入れの趣旨について理解を示した.
最後に,唐澤会長が,「われわれは,国民の医療を守るために大いに力を尽くすので,国も財源面での配慮をぜひともお願いしたい」と発言し,会談は終了した(要望書の全文は別記事参照).
図 社会保障費(国の負担分)削除額の推移
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