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平成28年(2016年)5月5日(木) / 日医ニュース / 解説コーナー

国民に対して過不足のない医療が提供できるような診療報酬体系の構築を目指す

国民に対して過不足のない医療が提供できるような診療報酬体系の構築を目指す

国民に対して過不足のない医療が提供できるような診療報酬体系の構築を目指す

 本年4月に実施された診療報酬改定について、今号では中医協委員として改定議論に携わった松本純一常任理事に、そのポイントなどについて改めて話を聞いた。

Q 初めに、今回の改定率に対する受け止め方を改めて教えて下さい。

A 厳しい国家財政の下で、財政制度等審議会からは診療報酬本体に関してもマイナス改定を求める建議が出される等、今回の改定を取り巻く環境は大変厳しいものがありました。
 そのような中において、日医では会員の先生方を始め、都道府県医師会等の協力の下、横倉義武会長を中心に執行部一丸となって活動を行った結果、診療報酬本体でプラス0・49%を確保することができました。会員の先生方には、本紙面を借りまして、改めて感謝申し上げたいと思います。
 しかし、薬価改定で捻出された財源が、医科本体には十分に充当されず、従来のルールに基づく「市場拡大再算定(通常分)」と、年間販売額が1000億円を超える医薬品の薬価を例外的に引き下げる「市場拡大再算定(特例分)」による引き下げ分を、「外枠」に位置付けられたことは大変問題であると考えています。
 このような不透明なルールは常態化させるべきではなく、その見直しを強く求めていきたいと思います。

Q 改定内容の主なポイントなどをご説明願います。

A 今回の改定の特徴としては、「患者に身近な診療所や中小病院のかかりつけ医機能の更なる評価が行われたこと」「モノから人への評価が行われたこと」「質の高い在宅医療を確保する施策がなされたこと」「医療機能に応じた入院医療の評価がなされたこと」等が挙げられます。
 前回改定で創設された「地域包括診療加算・診療料」については、改定財源が少なく、施設基準要件も厳しく設定されたため、算定数が期待したほどは伸びていませんでしたが、今回、常勤医師3人以上を2人以上にする等、要件緩和がなされたことには一定の評価をしたいと思います。
 しかし、地域内で他医療機関とチームを組むことにより緊急時に対応できるようにすれば、同一診療所内に常勤医師が複数いることにこだわる必要はないのではないかと考えています。より多くの一人医師診療所に地域包括ケアシステムに参加してもらうためにも、更なる見直しを引き続き求めて参ります。
 また、今回、かかりつけ医機能の評価を認知症や小児にまで拡大することになりました。
 認知症は超高齢社会を迎えているわが国にとっては大きな課題であり、その対応が喫緊の課題となっています。そういった意味でも今回の措置は評価したいと考えています。
 その一方で、患者さんやその家族の方々が、明細書等に認知症と明記されることに心理的な負担を感じることをおもんばかって算定することを躊躇(ちゅうちょ)される先生方も多いのでは、との懸念の声も聞かれておりますので、名称の変更等については次回改定の課題としたいと思います。
 小児では、「小児かかりつけ診療料」が新設されました。自宅や親の職場、保育所からの利便性等を踏まえると、複数のかかりつけ医を持っている人も多いのではないかとの指摘もありますが、小児のかかりつけ医は、予防接種、健診、健康相談等も含め、その子を全体的に診ていくことが必要であり、同診療料の理念からすれば、まずは1人の子どもに対して同診療料を算定できる医療機関は1カ所とするのが望ましいのでないかと思います。
 外来機能分化の観点からは、「紹介状なしに大病院を受診した時の定額負担」も導入されましたが、今後はこうした流れの中でかかりつけ医機能を更に強化し、次回の改定においてもその評価を求めていきたいと思います。
 また、「特定疾患療養管理料」について、「初診の日または当該保険医療機関から退院した日から起算して1カ月を経過した日以降に算定する」ことを通知上明確化しました。
 更に、日医はかねてより「モノから人へ」を強く主張してきましたが、医学・医療の進歩に伴う新技術の保険適用や、医師の基礎的な技術の再評価など、財源が少ないにもかかわらず、医師の技術が適切に評価されたと考えています。
 「質の高い在宅医療の確保」の観点からは、重症度・居住場所に応じた評価、月1回の訪問診療による管理料の新設などが行われました。
 前回改定では、不適切事例に対応することのみが重視されたため、在宅医療に真摯(しんし)に取り組んでいる医師のモチベーションを下げることになってしまいましたので、今回はきめ細かい評価をする改正になりましたが、同一建築物においても一人ひとりの患者さんを診察することには変わりはなく、人数によって点数を細分化することは再検討すべきではないかと思っています。
 また、今回新たに、一定の要件の下で、在宅医療を専門に行う診療所を認めることになりました。
 日医では、これまで、かかりつけ医の外来診療の延長線上に訪問診療や往診があるべきであると考え、在宅専門診療所に関しては反対をしてきました。
 以前から、在宅医療に熱心に取り組まれている先生方の中には、「在宅専門の診療所なんてとんでもない」と考えておられる方がいらっしゃることは十分承知しておりますが、今回の措置は、特に都市部を中心に在宅医療を担う医療機関が不足している現状も踏まえ、かかりつけ医による在宅医療を補完する方策となればと考え、認めることとしたものです。
 現在、その構築を進めている地域包括ケアシステムを壊すような在宅専門診療所が出てくるようでは問題がありますし、営利企業がからむ不適切事例が生じるようなことは断じて認められませんので、開設要件には「地域医師会から協力の同意を得ていること」などを入れました。
 在宅専門の診療所の方々には、ぜひその趣旨をご理解頂き、積極的に地域医師会と協力し、地域医療を守っていって頂きたいと思います。
 その他、休日の往診に対する評価を新設し、2つ以上の医療機関で、同一患者について異なる疾患の在宅自己注射指導管理を行っている場合、それぞれの医療機関で指導管理料を算定できるようにすることなども行いました。
 「医療機能に応じた入院医療の評価」として見直された中でも、特に影響が大きい事項としては、「7対1入院基本料の施設基準の見直し」が挙げられます。
 中医協において、支払側は前回改定で7対1の要件を厳しくしたにもかかわらず、7対1病床の数が減っていないことを根拠として、その要件を更に厳しくするよう求めてきたのに対して、診療側からは、「前回の改定で見直しをしたばかりであり、朝令暮改の見直しはやめるべきであること」「平均入院患者数、病床稼働率も減少しており、届出病床数を減らしても意味はないこと」等を強く主張し、反論してきました。
 最終的には、見直すことにはなりましたが、地道に地域医療を支えている中小病院を守ることが必要と考え、交渉の結果、200床未満の病院に関しては、病棟群単位の届け出を利用しない場合には2年間、「重症度、医療・看護必要度」の該当患者割合を23%以上とするとの措置を設けることができました。
 高齢化による疾病構造の変化に対応するため、急性期後の受け皿病床への転換を促すという趣旨については理解しますが、急激な見直しによる医療現場の混乱で最終的に不利益を被るのは患者さんであり、国民です。
 今回の措置の速やかな検証を行い、問題があれば改善していきたいと思います。
 また、この問題に関しては、今回の中医協での改定議論を踏まえ、中医協委員である幸野庄司健康保険組合連合会理事を茨城県に所在する2つの病院にお招きし、医療現場を視察して頂きました。急性期の重症度、医療・看護必要度における25%が意味するものや、慢性期医療の実態等について、より理解を深めて頂くことができたのではないかと考えています。
 今後も中医協において建設的な議論を進めることができるように、医療の本質というものをご理解頂く努力をしていきたいと思います。

Q 最後に会員の先生方に一言お願いします。

A 少ない改定財源の中において、できる限りのことをしてきたつもりではおりますが、今回の改定によって大きな影響が出ているような場合には、ぜひ、ご所属の医師会等を通じてでも構いませんので、日医にお知らせ頂きたいと思います。
 中医協では、今後、答申の取りまとめの際に付けられた附帯意見に基づいて議論が行われることになりますが、次回改定は診療報酬と介護報酬との同時改定となりますので、より厳しい改定になることが予想されます。
 そのような状況におきましても、日医は会員の先生方の現場からの声を基に、国民に対して過不足のない医療が提供できるような診療報酬体系の構築を目指して努力して参る所存でおります。会員の先生方には、引き続きご支援・ご協力のほどお願いいたします。

今回のインタビューのポイント
  • 今回、在宅医療を専門に行う診療所を認めることとした理由は、都市部を中心に在宅医療を担う医療機関が不足している現状も踏まえ、かかりつけ医による在宅医療を補完する方策となればと考えたからである。
  • 急激な見直しによる医療現場の混乱で最終的に不利益を被るのは患者さんであり、国民である。「7対1入院基本料の施設基準の見直し」に関しては速やかな検証を行い、問題があれば改善していきたい。
  • 次回の医療と介護の同時改定も厳しい改定となることが予想されるが、国民に対して過不足のない医療が提供できるような診療報酬体系の構築を目指して努力していく所存である。引き続きご支援・ご協力をお願いしたい。

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