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平成28年(2016年)3月5日(土) / 日医ニュース

患者さんからの贈り物

 20年ほど前から高血圧で当院にかかりつけの男性患者さんとの話です。昔は少しやんちゃな事もしていたようで、私が「軍鶏(しゃも)鍋が好きだ。食べたい」と言うと、「俺は昔、闘鶏をやってたから、軍鶏なら手に入るよ。今度持ってきてやっから」と、どういう経緯かは忘れてしまいましたが、診察中にそんな話になりました。
 数日後、軍鶏が届きました。妻が小型の段ボールに入った軍鶏肉を受け取ったのですが、午前の診察を終えた私は玄関先に置いてある段ボールを見つけ、妻に「誰から頂いたの?」と、聴いているうちに異変に気付きました。箱の中からかさかさと音がするので、恐る恐る少し開けてみると、何と元気な雌の軍鶏がこちらを見て私をつつこうとしているではありませんか。
 「生きてるじゃないか」当然下ろしてある(できれば、内臓と筋肉がプレパレーションされている状態の)ものと思い込んでいた私は妻に怒りをぶつけました。
 どうやら妻の「困りますから」という言葉を聞き流して、「先生なら絞められるよな」と言って置いて行ってしまったようです。
 頸動脈を切って羽をむしるなど内科医の私にできるはずもなく、向かいの居酒屋の親父に相談しましたが、あっさりと「そんな酷(むご)いことできないよ。牡蠣の殻を開けるのとは大違いだよ」と断られてしまいました。
 しかし、その居酒屋の親父の実家では鶏を飼っており、その軍鶏ちゃんも一緒に飼ってくれることになり、現在は名前も付けてもらい毎日卵を産んで幸せに暮らしているとのことです。
 さて数日後の診察室では、「先生あの軍鶏の味はどうだった?」と患者さん。「両国の料理屋さんより美味しかったよ。今度は雄の内臓だけ持ってきて欲しいな」と私。忘れられない贈り物でした。

(がんこ親父)

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