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平成28年(2016年)2月5日(金) / 南から北から / 日医ニュース

手作りのサンドイッチ

 ロサンゼルスの病院での留学時代のことである。われわれClinical Fellowは、主に冠動脈バイパス術などの心臓手術の第一助手を務め、1チームに対し、1日に午前と午後の2例(全チームで1日7~8例、年間1500例となる) 手術が割り当てられることが多かった。これらの手術の間に、サンドイッチなどの軽食が提供される。大きなローストビーフやツナなどを挟んでボリュームもあり、味もおいしく、コーヒーも自由で、かつすべて無料である。
 手術の器械出し専任のナースにキャサリン(仮名) というアフリカ系米国人の女性がいた。専門に特化していることもあり、仕事も早く、超ベテランである。
 ところで、この病院で訓練を受けた日本人医師の間には、代々病院スタッフの人物批評が伝えられてきた。キャサリンというナースは2人いたが、1人は、日本人に対しやさしく、親切であったが、もう一人の器械出しナースは、器械台の脇から術野を見下ろし、Fellowに対しいろいろ批判を加えたり、注文の器械をすぐに出さなかったり、意地の悪いことが多く、悪キャサと伝えられてきた。小生も実際、小さな血管の止血の時に、通常1カ所2個の止血クリップを使うが、自信がなく、3個使ったりすると、「Waste of time!」と言って怒られる。「Waste of money!」と言わないところが、さすがアメリカと納得したりしていた。
 ある休日、緊急手術で呼び出された。1例目が終わる頃、もう1例あるという情報が入った。このような休日は、昼食の差し入れもないし、カフェテリアも休みで、病院の近くの店も思い当たらない。仕方なく、病棟にあるコーヒーかホットチョコレートに砂糖とミルクをたっぷり入れ、クラッカーでしのぐことが多かった。この日は、あのキャサリンが器械出しに当たっていた。
 1例目の手術が終わり、術後の指示も出し終えて休憩していると、彼女がラウンジにやってきた。昼食は食べたか? と聞く。まだだと答えると、自分のサンドイッチを食べろと言う。手作りしたものを半分くれたのである。女性らしく、小さなバスケットにきちんと角が切られたものが数個入っていた。中身はハムやサラダなどの一般的なものであったと記憶しているが、空腹の身にはこの上なくおいしかったことが忘れられない。
 他のスタッフは昼食をどのように用意しているかは分からないが、あの評判の悪いナースにこのような親切を受け、人間の心は外見だけでは分からないものだとしみじみと見直し、一面だけで判断してはいけないと思い知った。その後の手術の時には、何となく見方が変わってしまった次第である。

新潟県 新潟市医師会報 No.526号より

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