日医ニュース
日医ニュース目次 第1271号(平成26年8月20日)

横倉会長,日本記者クラブで講演
国民皆保険の堅持を主軸に真に国民に求められる医療提供体制の実現を国民と共に目指す

横倉会長,日本記者クラブで講演/国民皆保険の堅持を主軸に真に国民に求められる医療提供体制の実現を国民と共に目指す(写真) 横倉義武会長は七月十八日,日本記者クラブの昼食会に招かれて講演し,「日本医師会の直面する課題」と題し,二期目の会務遂行に当たって掲げる,(一)組織を強くする,(二)地域医療を支える,(三)将来の医療を考える─という三つの方針等について説明した.
 日本記者クラブは,一九六九年にわが国の主要な新聞,通信,放送各社が協力して設立したナショナル・プレスクラブで,横倉会長が講演するのは,会長就任以来,平成二十四年五月別記事参照,二十五年五月別記事参照に続き,今回が三回目となる.
 当日の出席者は,厚生労働記者会・厚生日比谷クラブの現役記者やOBら八十名であった.

組織を強くする─日本医師会綱領を旗印とした公益活動の深化─

 同会長は,初めに,二十四年四月に刊行し,同クラブでの一回目の講演でも紹介した,医学部学生向けの無料情報誌『ドクタラーゼ』について,最近では要望があって,希望する高校にも配布していること等を紹介した.
 次に,国民に日医というものが十分理解されていないことから,「日医は,医師としての高い倫理観と使命感を礎に,人間の尊厳が大切にされる社会の実現を目指します」という前文と四項目からなる「日本医師会綱領」を昨年六月に策定したことを紹介.(1)国民の安全な医療に資する政策か(2)公的医療保険による国民皆保険は堅持出来る政策か─の二点を日医の政策の判断基準に,「国民と共に歩む」医師会としての組織強化に努めているとした.

地域医療を支える─かかりつけ医を中心とした「まちづくり」─

 更に,一期目から「地域医療の再興」を訴え,地域医療を支えるため,かかりつけ医を中心とした「まちづくり」を提唱.今後の高齢化を見据え,全ての地域医師会に対し,地域の行政と連携して,住民のための医療・介護の政策をつくって欲しいと主張し続けてきた結果,「地域包括ケアシステム」という形で実を結びつつあると説明した.また,そうした,かかりつけ医を中心とした「切れ目のない医療・介護」の提供のためには,かかりつけ医を国民に持ってもらうことが重要であると強調.かかりつけ医の定義づけとその機能を明確にすることが求められており,日医では,かかりつけ医の研修のサポートシステムの構築やライフステージ別のヘルス対策に対応出来る仕組みづくり等に努めているとした.
 一方で,かかりつけ医の効果については,かかりつけ医がいる人は,受けた医療に対する満足度が高く,がん検診等の受診率も高いことが分かっており〔第四回日本の医療に関する意識調査(日医総研ワーキングペーパーNo.260)〕,国民の中にしっかりと意識づけが出来れば,不要な医療というものが少なくなっていくのではないかとの考えを示すとともに,今後,かかりつけ医機能の強化のために体制・研修両面から,かかりつけ医の質の向上と国民に信頼されるかかりつけ医の定着に努力をしていきたいと述べた.

将来の医療を考える─二〇二五年を見据えた地域包括ケアの推進─

 続いて,横倉会長は,団塊の世代が後期高齢者となる二〇二五年を一つの目標年として地域包括ケアを確立していくことになるが,一方で,さまざまな問題を抱えていると指摘.社会保障が持つ経済効果については,「医療は消費」との意見もあるが,社会保障と経済は相互作用の関係であり,老後に不安を持つ国民に,安心を示すことが,経済成長を取り戻すための出発点であると主張.
 その上で,国の債務が一千兆円を超え,労働力人口が二割近く減少すると言われる現状においては,日医が提唱する,生涯保健事業の推進による健康寿命の延伸及び“体が動く間は何らかの社会貢献をしていこう”といった意識改革と,プライマリケアを担う「かかりつけ医」を育成し,全国どこでも生活出来るようにしていくことが必要であるとした.
 しかも,国からのトップダウンではなく地域の行政・医師会が主体となって地域の実情を反映していくことが重要であり,地域の実情に応じた地域医療ビジョンの策定により,切れ目のない医療の提供が出来ると二年間主張してきたと説明.その結果,今年度に創設された新たな基金を活用して,それぞれの地域で切れ目のない医療・介護を提供し,国民にとって必要とする医療が過不足なく受けられる社会をつくっていこうということであると述べた.
 また,東日本大震災からの復興支援のため東北地方で一校に限って認める医学部新設構想は別として,現行の定員増の対応により医師数の確保には一定の目途が立っているとし,特に,医学部地域枠等の推移のグラフを示し,入学定員を増やした世代が卒業してから判断しないと大変なことになると指摘.国家戦略特区における医学部新設については反対であり,本当に必要なのか,もう一度考えていかなければならないとの考えを示した.
 一方で,二〇二五年に向けた改革を推進するため,「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」が今回の通常国会(第一八六回国会)で成立し,地域医療ビジョンの策定が進められているが,このような議論のさなか,財政審議会から,都道府県別の医療費の水準についての提案があったことについては,地域医療ビジョンがどういう方向性で固まってくるかを見てからであり,金額ありきで検討されることがあってはならないと主張した.
 更に,「新たな財政支援制度」(基金)の創設を受け,会内に“地域包括ケア推進室”を設置し,都道府県医師会からの問い合わせや行政との連携・調整等の対応に当たっていること,新たに提唱されている「非営利ホールディングカンパニー型法人」に対しては,「非営利原則の堅持」と「地域に密着した機能分化・再編と有機的な連携」とを両立させるための新しい医療法人制度として,「統括医療(介護)法人」を提案していることなどを説明した.

医療における控除対象外消費税の解決

 医療における控除対象外消費税問題の解決については,日医として,患者・国民・保険者の負担を増やすことなく,仕入れにかかった消費税負担をなくすことを目標に,(1)課税でゼロ税率(2)課税で軽減税率(3)非課税で全額還付(4)非課税で一部還付─の四つの枠組みから選択,または組み合わせることを検討していると説明.
 医療界が一枚岩となって活動することで抜本的解決が図れると考えており,病院団体や他団体とも緊密に連携しながら検討を進めていきたいとした.

災害や感染症等,有事の機動力発揮のための対策

 日医が取り組んでいる災害や感染症等,有事の機動力発揮のための活動・対策としては,東日本大震災時の主な災害対応(JMATの派遣等,医療の支援と,義援金の募集・配賦等,地域医療の再建支援)や,今後の南海トラフ大震災を想定し,JAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構)・NICT(独立行政法人情報通信研究機構)と共に行っている衛星利用実証実験,六月に発行した『緊急時総合調整システム(ICS)基本ガイドブック─あらゆる緊急事態(All hazard)に対応するために』などを紹介した.
 最後に横倉会長は,「日医は,世界に冠たる国民皆保険の堅持を主軸に,真に国民に求められる医療提供体制の実現に向けて,これからも国民と共に努力していく」と述べ,支援と協力を求めた.

質疑応答

 質疑応答では,「患者申出療養(仮称)」や「遺伝子検査の商業化問題への対応」「臨床研修制度と臨床研究水準」「独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)と日医の接点」など,多くの質問が出され,盛会裏に終了した.
 なお,本講演の模様は,日本記者クラブのホームページ(http://www.jnpc.or.jp/)を参照されたい.

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