日医ニュース
日医ニュース目次 第1114号(平成20年2月5日)

平成19年度 第3回都道府県医師会長協議会
診療所再診料の引き下げは地域医療崩壊への道

 平成十九年度第三回都道府県医師会長協議会が,一月二十二日に日医会館大講堂で開催された.
 各都道府県医師会からは,特定健診・特定保健指導への対応,診療行為に係る死因究明制度などに対する日医執行部の見解を問う質問や要望が出され,担当役員から回答を行った.

 羽生田俊常任理事の司会で開会.
 会議の冒頭,竹嶋康弘会長代行は,唐澤人会長の病状について,術後の経過は極めて良好で会務への復帰も近いのではないかとの朗報を伝えた.また,現在,山場を迎えている中医協での診療報酬改定に関する議論についても言及し,現在提案されている診療所の再診料の引き下げには,今後も断固反対していくとの決意を示した.

平成19年度 第3回都道府県医師会長協議会/診療所再診料の引き下げは地域医療崩壊への道(写真)協 議

 (一)鳥取県医師会からは小児のメタボリック対策について質問が出され,今村定臣常任理事が以下のように回答した.
 小児のメタボリックシンドロームは,大人の場合と異なり,学会による疾患概念・診断基準が確立していないため,十分なエビデンスの検証などを行うことが必要であると認識している.
 日医では,現在,「学校保健委員会」において鋭意検討を重ねており,答申には,児童生徒の生活習慣病に関する健診項目の充実についても触れられる予定である.今後,答申の内容などを踏まえながら,行政に働き掛けていきたい.
 (二)医療保険者からの被扶養者健診データ収集システムの構築に関する新潟県医師会の質問には,内田健夫常任理事が回答した.
 従来の住民健診は,市区町村が実施主体であったが,特定健診は,医療保険者に義務付けられ,実施主体が複数となったことが現場の混乱の一因であると指摘.
 地域住民の健診データの利活用については,都道府県および二次医療圏ごとに設置される地域・職域連携推進協議会において,関係保険者等と連携して対応し,中央レベルでの利活用については,日医としても関与していくと説明した.
 なお,会内の「公衆衛生委員会」では,がん検診も保険にしてはどうか,また,「がん対策推進委員会」では,がん検診のあり方をそれぞれ検討しており,今後,日医としての考えをまとめたいとした.
 (三)石川県医師会からは,特定健診等における住民間不平等についての質問があった.
 今村聡常任理事は,国保加入者以外の地域住民に対する,いわゆる上乗せ健診については,市区町村衛生部門が行う必要があり,厚生労働省が市区町村に対して引き続き実施するように働き掛けることを,日医からも強く要望していると回答.同日実施が望ましいが,健診を実施することがまず重要であるとし,各地域において実情に応じた実施に向けて検討して欲しいと協力を求めた.
 なお,本制度の課題については,記者会見等でマスコミにも説明を行っている別記事参照が,『日医ニュース』三月二十日号に国民向けのポスター(健康ぷらざ)を折り込み,実施に向けて国民への情報提供を行う予定と述べた.
 (四)大阪府医師会からの特定健診・特定保健指導に関する,(1)電子化への対応,(2)フリーソフト─についての質問には,内田常任理事が回答.
 (1)では,各医療機関で健診・保健指導データの電子化ができない場合のために民間事業者による代行入力事業について,中央レベルで検討しており,当該サービス等を活用するなどして,電子化に対応して欲しいと要望.また,電子化への対応の義務化については,四月一日からの実施に向けて,準備が進んでいない医療機関,医師会が多いことから,延期するよう働き掛けていると説明した.
 (2)については,厚労省が直接ではなく,研究班等が作成・配布することになっていると解説.電子化への対応については,日医ホームページ上で情報提供等をしているので,参考にして欲しいと理解を求めた.
 (五)佐賀県医師会から,日医の組織強化に向けた勤務医対策として,日医代議員に勤務医枠を設けては,との提案がなされた.羽生田常任理事は,まず,今日のような医療を取り巻く厳しい状況のなかでは,勤務医や開業医という立場の違いを超えて協働していくことが重要との認識を表明.そのうえで,「平成二十年十二月から実施される新公益法人制度下では代議員に勤務医枠を設けることが認められるのかという問題もあり,今回の提案は今後検討させて欲しい」と述べた.
 また,勤務医に対する取り組みとして,(1)「二十五万会員プロジェクト会議」を立ち上げ,検討を行っている(2)会内の「定款・諸規程検討委員会」で,若手勤務医会員の代議員登用に向けた具体的施策を審議している─ことを報告した.
 (六)混合診療全面解禁の動きに対する日医の見解を問う山口県医師会の質問には,中川俊男常任理事が回答した.
 同常任理事は,公的保険給付範囲が縮小される恐れがあるなど,混合診療解禁の問題点を改めて説明.今後については,(1)現行の保険外併用療養費制度における評価療養を客観的かつ迅速に検証していくことで,公的保険を充実させていく(2)パンフレットなどを使って,国民に啓発活動を行う(3)法律を整備して明確に禁止するよう国に働き掛けていく─との意向を示した.
 (七)島根県医師会からの「テレビ会議システムを利用した産業医学研修モデル事業」の対象研修拡大推進のための機能検証現地調査実施についての要望には,今村(聡)常任理事が回答.
 テレビ会議システムを利用した産業医学研修のモデル事業を実施した神奈川・福岡両県医師会からは,課題も指摘されたが,システム環境が向上すれば活用の可能性があるとの報告を受けたと説明.
 さらに,島根県医師会のテレビ会議システムを視察し,現地調査の検証結果等を踏まえ,テレビ会議システムの対象研修会の拡大について,産業保健・認定産業医制度運営の両委員会で検討したい.特に,日医産業医学基礎研修は労働安全衛生規則の規定に基づき厚労大臣の定める研修であり,両委員会での検討結果を踏まえ,厚労省に積極的に働き掛けていきたいとの考えを示した.
 (八)埼玉県医師会は,厚労省が医療法人に特養設置を認める方針を白紙撤回したことに対する日医の見解などを質した
 天本宏常任理事は,特養の待機者問題は,本来,参酌標準で,都道府県ごとのニーズに応じて整備することになっているが,予算問題(保険料等)などで遅れていると指摘.
 今回の特養設置問題については,日医として,会員のなかに賛否両論があることを踏まえ,積極的には推進しなかったと経緯を説明.国会審議には至らず,厚生連のみが開設できることが議員立法で成立したと報告し,今後,これを通知したいとした.
 (九)医療費適正化計画に関する福岡県医師会の質問には,鈴木満常任理事が回答.各都道府県における療養病床の目標数は,日医作成の基準案に基づき,各地域の実情や特性を踏まえて対応することを求めた.
 また,平均在院日数の短縮は,平成十八年病院報告(一月中に報告される予定)の,都道府県の平均在院日数と最短の県の平均在院日数との差の三分の一の日数を減じたものとされるが,差が大きく,まさに地域特性だと指摘.いずれも,一律の数値目標とすべきではないとした.
 今後は,過度な医療費抑制がないよう,シーリングのキャップはずしに取り組みつつ,国民負担率の議論も聞こえるところから,安全と安心が担保された医療提供体制の構築のために活動したいと述べた.
 (十)三重県医師会からの「総合科」の標榜と「総合医」の問題に関する質問に対して,飯沼雅朗・内田両常任理事は,「総合科」を標榜科目名に加えることには,日医は断固反対の方針であると述べ,次のように回答した.
 厚労省による「総合科」の導入構想は,医療費を抑制するため,初期診療の担い手を「総合科」に限定することにより,医療へのアクセスを国の統制下に置くことを目的とするものと考えられる.日医の「学術推進会議」および「生涯教育推進委員会」で検討している認定制度は,厚労省の「総合科」とはまったく異なる概念であり,決してリンクするものではない.
 なお,同会議および同委員会の答申は,今年度中にまとまる予定となっている.
 (十一)(十二)神奈川・徳島両県医師会からの,診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方についての,厚労省試案および自民党案に関する質問には,木下勝之常任理事が回答.
 「医療安全調査委員会(仮称:以下委員会)の設立目的に,依然として懲罰的色彩を強く感じる」との指摘に対しては,この委員会設立を考えた理由を,「今日,医療事故が発生すると,医師法第二十一条による警察への届出の結果,警察官がやって来て,直ちに犯罪捜査が始まるという現状を打開するためのものであり,処罰的色彩を排除したものである」と説明.詳細に関しては,「『刑事訴追からの不安を取り除くための取り組み』─その三─届け出るべき診療関連死等─」を都道府県医師会の医療安全・医事紛争・勤務医の各担当理事宛に送付したので,そのような誤解を解いていただきたいと理解を求めた.届け出るべき診療関連死については,「医療機関において判断した場合」と明記されており,院長が届出範囲に該当しないと判断した事例に関しては,届出義務違反とされることはないと説明した.
 また,診療関連死を委員会に届け出た場合は,「医師法第二十一条に基づく異状死の届出との重複を避ける」ことが明言されていることについて触れ,医師法第二十一条を死文化することを考えていると解説.また,ADR(裁判外紛争処理)機関については,改めて有用性を否定した.
 さらに,刑事手続きとの関係については,委員会から捜査機関へ通知する事案に対する法務省の見解を示し,「極めて限定的な事例になっており,しかも通知しない事例は,刑事手続きが行われないことが明記されている.したがって,委員会が警察へのトンネル機関になるという心配は当たらない」と主張.
 そのうえで同常任理事は,「医師法第二十一条の警察への届出義務に始まる診療関連死に対する刑事訴追の誤った方向性を変えるよう,この委員会設置に関する法制化のための日医の対応にご理解とご支援をお願いしたい」と述べた.

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