平成27年度第2回都道府県医師会長協議会が9月15日、日医会館小講堂で開催された。 当日は、10月から始まる医療事故調査制度の課題など、道県医師会から事前に寄せられた8つの質問・要望に対して、担当役員が回答した他、日医からは4つの事項について報告を行い、更なる協力を求めた。 |
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会長あいさつ
協議会は今村定臣常任理事の司会で開会。
冒頭のあいさつで、横倉義武会長は、平成28年度の診療報酬改定について触れ、「現在、改定の財源確保に向け努力を重ねているところであるが、国民皆保険を堅持していくためには、医療側も効率的な医療の提供に取り組んでいく必要がある。国の財政状況が厳しい中でも、国民に必要な医療が提供できるような診療報酬のあり方を模索していきたい」と述べるとともに、「医療機関がどのような医療機能を選択しても、地域の中で安定した運営ができる診療報酬体系が必要だ」と強調した。
更に、「年末に向けて、しっかりとした国民医療を守る体制をつくり上げていくための財政措置の実現のためにも、医療界が一丸となって対応していかなければならない」と指摘。今後は、国民医療推進協議会による国民運動を展開するとともに、その一環として、12月9日に東京・日比谷公会堂で国民集会を開催する意向を示し、「都道府県医師会においても、地元選出の国会議員に対する働き掛けを強めるなどの協力をお願いしたい」と述べた。
協議
- (1)在宅専門診療所の要件緩和について
- 在宅専門診療所の要件緩和は慎重であるべきとする山口県医師会からの質問には、松本純一常任理事が回答した。
同常任理事は、中医協では、在宅専門診療所について次回改定の議論の中で検討する予定となっており、一部の新聞報道にあるような合意はしていないとした上で、わが国においては、在宅も施設も活用する日本型のシステムを構築していく必要があり、日医としては、かかりつけ医の外来の延長としての在宅医療が中心であるべきと考えていると改めて主張。
その一方で、今後、かかりつけ医の在宅医療だけでは量的に十分に対応できない場合も想定されることから、かかりつけ医の在宅を補完する仕組みが必要になるとしつつも、安易な制限の見直しはするべきではないとした。
更に、在宅医療を中心に行う医師も地域包括ケアシステムの一員として参加すべきであるが、在宅を企業的に行っているケースに対しては、診療地域や規模をあらかじめ制限しておくなどの対応も必要になると指摘。今後の中医協の議論においても、特に注意して対応していく意向を示し、理解を求めた。
- (2)准看護師養成問題について
- 福岡県看護協会が、看護資格の一本化を目的に准看護師養成の停止を目指す活動を行っていることについて、他の都道府県の状況を問う福岡県医師会からの質問には、釜萢敏常任理事が回答した。
同常任理事は、三重県における事案を説明するとともに、日本看護協会長に対し、日医としては、今後も准看護師の新規の養成が必要であると考えている旨、改めて強く主張したことを報告した。
また、「平成26年12月末現在、全国で34万人の准看護師が就業しており、その果たす役割は大きいものであるにもかかわらず、平成8年以降、准看護師養成所の新規開設は1校も見られず、准看護師の新規養成数は減少傾向が続いていること」「現在就業する准看護師の年齢構成は50歳以上の方が多く、今後の就業者は減っていくことが予想されること」に危機感を示し、社会人が新たに看護職を目指す受け皿の一つとして、准看護師養成所が存続できるよう、引き続き全力で取り組んでいくとした。
- (3)警察活動に協力する医師の部会について
- 北海道医師会からの警察活動に協力する医師の部会に関する質問には、松本常任理事が、日医では、警察活動に協力する医師の全国組織化に平成26年度より着手し、本年1月10日に初の連絡協議会と学術大会を開催したと説明。現在、警察庁が全国の都道府県警察に対し、検視立ち会い、留置人管理等の業務の委嘱状況、待遇、補償等の実態調査を実施中であり、結果がまとまり次第、「警察活動等への協力業務検討委員会」での検討を再開予定であるとした。
また、検視立ち会い医への謝金と活動中の事故への補償に関する十分な財源確保を警察庁に予算要望しているとした。
各都道府県医師会の部会の運営経費の補助に関しては、本来、国・行政が財政措置を講ずるべきであるが、都道府県の警察と医師会による研究会や勉強会の開催費用の補助を予算要望に盛り込むなど、国に対する要望を引き続き重ねていくとした他、並行して医師会組織自らによる解決策も検討していくとした。
- (4)医療事故調査制度...今、見直されるべき医師会のスタンスについて
- 兵庫県医師会からの、(1)Ai・病理解剖の実施受け入れ等の調整(2)日本医療安全調査機構、日本医療機能評価機構と日医の関係並びに支援団体の活動に対する公的援助(3)医療事故調査制度開始後の「検証システム」─に関する質問には、今村常任理事が回答した。
(1)には、各地域で「顔の見える関係」の中で連携・調整を図る重要性を指摘。日医では、各地域での支援体制構築について、全国医学部長病院長会議と協力合意するとともに、Ai情報センターと症例受け入れ条件等の協議中であり、ご遺体の搬送、保管等の円滑な手配のため、「全日本葬祭業協同組合連合会」と包括的な協定を締結する準備中であること等を報告した。
(2)には、日医役員が他の2団体の重要な役職を担い、密接な関係を築いていることを説明。また、院内事故調査の費用に関しては、医療機関自らの負担とされており、支援団体の活動も公的支援の対象とはされないが、現在、医療機関・支援団体の職員研修を、支援センターから日医への委託事業として実施する方向で協議中であるとした。
(3)については、厚労省に置かれるのが一般的だが、会内に第三者的な検証会議を設けることも検討したいとした。
- (5)医療事故調査等支援団体のランニングコストについて
- 神奈川県医師会からの「医療事故調査等支援団体として、相談業務を24時間体制などで実施する場合の費用補助」「県内の支援団体連絡協議を実施する場合の費用補助」についての要望には、今村常任理事が、支援団体の活動は院内事故調査の範疇(はんちゅう)であり、院内事故調査に関しては基本的に医療機関の負担とされることから、支援団体についても、現時点では、国の予算はつけられておらず、支援団体の連絡調整も、医療側の負担で行うことになると説明。
厚労省によれば、法律に規定されている「支援センター」の七つの業務のうち、支援団体である医師会に委託可能なものは、「教育研修」に関わる項目であり、制度開始後当面の間は、医療機関・支援団体関係者を対象とした教育研修事業を幅広く担いつつ、医師会組織の取り組みを当局に認識してもらう中で、国からの助成等を増強するよう、強く働き掛けていくとして、理解と協力を求めた。
- (6)地域医療連携推進法人について
- 「医療法の一部を改正する法律」案における地域医療連携推進法人の創設に関する奈良県医師会の質問には、今村常任理事がまず、同法人は、厚労省の「医療法人の事業展開等に関する検討会」において、日医が提案した「統括医療法人(仮称)制度」を基に策定されたものであると説明。
その上で、同制度では、特定の医療機関による支配を避けるために、参加法人の議決権は1社員1議決権を原則としており、例外的に定款で異なる取り扱いをする場合も、出資額に応じた差別を禁止するとともに、医師会長等の地域の関係者が「新型法人」の理事に最低1人は就任することなどが規定されていること等を挙げ、「日医として、今後の制度の具体化に当たり、中小病院が大病院に支配されるような不当な事態が起きないよう厳しく監視をしていく」と述べ、都道府県・郡市区医師会に理解と協力を求めた。
- (7)独立行政法人日本スポーツ振興センターへの医療費請求に伴う文書料について
- 学校の管理下における事故等により提出する書類「医療費等の状況」の文書料に関する滋賀県医師会からの質問には、道永麻里常任理事が回答した。
同常任理事は、本制度は、昭和35年の学校安全会の制度として発足した当時、武見太郎元日医会長が文部省担当局長に対し、「子どもの健康と幸福のために『医療費等の状況』の手数料を無料にする」として以来、関係医療団体の協力を得ながら50年運用され、医療関係者の社会貢献として大変意義深いものになっているとの認識を示した。
その上で、同常任理事は、帳票を作成する医療機関の事務負担の軽減に向けて、昨年度から日本スポーツ振興センターと打ち合わせを重ね、「医療費等の状況」の書類をレセプトコピーで代用する方法を日医から提案し、「問題はない」との回答を得ていることを説明。
今後、モデル事業による検証を行い、実務的に可能となれば、レセプトコピーによる請求も可能とする方向で検討したいとして、モデル事業への参加を求めた。
- (8)平成27年度地域医療介護総合確保基金について
- 平成27年度地域医療介護総合確保基金に関する長野県医師会からの質問には、釜萢常任理事が回答した。
同常任理事は、第1回目の内示の後、厚労省から看護師等養成所運営費補助金など、継続実施が不可欠な既存事業に十分配慮することなどを示した文書が発出されていることを紹介。この文書には、「各事業をどの事業区分に位置づけるか、都道府県は厚労省とよく打ち合わせすべき」という趣旨が込められており、都道府県医師会からもその点を指摘して欲しいと要望。日医としても、国庫補助から基金に移行した継続事業については、優先して手当てするように引き続き厚労省に働き掛けていくとした。
また、「都道府県の裁量で事業区分間の額の調整を可能とすべき」との指摘に対しては、「基金の配分が『財務省協議』となっているため困難」とした上で、事業計画の立案の段階での工夫を求めるとともに、「厚労省で基金の柔軟な配分ができるよう、財務省との折衝も含めて強く求めていく」との意向を表明。今後も、都道府県が年度の早い段階から基金を活用した事業を実施できるよう、本年度の第2回目や翌年度の配分が早期に示されるよう注視していくとした。
協議
- ●マイナンバーと医療等IDについて
- 石川広己常任理事は、資料「マイナンバーと医療分野における番号」を基に、マイナンバーの利用範囲など、制度の仕組みを説明。医療分野に関しては、取り扱う情報の機微性が高いことから、マイナンバーとは別の医療等分野専用の番号(医療等ID)が必要になると強調した。
その上で、現在、会内の「医療分野等ID導入に関する検討委員会」で医療等IDの発番方法等について検討を行っていることを報告。「日本歯科医師会、日本薬剤師会とも協力し、その創設を目指していきたい」と述べた。
- ●水銀血圧計等の回収に関するセミナーについて
- 羽鳥裕常任理事は、水銀が人の健康や環境に与えるリスクを低減するための包括的な規制を定める「水銀に関する水俣条約」が平成25年に採択されたことから、平成32年以降、水銀を使った製品の製造や輸出入が原則として禁止される見通しであることを報告。
そのため、「環境省が水銀血圧計等の回収に向け、9月から11月にかけて、東京、仙台、名古屋、大阪、福岡でセミナーを開催すること」「日医でもセミナーを踏まえて、12月2日に都道府県医師会医療廃棄物担当理事連絡協議会を日医会館で開催すること」などを紹介し、積極的な参加を呼び掛けた。
- ●日医会員情報システムの再構築について。
- 今村常任理事は、会員情報システムの再構築に関して、その目的は都道府県医師会との相互利用による会員サービスの向上にあるとし、都道府県医師会と繋(つな)がるシステム環境を構築するため、クラウド化を図ることにしたと説明。
その第一段階として、(1)「日医が管理している会員情報を一元化し、都道府県医師会と情報を共有化」「都道府県医師会に、新規入会等の会員情報を仮登録してもらうことで入退会・異動処理のタイムラグの短縮」を目指している(2)新システムの本稼働は来年の2月29日を予定している─ことなどを報告し、「当分の間は、日医単独での運用を予定しているが、対応可能な医師会から順次ご協力をお願いしたい」と要望した。
- ●電子書籍サービス「日医Lib」新機能「都道府県医師会報の配信機能」準備について
- 小森貴常任理事は、電子書籍サービス「日医Lib」に『都道府県医師会報』の配信機能を追加する準備を進めていることを報告。
カラーページの数や総ページ数によっても費用は変わってくるが、初期費用は10~15万円になると説明した。
その上で、「これにより、若手医師が気軽に医師会の情報に触れることができるようになると考えている。日医から近々のうちに案内を送付するので、ぜひ検討して欲しい」とした。
なお、協議に先立って、小松満茨城県医師会長、太田照男栃木県医師会長、嘉数研二宮城県医師会長から、台風18号の被害状況の説明とともに、日医始め都道府県医師会からの支援に対する感謝の言葉が述べられた。
その他、小松茨城県医会長は、マタニティハラスメントにより、男女雇用機会均等法に基づいて、同県医師会の会員の医療機関名が公表されたことに触れ、「ご迷惑をお掛けしたことを陳謝したい」と述べた。その上で、県医師会として引き続き、医の倫理の向上に努めていくとの考えを示した。