第27回全国医師会共同利用施設総会(主催:日医、担当:大分県医師会)が9月2、3の両日、「健康寿命の延伸に向けた医師会共同利用施設の役割について」をメインテーマとして、491名の参加の下、大分市内で開催された。 日医からは、横倉義武会長を始め、今村聡副会長、松本吉郎・羽鳥裕両常任理事が出席した。 |
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健康寿命の延伸が国民皆保険の堅持につながると強調―横倉会長
2日に開催された総会では、近藤稔大分県医師会長を座長に、横倉会長が、「日本医師会の医療政策」と題して特別講演を行った。
横倉会長は、財政主導による医療費抑制に向けた動きの中で国民皆保険を堅持するためには、過不足のない医療を医療者側から提言していく必要があるとし、「その第一が生涯保健事業の体系化による健康寿命の延伸である」と強調した。
また、近年、医薬品や医療材料等、「モノ」に対する支出が増え、医療機関の費用における人件費の割合が抑制されている現状に懸念を示し、医師だけではなくコメディカルも含めた医療関係者全体の人件費を確保するためにも、「診療報酬のあり方をモノからヒトへ変えていくことを日医として主張していかなければならない」とした。
更に、地域密着型の中小病院・有床診療所に期待されるものとして入院機能とかかりつけ医機能を持ち、地域包括ケアシステムの一翼を担うことを挙げるとともに「それらの方達には医師会活動や医師会が関わる連携体制にも、ぜひ参画して欲しい」と述べた。
最後に同会長は、本総会のテーマでもある健康寿命の延伸に向けた課題についても言及し、引き続き日医として取り組んでいく姿勢を示した。
続いて、小川隆平全国医師会共同利用施設施設長検査健診管理者連絡協議会長/大阪府医師会保健医療センター所長が、平成28・29年度の同連絡協議会の活動について報告。その後、三つの分科会に分かれてシンポジウムが行われた。
各地域の取り組みを説明
第一分科会(医師会病院関係)〔座長:松本(吉)常任理事〕では、埼玉県の石田岳史さいたま市民医療センター副院長/大宮医師会理事が、同センターの病診連携等について具体的な取り組みを紹介。いわゆる病院総合医の有用性や地域における医師会病院のハブ機能のあり方を説明した上で、「医師会病院は地域包括ケアシステムの司令塔となり得る」とした。
広島県の中塚博文呉市医師会病院長/呉市医師会理事は、排便障害の診断治療に取り組む同病院大腸肛門病センターの取り組みについて報告。高齢者の多くが悩む排便障害はQOL等に関わってくるとして、対策の重要性を訴えた。
大分県の山本貴弘大分市医師会副会長は、同医師会立アルメイダ病院の概要を紹介した上で、県の健康寿命延伸への取り組みに関連し、同医師会でも各種研修や消防行政との連携等を行い、健康寿命の延伸に寄与しているとした。
宮崎県の飯田正幸都城市北諸県郡医師会長は、行政の支援を受けて救急医療施設を新築移転した都城市郡医師会病院について、新築移転に至るまでに発生したさまざまな問題及びその解決方法、現在の活動状況等を紹介。医師会と行政の関係性を深めることの重要性を強調した。
検査・健診センターでの情報連携を紹介
第二分科会(検査・健診センター関係)(座長:池田秀夫佐賀県医師会長/日医医師会共同利用施設検討委員会委員長)では、北海道の平山繁樹函館市医師会理事/函館市医師会健診検査センター運営委員長が、行政との連携事例等さまざまな取り組みについて説明。現在、医師会病院、健診検査センター等4事業の拠点の集約を進めており、特に老朽化の進む健診検査センターの新築移転による利用者の利便性の向上に期待感を示した。
三重県の矢津卓宏松阪地区医師会検診医療部門担当キャップ理事は、同医師会の検査センター、健診センターについて、民間業者との競合も激しい中、愛知県半田市医師会の協力の下、「Dr.WEB」という医療ネットワークの試験運用を開始したことを紹介。医師会立の施設は行政とできる限り連携することで、その存在意義を高めることができると主張した。
兵庫県の伊賀俊行西宮市医師会副会長は、現在データ形式等が統一されていない電子カルテの問題等を軽減するために導入したWEB検査結果照会システム(MinCS for Lab)の活用状況について紹介。同システムは、今後各地域の医療連携システムなど、さまざまな分野で活用できる将来性を持っているとの見解を示した。
大分県の田能村祐一別府市医師会ICT・地域医療連携室長/地域保健センター管理者は、これまで行ってきた「ゆけむり医療ネット」等の事業を紹介し、今後の国の施策を踏まえた上での健康寿命の延伸に向けた取り組みや、医師会共同利用施設の未来に向けた役割について展望を示した。
吉田澄人日医総研研究部統括部長補佐は、健診標準フォーマットの運用拡大について、昨年10月に日本医学健康管理評価協議会において健診データの標準化を図るべく「共同宣言」を公表したこと(別記事参照)や、同フォーマットの運用拡大に向けて行っている本年の取り組みについて説明した。
多職種協働による取り組みを説明
第三分科会(介護保険関連施設関係)(座長:利根川洋二埼玉県医師会常任理事/日医医師会共同利用施設検討委員会副委員長)では、東京都の益子邦洋南多摩病院長が、八王子市医師会が取り組んでいる、在宅療養中の患者の救急搬送に病院救急車を活用する事業について報告。その結果から、病院救急車は地域包括ケアシステムを機能させるためのセーフティーネットであると同時に、動く医師会共同利用施設でもあるとした。
神奈川県の大迫可奈子横浜市緑区医師会訪問看護ステーション統括責任者は、同ステーションが運営している在宅医療相談室の活動を紹介。同相談室の取り組みを孤独死の減少等につなげていきたいとした。
福岡県の小島武士宗像医師会理事は、同医師会在宅医療連携拠点事業室"むーみんネット"や"介護老人保健施設よつづか"の取り組みについて説明。今後、同医師会共同利用施設の専門職を活用して健康寿命の延伸につながる活動を行っていきたいとした。
大分県の舛友一洋臼杵市医師会医療福祉統合センター長/臼杵市医師会立コスモス病院副院長は、同医師会が中心となって始めた情報ネットワーク"うすき石仏ねっと"の活動について報告し、在宅医療・介護連携におけるICT(情報通信技術)の活用例や市民のほとんどが参加するネットワークを目指して行っている試み等について説明した。
全体討議、施設見学を実施
2日目の9月3日には、初めに伊藤彰大分県医師会常任理事より、大分県内の共同利用施設の紹介があった。
その後、各分科会報告に続き、松本(吉)常任理事を座長として全体討議が行われた。その中では、国や日医でも検討が始まり、共同利用施設の運営にも大きな影響を及ぼすと考えられる「医師の働き方改革」について質問や要望が出された他、健診検査センター等の運営についても活発な意見交換が行われた。
最後に、今村副会長が、「本総会で共有された情報や成果をそれぞれの地域に持ち帰り、医師会共同利用施設の更なる発展に寄与することを期待する」と総括し、総会は終了となり、参加者はそれぞれ、県内の施設見学を行った。
なお、次回の共同利用施設総会は、平成31年度に三重県医師会の担当で開催される予定となっている。