県の女性がん検診促進プロジェクトのチームリーダーに任命され、駅コンコースで「乳がんと子宮がん検診を受けましょう!」をやさしく説明したパンフレットを道行く女性に配布する活動を行った。
1時間半近く地下街をうろうろした結果、腹を立て、感心し、そして考えた。
まず腹を立てたこと。20歳前後の女性に簡単な説明を加えて資料を渡そうとすると、「大丈夫です」「関係ありません」の答えと一緒に、受け取り拒否が圧倒的に多い。
「関係ない?! 子宮がんのピークは20歳代後半からだよ! もうすぐじゃん! 何が大丈夫? 女性は生きているうちに乳がんは10人に1人、子宮がんは30人に1人ぐらいなっちゃうよ! このパンフにちゃんと書いてあるから、せめて読んでよ!」
次に感心したこと。説明に無関心で足早に立ち去る母親と一緒の小さな男の子が、舌足らずな口調で一生懸命話しかける。
「ねぇママ、がんってママと同じ40歳ぐらいからたくさんかかるんだよ。早くビョウイン行くと治るって、センセイ言ってたよ~」
そうだよ! 坊や、その通り! えらいな、よく勉強してるね~。
そして考えたこと。そう言えば自分だって医学生の頃、がんは実感を伴った存在ではなかった。医師となり、がんを五感で感じるようになって何度も慄然(りつぜん)とした記憶を持つ。では、どうしたら若い人に、もっとがんを「自分事」に思ってもらえるのだろうか?
がん対策基本法や文部科学省のガイドラインでは、小・中学生へ向けたがん診療連携拠点病院の協力による講演等のがん教育実施が記されている。しかし、当該病院の医師は忙しい。よって未来ある人々へのがん教育の部分を私達かかりつけ医が、より共感を得るために、がんサバイバーの方と一緒にお手伝いすることは可能だろうか。先端的がん治療は無理でも、それならできそうだ。
寒空の下、痛み出した腰をさすりながら、パンフ片手に思いを刻む。
「とにかく小さい頃から『自分の体は、自分で守る』ことを教えなくっちゃ!」
(美)