米国疾病管理センター:CDCの10月26日付け 肺炭疽症、咽頭、消化器炭疽症および皮膚炭疽症の治療のための ガイドライン日本語要旨
日本医師会総合政策研究機構主任研究員 米国内科専門医、米国感染症科専門医、英国熱帯医学専門医 五味晴美
以下は、米国疾病管理センター:CDCが10月26日号のCDC公式刊行物Morbidity and Mortality Weekly Report 2001;50:909-919において公式発表した今回のバイオテロリズムの状況下での、肺炭疽症、咽頭、消化器炭疽症、および皮膚炭疽症の治療に関するガイドラインの日本語要旨である。(予防投与のガイドラインは、上記刊行物10月19日号にあるので、本ホームページのCDC10月17日付け肺炭疽症予防投与のための暫定的ガイドライン日本語要旨を参照のこと)
原本は、CDCホームページで無料でみることができるので、参照のこと。
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5042a1.htm
下記ガイドラインは、日本国内でも、参考にできる有用な緊急情報であると判断したため、掲載する。内容は、CDCの米国国内対応の治療薬および用量のガイドラインであるため、我が国の保険適応範囲でないことに注意すること。また、我が国では、静脈注射のドキシサイクリンは、製造販売されていないため、経口薬のみ使用可能である。
肺炭疽症、および咽頭、消化器炭疽症の治療薬および用量のガイドライン
カテゴリー | 初期治療薬および用量 | 投与期間 |
成人 (妊婦、および免疫不全の有る患者も含む) | シプロフロキサシン 静注 400 mgを一日2回(800mg 分2) または、 ドキシサイクリン 静注 100 mg 一日2回(200mg 分2) に加えて、 その他1−2剤の併用が望ましい。 すなわち合計2−3剤併用。 (詳細は、下記の注Aを参照) | 合計60日間 初期段階では、静脈注射で治療し、臨床的に回復すれば、経口薬にかえ、60日間治療する。 シプロフロキサシン 経口 500 mgを一日2回(1000mg 分2) または、 ドキシサイクリン 経口 100 mg 一日2回(200mg 分2) |
子供 | シプロフロキサシン 静注 一回量10−15 mg/kgを一日2回 (一日総量20−30 mg/kg) ただし、子供では、一日総量1gを越えないこと。 または、 ドキシサイクリン 静注 8歳以上 体重45kg以上では、 100mg 一日2回 (200mg 分2) 8歳以上 体重45kg以下では、 一回量2.2 mg/kgを一日2回 (一日総量4.4 mg/kg) 8歳以下 一回量2.2 mg/kgを一日2回 (一日総量4.4 mg/kg) に加え、 1−2剤併用することが望ましい。 すなわち合計2−3剤併用。 (詳細は、下記の注Aを参照) | 合計60日間 初期段階では、静脈注射で治療し、臨床的に回復すれば、経口薬にかえ、60日間治療する。 シプロフロキサシン 経口 一回量10−15 mg/kgを一日2回 (一日総量20−30 mg/kg) ただし、子供では、一日総量1gを越えないこと。 または、 ドキシサイクリン 経口 8歳以上 体重45kg以上では、 100mg 一日2回 (200mg 分2) 8歳以上 体重45kg以下では、 一回量2.2 mg/kgを一日2回 (一日総量4.4mg/kg) 8歳以下 一回量2.2 mg/kgを一日2回 (一日総量4.4mg/kg) |
注A: | その他の抗菌薬で、In-vitroで(実験室内の抗菌薬感受性試験で)有効であるとわかっているのは、リファンピン(=リファンピシン)、バンコマイシン、ペニシリン、アンピシリン、クロラムフェニコール、イミペネム、クリンダマイシン、クラリスロマイシンである。ペニシリンや、アンピシリンの単独使用は、炭疽菌のペニシリナーゼ産生の可能性があるため勧められない。(訳者注:セファロスポリン系は、耐性であるので、使用不可。また、髄膜炎を併発している場合は、ドキシサイクリンは、髄液移行性が悪く、最適とはいえない。同じ理由により、クリンダマイシンも、髄液移行がほとんどないため、髄膜炎を併発している場合には適切とは言えない。ただし、理論上(臨床上のデータは存在しないが)、クリンダマイシンが、炭疽菌がトキシンを産生するのを抑制すると考えられており、使用を勧める米国の専門家もいる。また、イミペネムなどのカルバペネム系を髄膜炎に対して使用するのには、注意が必要である。イミペネムはその副作用で、痙攣を起こすことが知られており、髄膜炎発症時のように痙攣を起こしやすくなっているときには注意して使用するか、あるいは使用を避けるほうが望ましい。そのため、実際の併用では、例:シプロフロキサシン+リファンピン+バンコマイシン、あるいはシプロフロキサシン+リファンピン+クリンダマイシンなどの組み合わせが可能である。) |
注B: | ステロイドの使用は、気管支や頭頚部の激しい浮腫、あるいは髄膜炎に対して、考慮してもよい。 |
注C: | 子供へのテトラサイクリン系の抗菌薬の使用には、副作用の可能性があることに留意し、生命に危険のある炭疽症のリスクとのバランスを考慮することが必要である。 |
注D: | 妊婦に対しては、テトラサイクリン系は、用量依存性の歯や骨の発達障害をきたすため通常は勧められないが、生命に危険の有る場合、妊娠6ヶ月以内の場合、7−14日間は使用してもよい。 |
皮膚炭疽症の治療薬および用量のガイドライン
カテゴリー | 初期治療薬および用量 | 投与期間 |
成人(妊婦、および免疫不全の有る患者も含む) | シプロフロキサシン 経口 500 mgを一日2回(1000mg 分2) または、 ドキシサイクリン 経口 100mg 一日2回(200mg 分2) | 合計60日間 |
子供 | シプロフロキサシン 経口 一回量10−15mg/kgを一日2回 (一日総量20−30mg/kg) ただし、子供では、一日総量1gを越えないこと。 または、 ドキシサイクリン 経口 8歳以上 体重45kg以上では、 100mg 一日2回 (200mg 分2) 8歳以上 体重45kg以下では、 一回量2.2mg/kgを一日2回 (一日総量4.4mg/kg) 8歳以下 一回量2.2mg/kgを一日2回 (一日総量4.4mg/kg) | 合計60日間 |
注E: | 皮膚炭疽症でも、全身感染の症状がある場合、広範囲の浮腫が有る場合、あるいは頭頚部に病変を認める場合は、静脈注射薬で、2−3剤併用することを推奨する。(詳細は、上記の肺、咽頭、消化器炭疽症の表を参照。)
| 注F: | シプロフロキサシンあるいはドキシサイクリンが第一選択薬として使用されるべきであるが、臨床的な回復があれば、成人では、アモキシシリン 500 mg を一日3回(1500 mg 分3)子供では、アモキシシリン一日総量80mg/kgを3回に分けての投与に切り替えてもよい。但し、子供では一日500mgを3回投与以上の用量を越えないこと。(我が国ではアモキシシリンのこれらの用量は保険適応外である。これらの用量をCDCが推奨するのは、経口のアモキシシリンで十分な血中濃度を達成し、炭疽菌の発育を押さえるための十分な濃度を保持するためである。)
| 注G: | 他の文献では、これまで、皮膚炭疽症の治療は、7−10日間を勧めるものもあったが、バイオテロリズムという状況下では、炭疽菌吸入の可能性が否定できないため、治療期間は、60日間が推奨されている。
| 注H: | 注Cと同様に、子供へのテトラサイクリン系の抗菌薬の使用には、副作用の可能性があることに留意し、生命に危険のある炭疽症のリスクとのバランスを考慮することが必要である。
| 注I: | 注Dと同様に、妊婦に対しては、テトラサイクリン系は、用量依存性の歯や骨の発達障害をきたすため通常は勧められないが、生命に危険の有る場合、妊娠6ヶ月以内の場合、7−14日間は使用してもよい。
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