来年1月のマイナンバー制度開始を踏まえ、マイナンバー研修会が8月26日、日医会館大講堂で開催された。
本制度においては、病院、診療所、医師会等も民間事業者としてマイナンバーを取り扱うことになることから、本研修会では都道府県医師会の役職員等を対象に、事業者に求められる手続きなどについて説明が行われた。 |
今村定臣常任理事の司会で開会。
冒頭、あいさつに立った横倉義武会長は、「マイナンバーは極めて重要な個人情報であり、事業主には利用目的の明示や本人確認、個人番号の保管等の安全管理措置などその取り扱いには厳格さと慎重さが求められることになる。それらの状況を踏まえて、今後対応すべき事項等について説明するために、本研修会を開催することにした」と開催の趣旨を説明。
その上で、「医療分野においてはマイナンバーは用いないことになっているが、医療情報については、今後の医療の在り方において重要課題の一つと認識している」と述べ、会内の「医療分野等ID導入に関する検討委員会」でも更なる検討を進め、的確に対応していくとした。
続いて、2題の講演が行われた。
- マイナンバーの取得には利用目的の明示と本人確認を
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「マイナンバー制度の概要」と題して講演した田澤修二厚生労働省政策統括官付情報政策担当参事官室室長補佐は、マイナンバーは10月より個々人に通知され、社会保障、税、災害対策の行政手続きにおける運用は平成28年1月からの予定となっていることを説明。国民は、年金や雇用保険、医療保険の給付等に関する申請など、さまざまな場面でマイナンバーの提示が求められるようになり、事業主は社会保障関係書類や源泉徴収票等にマイナンバーを記載して提出することになるとした。
マイナンバーを従業員から取得する際には、「源泉徴収票作成事務」「健康保険・厚生年金保険届出事務」など、利用目的を明示する必要があり、他人へのなりすましの防止のためにも厳格な本人確認が重要であるとした。本人確認に当たっては、「正しい番号であることの確認(番号確認)」としてマイナンバーの通知カードや番号付きの住民票を、また、「手続きを行っている者が番号の正しい持ち主であることの確認(身元確認)」として運転免許証やパスポートを用いることが原則であると強調。
従業員から扶養親族のマイナンバーを取得するに当たっては、国民年金の第3号被保険者の届出のように、第3号被保険者自身が事業者への届出義務者(従業員は代理人)になるものは、事業者が本人確認をする必要があるとした。一方、扶養控除等申告書のように従業員が事業者への提出義務者になるものは本人確認が不要であるとし、届出の対象者によって扱いが異なるとした。
なお、本来は従業員自身で申請すべき手続きを事業主が代理で行っているものに関しては、委任の手続きをすることで、引き続き可能であるとの見方を示した。
- マイナンバーの取扱規程を策定し、定期的な点検を
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「マイナンバー制度への対応」と題して講演した水町雅子弁護士(元内閣官房社会保障改革担当室参事官補佐)は、本制度の導入によって脱税防止の効果が強調されるが、従来は個人から申請がなければ受給できなかった社会保障給付についても、行政から連絡するなど、サービスの充実につながる面があることに言及。マイナンバー制度に伴い新設される情報提供ネットワークシステム「マイナポータル」では、各人に必要な行政の情報をインターネットから確認できるようになるとした。
また、マイナンバーは社会保障・税・災害対策の3分野のうち法令で定められた事務でのみ利用が認められるなど、検索キーとして悪用されないよう、他の情報を紐(ひも)付けない配慮がなされていることを説明。内閣府外局の第三者機関として設けられた「特定個人情報保護委員会」が適正な取り扱いを確保するための措置を講じる他、悪用した者には罰則が適用されるとした。
一方、民間事業者にはマイナンバーの取り扱いに関して個人情報保護法より厳しい取り扱いが求められており、安全管理措置として、基本方針(外部への宣言)や取扱規程(事務マニュアル)を策定し、取扱記録を作成して取扱状況を定期的に点検する必要があることを強調。まずは、「誰が」「何のために」「どんな情報を」取り扱うかを洗い出した上で、個人のモラルに委ねず、組織としてどう守るかを決める必要があるとした。
その上で、具体的な準備のポイントとしては、(1)なりすまし防止のため、マイナンバーを取得する際の本人確認方法を決定する、(2)念のためマイナンバーを聞いておくというように必要以上に入手せず、必要がなくなったら安全な方法で廃棄する、(3)委託先を監督し、再委託の有無を確認する─などの対策を挙げた。
更に、マイナンバーと医療との関係については、「社会保障の中に健康保険が入っているので、健康保険の手続きにおいては使われることになっている。ただし、社会保障のうち保険料等、お金の管理だけに用いられる」と説明した。
質疑応答の後、今村聡副会長が総括し、「マイナンバー制度の導入により、事業所として医師会や各医療機関にかなりの業務が発生するが、この対応について知っておいて頂きたい」と述べ、地区医師会や会員に周知するよう要請した。
当日は、45都道府県医師会がテレビ会議システムにより受講。参加者は、テレビ会議システムで視聴した都道府県・郡市区等医師会の役職員及び会員、医療関係者等を含め、合計1783名であった。
なお、日医ホームページのメンバーズルームでは本研修会の模様を映像配信している。また、今後は内閣官房等の情報と共に、日医のマイナンバーへの取り組みについて順次掲載していくので、参照されたい。
解説 マイナンバーに対する日医の見解
常任理事 石川 広己
これからの超高齢社会において、社会保障の財源を確保するためにも所得の正確な捕捉を行うことは必要なことであり、そういった意味においては、日医として、マイナンバー制度の導入に反対はしておりません。 日医が問題としているのは、その利用範囲に関してです。医療情報は極めて機微性が高く、万が一その情報が漏れてしまった場合には取り返しのつかないことになりかねません。そのため、診療や検査、投薬、入院などの医療行為で支給されるもの、すなわち現物給付の部分に関しては、マイナンバーそのものを用いられることに強く反対するとともに、医療等IDを用いることを主張し続けた結果、本年6月30日に閣議決定された「日本再興戦略改訂2015」の中に、その趣旨を盛り込むことができました。 日医では、現在、本年3月に設置した「医療分野等ID導入に関する検討委員会」において、厚生労働省、内閣官房、経済産業省、総務省の実務責任者にもオブザーバーとして参加頂き、医療等IDをどのように発生させるか、また運用していくための課題等について議論を行っているところです。 医療等IDは、医療・介護連携の時代、そして医療ビッグデータの利活用の時代において、国民が医療・介護を安心して受けることのできる社会を実現するためにも必要な手段であり、何とかこのシステムを完成させていきたいと考えています。 このように、医療分野においてはマイナンバーを用いないとしても、会員の先生方の中には、講演料を受け取る際にマイナンバーを提示することや、雇用者として従業員のマイナンバーを管理することが求められますので、全く関係がないということはありません。 日医といたしましても、マイナンバー導入に伴う行政等への提出書類などの書式改訂の際に、必要もなくマイナンバーを転記させる書式にすることのないよう、省令や通知などで徹底することを厚労省に要望しておりますが、その取り扱いには十分注意して頂きますよう改めてお願い申し上げます。 |