ある日の診察が終わり、片付けをしているスタッフ同士の会話が耳に入った。
「地下鉄の駅のエスカレーターのアナウンスで"長靴や、何とか靴は特に挟まれやすいので......"って聞こえるんですけど、何て言ってるか、いつも分からないんです」
「えー何やろ? 帰りに聞いてみるわ」。私も何だろう?と気になったのだが、翌日判明した。
「ズック靴って言うてたわ」
ズック靴か。確かに聞き取りづらいかも知れない。だが、質問した方のスタッフはすっきりしない表情である。「......ズック靴って何ですか?」「スニーカーやね」「あー! スニーカーのことなんですね!」
考えてみると、ズックという表現はここしばらく目にも耳にもしない。そういうものが他にもないか調べてみたところ、知らないうちに変化している言葉が思いのほか、たくさんあった。
昔:ジーパン―今:デニム
今や日本のファッションに欠かせない、ジーンズ。かつてはジーパンと呼ばれていたが、今はデニムと呼ばれることが多いそうである。デニムで検索したらスキニーやらクラッシュやらいろいろ表示される。デニムの中で更に細分化されているようだが、とりあえず「ジーパン」ではなく「デニム」と呼んでいれば今時になるようだ。
昔:ロスタイム―今:アディショナルタイム
2000年代までの日本では、サッカーにおける延長時間のことを「ロスタイム」と呼んでいた。こちらは和製英語であり、2010年よりFIFAが使用している「アディショナルタイム」に統一すると日本サッカー協会が決めたとのことであった。失われた時間から加えられた時間へ。20年近くロスタイムと呼んでいたため、私などはなかなかアディショナルという言葉が出てこない。皆様はどうであろうか。
昔:看護婦―今:看護師
年配の患者さんは今も「看護婦さん」と呼ぶ方も多いが、多くの方に「看護師さん」という呼び方が定着してきたように思う。以前、男性は「看護士」、女性は「看護婦」と呼んでいたが、2001年に「保健婦助産婦看護婦法」が「保健師助産師看護師法」という名称に変わったことにより、2002年3月より男女共に「看護師」と統一されることとなった。背景には男女雇用機会均等法からの流れの、職業における男女平等という考え方があったようである。医者からするとナースという表現が一番使用しやすいように感じる。
その他にもたくさんあり、とても書き切れない。この表現は差別的だ!と、小さいことに目くじらを立てて言い方だけ変えるというような風潮は好ましくないが、ただただ表現が変わって「今はこうなんだよ」ということを覚えたり、実際使用してみたりするのは、頭の柔軟さを保つのに一役買ってくれそうである。