閉じる

平成29年(2017年)12月5日(火) / 南から北から / 日医ニュース

頑張れ! 子ども達

 小児科医(小児循環器科)をしている。まずは、目立つ風貌から自己紹介する。身長は166センチメートル、体重は68キログラムほどの中肉中背、お腹は少しだけ出ている。大きな特徴は頭部、頭頂部には髪が全く無く、側頭部、後頭部は刈り込んで、一言で言えば「スキンヘッド」、まあ「つるっぱげ」である。群衆の中でも、すぐに見つけられると、うちの女房は言う。
 外来は、およそ生まれた頃から診ている心臓病の子ども達ばかりである。診察室には、子ども達が書いた絵が、壁一面に貼ってある。題までついている絵もある。
 2~3歳の男の子が書いた「太陽と先生」。周りに線が少し書いてあるのが太陽、無いのが私とのことだが、とにかく○が2つである。なぜ、わざわざ太陽と私を一緒に書くかな? 「花と先生」とか、「ゾウさんと先生」でもよかったんじゃないかな?と私は思うのだが......。
 また、前額、頭頂部に光る紙をわざわざ貼っつけた私の絵がある。6~7歳の女の子が書いた私の絵だが、少し離れたところからもよく光って見える。これは、病棟の看護師長が手伝っていたのを知っている。いつか仕返しをしようともくろんでいたが、その看護師長はその後すぐに違う病棟へ異動となった。
 こんなこともあった。1歳半くらいの女の子で、かがんで胸に聴診器を当てると、ちょうど彼女の目の前に私の頭が来る。その女の子は、何を思ったか、リズムよく私の頭をテンテンとし始めたのである。
 私は、「そこは太鼓ではないです」と心の中で優しく話し掛ける。でも、そばにいた看護師さんは大きく噴き出し、お母さんは「すみません」と言いながらも笑って止めてくれない。みんなが笑うから女の子は喜んで続ける......。
 私は、「今日は採血だ! 採血!」と心の中で繰り返し、全く気にしていないかのようにゆっくり顔を上げる。
 心筋炎で入院していた14歳の女子中学生は、ようやく退院も決まった頃、私に贈り物があると言う。それは黒いバレーボールほどの大きさの半球形、表面には1~2ミリメートルほどの黒くて細長い柵状の紙が無数に貼ってあった。見た目の印象は、バカでかいウニを半分に切った感じだった。
 「一体これは何か?」と聞くと、本人いわく「手製のかつら」で、毎夜お母さんと一緒に作っていたとのことである。よく見ると、細かい工夫がされており、風通しがよいよう地肌部は網目状になっており、後ろに当たる部分が何となく長くなっていた。
 私は、「中学生は、空いた時間は勉強をして下さい。お母さんもこんなことを手伝わないで下さい」と内心では突っ込みつつも、どう反応して良いか分からない笑顔で受け取った。
 子ども達は、さりげなく私の弱点に切り込んでくる。でも、「太陽と先生」の作者は、既に2度の心臓手術を受けており、一時期は母のいないICUで全く泣かない、しゃべらない子になっていた。
 光る前額部の絵は、作者の女の子が手術を受け、弱ったところに、看護師長が私をダシにその子の元気回復を狙ったものだった。頭テンテンの女の子は、その後手術となった。この女の子は、手術後も元気いっぱい、笑顔いっぱいだった。「手製のかつら」の女子中学生は、病棟に来る前には補助循環装置がつき、数カ月に及ぶ長い間ICUにいた。みんな、頑張っていた子ども達である。
 「手製のかつら」の彼女が退院する日に、前の夜こっそり撮った「かつらを被り、20歳ほど若返った(?)写真」を、病棟の看護師さんにはばれないように、こっそり彼女に渡した。
 頑張れ! 子ども達。

北海道 北海道医報 第1179号より

戻る

シェア

ページトップへ

閉じる