感染症危機管理対策協議会

講  演
生物兵器への対応について


帝京大学教授
志 方 俊 之

 


以下は、平成13年3月16日に日医会館で開催された、感染症危機管理対策協議会における志方教授の講演録です。


 ただいま紹介いただきました志方でございます.時間が短いですが,皆様のお手元に資料を配りましたのでこのなかのを少しずつ飛ばしながらご説明いたします.

 大きな項目としましては,第一はどうして,今,生物兵器が最大の関心事になってきたかということです.第二は生物兵器の概要,どういうものかということやその効果です.それから,第三はどうやってそれに対応するかということであります.対応のための器材や部隊ですね.それから,最後は,これを国際的な条約で何とか封じ込めるといいますか,そういうような現在の努力です.すなわち米国の生物兵器に対する取り組みの現況と,だいたいこういうような道筋です(スライド1).

 国際社会は,次の3つの要因で二極化する傾向にあるということですが,まずNuclear Divided,第二はDigital Dividedです(スライド2).これについては説明する必要はございません.第三はValue Dividedです.これから核兵器を使うことは,まずまず考えられません.しかし核を持っている国は国際的な発言力が大きくなって,持たないともう話にならないという,すなわち核保有国と非核国との間の発言力の差はますます開きます.これはデジタル化が進んだ国とそうでない国との差はますます開いていくということと同じようなことです.それから,Value Dividedというのは次のようなことです.先進デモクラシーの国同士が戦争をすることはまずありません.例えば,イギリスとドイツがもう一遍戦争するといったことはありません.しかしながら,これからの戦いというのは,価値観の違う国同士,あるいは同じ国のなかでも価値観の違う集団の間で戦争が行われる可能性があるという意味です.こういうバックグラウンドがあるのです.

 それでは,軍事技術はこれからどうなるかといいますと,次の4つの座標軸で動くだろうと思われます(スライド3).まず,「圧倒的な力」というのは,これは核兵器そのものでありまして,この「圧倒的な力」によって抑止されているから核保有国同士の大きな戦争,例えば米ロ間の戦争や米中間の戦争は,もう考えられません.やれば必ずやり返されて破滅していくということですから,核があるということが,言ってみれば,逆に大きな戦争を抑止しているということになるわけです.

 次は,「効率の良い力」です.真夜中に2000kmも離れたところから精度が目標から10mとはずれないようなミサイルを打ち込んでくるということです.これからの戦いは国と国,主権国家と主権国家がやるというよりも,ある国が国際的なルールに違反した,そういうものを国連安全保障理事会が,あの国はよくないと説得をします.それでも言うことを聞かない場合には力を行使する.これは湾岸戦争がそのタイプですが,そういう場合,参加国は,自分の国の国益のために戦っているという感覚はなく,言ってみれば,国際貢献の一部のようなものです.そうなると,そんな戦いで死んでたまるかということになるわけです.したがって,相手の弾が絶対届かないようなところから打ち込んで,こちらは絶対相手を倒せるという戦いとなるのです.

 ですから,コソボ紛争でも,アメリカ軍は1人も戦死者が出ておりません.湾岸戦争は,55万人が戦って,125人が戦死したといわれておりました.その大半は友軍同士の間違った戦いであったり,地雷に触れたというようなことであります.これからの戦いは,人が死んではならないということであります.そうだとすれば,ものすごい高度な技術を使った力が必要なのであります.

 それから,「抑制された力」というのは,今,パレスチナで行われているような戦いです.ゴム製の弾で打つとか,催涙ガスとか,要するに,Non-lethalなWeaponで戦うようになってきています.

 本日,お話をする生物兵器は,非対称的(アシメトリック)な力です.要するに,Nuclearも持てない,ミサイルも持てない.「抑制された力」を行使するものでもないという,そういう国とかグループが,いちばん使いやすいと誘惑にかられるのがケミカルなもの,それからバイオロジカルなもの,それから,中性子線源によるものです.中性子線源は,JCOのような事故を人工的に起こすというようなことであります.

 Revolutional Military Affairs(RMA)という言葉がよく新聞に出ますが,軍事における革命というのは,ナポレオン戦争以来第一の波,第二の波と来まして,今,第五の波にあります(スライド4).それで,恐らく,これから先,戦車とか大砲とかこういうものが戦闘の中心になる戦いはなくなってくるだろうと思います.いま持っている兵器の意味がなくなってきます.例えば,このパソコン1つとっても,4〜5年前に買ったものは今はほとんどもう使えません.それと同じように,去年のものもほとんど使えないというようになってくる.これが現在の波です.

 第五の波というのは,戦争形態が多様化するということです.要するに,だれが敵かわからない,どこが戦場かわからない,何が目的かもわからない,そして,使われる手段は生物兵器だとか化学兵器だとかという非対称(アシメトリック)なものです.それから,Cyber Warです.どこかの大学生がつくったウイルスが世界中のコンピューターを台無しにするというようなことがあります.

 生物兵器の定義は,「人員等に感染・増殖する病原性微生物・毒素等の生物剤,またはこれを充填した各種砲弾・ミサイル等の総称」を言います(スライド5).したがって,病原菌そのものも兵器であるし,それを充填した砲弾あるいはミサイルも生物兵器でございます.

 生物兵器が使われた例はあまりありません.昔は,天然痘のウイルスの付いた毛布をインディアンに贈ってインディアンが天然痘になっていくということもあったそうです.旧ソ連時代の1979年にスベルドロフスクで炭疽菌が漏出したのではないかという疑惑があって,これはロシアは最近正式に認めたのですが,そういうものをつくることも禁止されているわけですから,これは一種の条約違反行為だったわけです.それから,1992年の湾岸戦争後に,イラクで国連の査察団が弾薬庫のなかで生物兵器の弾頭を発見しました.これをみんな破壊しましたが,こういうことがあって,幸いなことに,未だここで使われたという例はありません.しかし,いずれ使われるであろうということで,今,米国は真剣に取り組んでいるわけでございます.

 まず,生物兵器の特徴は,非常に製造が容易で安価に大量生産できることです(スライド6).例えば,1平方キロに存在する敵あるいはそこにいる市民に大量の犠牲をもたらすために必要な経費は,大砲や戦車だと2,000ドル,核兵器だと800ドル,神経ガスのようなサリンを使うと600ドル,生物兵器を使うと1ドルで済むという,これは極端な例です.だれでも使える,いわゆる「貧者の核兵器」と言うことができます.

 次は,少量で済み,持ち込みが容易であることです(スライド7).これは本当にそのとおりであり,万年筆等に入れて持って入ってくればほとんど見つけることはできません.

 3番目は,検知同定が困難で,潜伏期間があって,防護手段が限定されるということです(スライド8).化学兵器は,先般のサリン事件もそうでしたけれども,触れた途端にほとんど即死状態になりますから,バタバタと周りの人が倒れていくことで,これは何かあったぞとすぐわかります.特に,サリンのように,無色透明で常温で気体となりますと,絶対これはわかりません.しかし,周りの人が倒れていくから,ああ何かあるということになって,そして自分がわかったときは自分も死ぬということで,化学兵器は案外わかるのです.しかし,生物兵器は,家に帰って5日か6日ぐらいしてから発症して,それがその間にたくさんの人と接触してどんどん広めていくという,そういう怖さがあります(スライド9).

 もう1つは,治療には専門的な医学能力がないとできず,これは自衛隊でも,今,非常に困っています(スライド10).衛生兵がいるのですけれども,力が限定されていますから,そういう意味では非常に難しいのです.

 最後に,心理的な効果が大きくてパニック状態になります(スライド11).生物兵器はこういう具合に怖い兵器と言うことができます.

 分類としましては,対象による分類で,敵の人体に入れて,殺さないというのが重要であります(スライド12).要するに,死ねば穴に埋めてしまい,相手は身軽になってしまいます.ですから,殺さないわけです.そして,うんうんうならせておき,それが原因でどんどん伝染していくということです.地雷等もそうです.一発の地雷で人が即死しないようにつくってあり,足だけがすっ飛ぶという悪魔的な性質を持っています.

 また,直接人体に入れなくても農産物,家畜,食糧,といったものに入れて相手の糧道を混乱させるというのがあります.それから相手の水,水源等に入れるということも簡単にできてしまうということであります.

 生物剤そのものの分類は,皆様がご専門でしょうけれども,大きさで分ければこういうようなもので,ここに書いてあるのは,いちばん兵器として使える可能性が高いといわれているのです(スライド13).特に,このなかの炭疽菌はつくるのが安くて,取扱いが容易で,一番使われやすいのです.オウムも炭疽菌を製造していた疑いがあると伝えられています.

 それから,もう1つの分類は,遺伝子組み換えの有無による分類で,組み換えしないウイルスをそのまま使う場合は普通の病気と同様に対処すればいいわけです(スライド14).しかし,今,アメリカがいちばん警戒しているのは,組み換え技術を利用した生物剤,毒性を高くするとか,耐性を持たせるとか,特定の病気を起こしやすくするとか,特定の目標,例えばある人種とかある部族だけをねらうと,こういうような生物剤でエスニック・クレンジングをするというような怖さがあります.

 効果の一例として,炭疽菌の胞子900kgを充填した弾頭を落とされると,感染領域は2万6,000km2に及び,4〜5日間の潜伏期間を経て発症し,致死率は25〜100%です(スライド15).これは大ざっぱな数字ですが,少なくとも4人に1人は死にます.この2万6,000km2という広さは,広島型の原爆以上のものです.900kgというと,昔,日本は1t爆弾をB29からバラバラ落とされたぐらいですから,900kgというのは大した爆弾ではありません.1発のミサイルで東京都の真ん中に落とされると,原爆が落ちたと同じぐらいの被害を被るという怖さを持っております.

 これはホンデュラスに出た国際緊急援助隊ですが,地震災害ということで,現地へ行ってみればほとんどこの防疫作業ばかりでした(スライド16).ザイールに行った部隊も何はともあれ病人を手当てということばかりでありました.これから先,やはりBiological Warafareというものを我々は非常によく考えておかなければなりません(スライド17).

 先般,雪下日医常任理事などとご一緒して,米国の生物兵器の状況を見に行きましたが,そのなかで対応に出てきた米国の専門官が,日本は首都東京の,しかもその一番政治中枢のある霞ヶ関でサリンが撒かれ,あれほど猛毒の軍用のガスが一般市民のなかで無差別に使われたことは人類の歴史上最初の例である.したがって,日本は先進国家であるというようなことを言われ,もうびっくりしました.本日ご出席の熊谷日医事務局長も,当時,防衛庁の参事官をされておりましたが,当時の対応は,こちらも初めてだったから「想定になかった」ということですが,その後,何をしたかというと,アメリカはあの事件を重く見て,それから対化学戦部隊を編成し訓練し器材を開発しました.そして,ときどき地下鉄や地下街で訓練をするということをやっているわけです.ところが,日本は何をやりましたかと言ったら,地下鉄からゴミ箱をなくしましたというようなことです.いや,もう1つやっていることがあり,何でしょうかと言ったら,1年に1回慰霊祭をやっているということなんです.ですから,これはUndeveloped Country,未開な先進国という悪名を持っているわけであります.

 米国の場合には,例えば,CALLという組織があります.これはCenter of Army Lesson's Learnというもので,要するに世の中で起こったすべての失敗を全部持ってきて研究し,直ちに反省事項と対応策を一般の部隊に返すということをやっています.日本はあってはならないことが起こったから,2度とそういうことが起こらないように祈ろうと,こうなるわけであります.

 これがUSAMRIDという米陸軍の感染症研究所でありまして,見たように窓が1つもありません(スライド18).そして,排気筒は出る空気をしっかり清掃して出すわけです.これは言ってみればCDCのミリタリー版です.USAMRIDはメリーランド州にありますがここにはバイオセキュリティーレベル4という実験室がありました(スライド19).

 それから,これは生物剤にやられたような患者搬送用の特別防護担架で,その搬送チームがいつも待機しており,何かおかしいことが起こった,そういう患者が出たといったら,ヘリコプターでこれを積んで持っていくというものです(スライド20).

 これは未知の生物剤探知車ですが,ここに煙突が3本ぐらい出ています(スライド21).ここから空気を吸いこんでいます.中の検知装置に入れて,これが何の生物剤であるかということを同定します.そして,データをこのテレメトリングで司令部に発信します.ですから,これは無人である場合が多いわけです.こういうもの15〜16台を1つの施設の周りに配置をします.そして風向や風速も測っています.そしてどこかのモニターが何かを検知同定したらそれが司令部にテレメトリングされて,風下のこの地域はすぐ退避しなさいというウォーニングを出すという特殊戦部隊用の装備です.

 これがその中身で,何ということはないんですが,14〜15種類ぐらいの生物剤は検知同定でき,それ以上のものはわからないということです(スライド22).何は同定でき,何は同定できないかということは,機密事項になっています.

 それから,病院に入るときに,この生物化学剤感染症患者を受け入れる,トリアージもするし,それから除洗もするというテントをまず張ります(スライド23).そしてこれは除洗所ですがこれは2つのミリタリーとシビルバージョンの防護衣です(スライド24).

 自衛隊は,先般のJCO事故があってから,高中性子線防護の必要性を感じて,これ自身は核兵器には大丈夫で,それから前面にこういうものを付けて,中性子線も少し下げようというものを今持とうとしております(スライド25).

 それから,アメリカではこういうようなことが発生した場合には,この連邦緊急事態管理庁(FEMA:Federal Emergency Management Agency)が全部音頭を取って,大統領直轄で行動します.FEMAはワシントンの民間のビルのなかにあります.(スライド262728).

 私は,今,石原慎太郎都知事に言われ,東京都の防災及び危機管理のアドバイザーをしておりますが,先般,防災演習を9月3日に行いました.プーチンロシア大統領が来ている日を狙ってというわけではないんですが,銀座通りに装甲車がいっぱい出ていて,プーチンロシア大統領もびっくりしたということです(スライド29303132).

 東京でマグニチュード7.2ぐらいの地震が起こると死者は約7,200名.重傷・軽傷,それから家に帰れない人が150万人ぐらい,大体このぐらいの患者が出るだろうと予測しています.この人たちが,水がなくなって感染症等が発生すると大変なことになるだろうと考えられます.

 どういう被害が起こるかはっきりとはわかりません.東京都はいろいろな免震構造もありますし,コンクリートの建物もありますから案外地震に強いかもしれない.しかし,案外弱いかもしれないとか,何かわからないのです.関東大震災のときの記録はもう街全体が変わってしまって余り役に立ちません.それで,その日,大宮にある化学防護部隊も東京の地下街や,コンビナートにある危険なガス等が出たときの対処用として出動したわけです.

 それから,何といっても水が重要ですが,これは毎時7.5tを浄水給水する装備です.泥水を浄水して,殺菌して配る装備がたくさんあります.それから,衛生科部隊は脳外科手術以外は全部できます.こういうものが自衛隊には13セットあります(スライド3334).

 結局,備えあれば憂いなしということでありますが(スライド35),米国では,ここに広域探知システムとか長距離探知システム,局地用警報システム,統合関門防護システム,あるいは生物剤採取キット,あるいは手持ちの検知器,こういうようなものをどんどん開発して部隊に装備しております.現実に,昨年は,民主党の大統領候補指名大会,それから共和党の大会,両方のコンベンションにこの対生物兵器部隊が展開しておりました.それから,シドニーオリンピックのメインスタジアムもこのアメリカの部隊が行って,オーストラリア軍と一緒になってあの場所での対生物兵器テロに対する防護をしました.

 ところで,日本は沖縄のG8サミットで何をされましたかと,アメリカの係官に尋ねられたわけです.厚生省の方々が病院に名刺を配り事前に説明をして,そして何かあったらここに電話しなさいというサーベイランス体制を確立したわけですが日本としてはしっかりした対処をしたわけであります.私は,めったなこういう悪魔のしわざのようなことは起こらないと思いますけれども,サリン事件があったように,あの事件は一番ありそうもないような国で起こりました.日本はまた生物テロにおいても世界のAdvanced Countryと言われないように,備えておく必要があろうと思うのです.


櫻井常任理事
 どうも先生ありがとうございました.余り時間もないんですが,先生にご質問がある方はご所属,お名前,質問をお願いします.

馬原文彦徳島県医師会常任理事
 徳島県医師会の馬原と申します.
 実は,恐らく,サミットの直前だったと思うんですが,内閣官房室でバイオテロリズム対策専門家会議というのが開かれまして,米国のCDCあるいは米軍の専門家,それから恐らく先生もお出になったんだと思うのですが,自衛隊の専門家の方も集まりまして,いろいろとそのときに議論をしたと思うんです.
 特に,そのときの対象となったのは炭疽菌だったように思うんですが,そういうことの組織論で申しますと,内閣官房室の危機管理室が第1の統治になって,その下に,恐らく,自衛隊あるいは日本医師会感染症対策管理室が入ってくるのではないかと思うのですが,そこら辺の組織論として,日本が今後どうするのか,特に,この炭疽菌のいろいろなことについては,ぜひ日本医師会でもこういうことを流して,当然,そういうのが例えば地域で起こりますと,その地域の感染症危機管理対策の中心になる方は,本日,ご出席の先生方になるんではないかと思うんですけれども,そういうことも含めて,やはり日本医師会としても考えておく必要があるのではないかと思うのですが,先生のほうのいわゆる日本のシステムとしてはどうでしょうか.
 それから,もう1つ対象疾患なんですが,先生のお話を伺いまして,なるほどなと思ったんですが,どうして感染症新法というのはあれだけ死亡率が高いというのにしているのに,1類,2類でなくてここにあるようにQ熱とか何とかになっているわけです.なるほど先生おっしゃるように,即座に殺すのはだめでむしろじわじわといくのが生物兵器だというようなお話でしたが,そこら辺,もうちょっとお知恵をいただけたらと思います.

志方講師
 まず,組織のことでありますが,やはり米国もそうなんですが,これはめったに起こることではございませんし,一旦起これば,大変な社会的影響が大きいわけですから,これは厚生労働省がやるとか防衛庁がやるというものではなくて,やっぱり総理を中心とした内閣危機管理監室があって,そこにそれぞれの専門家が集まる.医師だけでもだめだし,軍人だけでもだめだし,官僚だけでもだめでみんなが知恵を結集してこういう悪魔の兵器と戦わなきゃならないと思うのです.
 ただ,今,聞いてみますと,内閣危機管理監室には厚生労働省の方が1人もいないという話を聞いて,その後どうなったか知りませんが,不思議に思うのであります.防衛庁,外務省,警察,というところからどんどん来ているのに,厚生労働省だけは行かないという,行かないのか行けないのか知りませんが,そういうことで,やはり先ほど米国のFEMAというのがありましたが,国家の中枢から直結した組織,通報組織,対処組織,そして,これはやはり全く常識に反したことが行われるわけですから,対応も常識どおりにやったらまず勝てないわけであります.非常識な対応をするためには,やはりきちんとした特殊な法律をつくって,こういうアラームが出た場合には,あるいは患者が出た場合には,その対処についてはこの法律でいくという特別の法律が何かいるのではないかということであります.
 それから,もう1つの質問は,ちょっと意味がよくわからなかったのですが,やはり,私は,これからの日本の安全ということを考えますと,日本に上陸用船艇で戦車が上がってくるというようなことを考えるのは,当面はあり得ないと思います.そんな国が周りにもないし,そんなことをして得をする国もないわけであります.ただ,何でもありというような感じで,相手が国家ならば交渉相手というのがありますけれども,だれがやったかわからないというようなことは非常に起こり得るのではないかと思います.したがって,こういうアシメトリックな挑戦に対する対応といいますか,そういうものはしっかりしておかないと,にわかに組織づくりもできませんし,にわかに法律もできませんし,にわかに対処部隊もできませんし,そういうものは訓練しておかなければだめなんです.そういう意味で少しずつやっていくようにしなければなりません.
 何といっても国民をこういう脅威から守るためには,いろいろなことを前もってやらなければならないのですが,そのときには,どうしても国民に対する理解といいますか,そういうものがないとやっぱりだめなんです.そこのところをひとつこの各都道府県,各市町村で啓発活動をしていただく.何と言っても,一般社会の理解を得る必要があることから,マスコミ等を使って徐々に広報活動を行っていくということです.
 JCOの事故もまさにああいうことがあって,日本は原子炉の周りで災害が起こったときどうするかという訓練ができるようになりました.それまでは,訓練をする核施設がトラブったときのための訓練をすると言っただけで,もう大変な住民運動が起こったわけです.絶対に起こり得ないからここに立地したのに,起こったらどうするという訓練をするとは何事だということになるわけであります.これも,やはり,先ほどありましたように,万々が一のことを考えて対処する,準備しておくということから考えますと,住民の理解を得ることが大切です.これは非常に根気のいる仕事でありますので,ぜひ皆様にお願いしたいと思います.終わります.
 どうもありがとうございました.

櫻井常任理事
 ありがとうございました.
 危機管理対策というのは,例えば医療事故でも起きないようにいろいろ防御することは大事なわけです.事故が起きなければ,それはいちばんいいんですけれども,でもいろいろなことをしても,医療事故が起きることはあり得るし,また,本日のお話のように,戦争というような場面,あるいは悪意を持ってやる場合の生物兵器とか,そういうリスクが起きることはあるわけですから,起きてしまったリスクをどう管理するか,それが本当のリスクマネジメントなんだろうと思います.その辺を今の先生のお話を参考にさせていただいて,我々も対処していかなければいけないと思いました.