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平成30年(2018年)3月20日(火) / 日医ニュース

「地域医療システムとイノベーション:UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の基盤を築く」をテーマに

「地域医療システムとイノベーション:UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の基盤を築く」をテーマに

「地域医療システムとイノベーション:UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の基盤を築く」をテーマに

 「日本医師会 ハーバード大学 武見太郎記念国際シンポジウム」〔主催者(共催):日医、ハーバード大学T.H.Chan公衆衛生大学院(HSPH)、東京都医師会、武見記念生存科学研究基金〕が2月17日、「地域医療システムとイノベーション:UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の基盤を築く」をテーマに、日医会館大講堂で開催された。
 当日は、日医役職員、日医国際保健検討委員会委員、日医総研研究員、東京都医師会役職員、医師会関係者、武見フェロー、医学生、日医ジュニアドクターズネットワーク(JMA―JDN)の他、海外から、世界医師会(WMA)、韓国医師会、台湾医師会、タイ医師会等、約350名が出席した。
 道永麻里常任理事の司会で開会。冒頭、日医会長並びにWMA会長としてあいさつした横倉義武会長は、昨年10月のWMAシカゴ総会における第68代WMA会長の就任あいさつにおいて、日本の健康寿命を世界トップレベルにまで押し上げたわが国の医療システムの背景には、UHCとしての"国民皆保険"の確立があった点を強調したことに触れ、「今後、世界が経験したことのない高齢社会を"安心"へと導くモデルもまた"国民皆保険"であり、世界中に広めていく必要がある」とした。
 また、昨年12月に、日本政府、世界保健機関(WHO)、世界銀行、ユニセフ、国際協力機構(JICA)等の主催で開催された「UHCフォーラム2017」で、安倍晋三内閣総理大臣が、「途上国のUHCの推進に向けて日本も大きく支援していく」と述べたことに言及。「UHCの推進に向けたグローバルな課題について議論していく場として、『地域医療システムとイノベーション:UHCの基盤を築く』をテーマとした本シンポジウムは、大変意義がある」と期待感を示した。
 続いて、武見敬三参議院議員(実行委員会委員)が主催者あいさつを、加藤勝信厚生労働大臣が来賓あいさつをそれぞれ行った。

基調講演

180320b2.jpg 中谷比呂樹WHO執行理事の座長の下、三題の基調講演が行われた。
 基調講演1「社会正義と保健政策」では、サー・マイケル・マーモット元WMA会長が、諸国間に存在する健康に関する不平等の原因となっている健康の社会的決定要因(SDH)について講演を行った。
 マーモット氏は、健康における不平等は、医療に対するアクセスの差ではなく、社会的・経済的格差によって生じるものであると指摘し、「格差の是正には、社会的な取り組みが必要である」と述べた。
 また、WMA会長時代を振り返り、「"科学的根拠に基づく政策""社会正義の精神"という考えの下、健康の社会的要因に対する働き掛けを通じて"健康の公正"を推進することが、会長としての、そして人生における使命であるとの思いで活動してきた」とした上で、公平な社会、健康な生涯のための六つの政策目標を紹介した。
180320b3.jpg HSPH武見国際保健プログラムのマイケル・ライシュ主任教授は、基調講演2「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジをめざして:一歩一歩の進歩」で、(1)UHCが世界と日本の政策アジェンダとなった、(2)UHCをどのように達成するか、(3)UHCを目指した二カ国の経験(日本とメキシコ)、(4)UHCを目指すための教訓―について講演。
 (1)では、「UHCフォーラム2017」において、横倉WMA会長や安倍総理を始めとする世界の保健分野のリーダーがUHCを達成するために、その支援を行う考えを表明したことに触れ、UHCが世界の政策アジェンダになるために日本が果たしてきた功績を称えた。
 基調講演3「世界医師会の貢献」で横倉会長は、WMAは最高水準の医の倫理を推進する組織として、ジュネーブ宣言、ヘルシンキ宣言やリスボン宣言等、200を超える宣言・声明を採択し、公表していることを紹介するとともに、「グローバル化の進展により、医療界を取り巻く多くの問題が国境を越えて立ちはだかっており、健康の不平等、格差の問題等、喫緊の課題への取り組みが急務となっている」と指摘した。
 また、「WMA会長として、途上国における公衆衛生の確立、安定した医療の確保と維持、UHCの推進と支援に向けた取り組みを展開していきたい」と述べるとともに、「WMAのプレゼンス、機能を可能なかぎり高め、その活動を更に充実させていく」とした。

セッション1「地域医療と健康長寿:少子高齢社会、日本の経験」

 武見参議院議員の座長の下、後藤あや福島県立医科大学教授は、地域と共に歩むチーム保健活動を原動力とした「少子高齢社会におけるライフサイクル・アプローチ」を、また、磯博康大阪大学大学院教授は、「生活習慣病に立ち向かい大きな成果を上げたわが国の公衆衛生の展開と課題」を論じた。
 鈴木邦彦常任理事は、日本の公的医療保険の三つの特長(国民皆保険、フリーアクセス、現物給付)や医療提供体制などについて講演した。
 団塊の世代が75歳以上になる2025年に向けた医療提供体制の構築のポイントとしては「地域包括ケアシステム」と「地域医療構想」を挙げ、「行政と医師会が車の両輪となる必要があり、多職種連携のまとめ役として医師会とかかりつけ医の役割が重要になる」と強調。
 スジャータ・ラオ前インド保健家族福祉省次官は、「インドにおけるUHC実現のためのプライマリ・ヘルス・ケア」について説明した。

セッション2「地域と世界をつなぐイノベーション」

 笠貫宏早稲田大学特命教授を座長として、宮田裕章慶應義塾大学医学部教授は、ITと関連社会のイノベーションにより、患者・国民を中心にした保健医療情報をどこでも活用できるオープンな情報基盤の可能性について、大田秀隆厚生労働省老健局認知症施策推進室認知症対策専門官は認知症をめぐる技術・社会革新、包括的支援認知症施策推進総合戦略の取り組みについて報告。高橋泰国際医療福祉大学教授は、ICTやハイテク機器を用いた介護現場のあるべき姿や老い方について、また、ジェシー・バンプHSPH武見プログラム事務局長は、地域医療の課題におけるイノベーションの影響の歴史的展望についてそれぞれ説明した。

セッション3「地域医療の国際展開を支える枠組み」

 ライシュ教授を座長として、ミッキー・チョプラ世界銀行保健サービス課長は、医療制度の未来を変革させるために新たに実現すべきイノベーションについて解説。
 また、武見参議院議員は、高齢化社会においてアジア諸国と日本がどのようなパラダイムで互恵関係をつくっていけるか考察するとともに、世界的な規模への発展の可能性について言及した他、近藤達也医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長は、「レギュラトリーサイエンス」の概念、イノベーションの取り組みや国際協力活動について説明した。

特別講演

 尾﨑治夫東京都医師会長が座長を務め、(1)「オリンピック・パラリンピック準備における保健問題:価値はあるのか? 2012年ロンドンからの教訓」(ブライアン・マクロスキー英勲爵士/大規模イベントと地球規模健康危機管理に関するWHO協力センター)、(2)「リオオリンピック・パラリンピックの経験から学ぶ:オリンピックの全体的な健康への影響」(マルシア・カストロHSPH准教授)―の二つの講演が行われた。

総括講演とまとめ

 道永常任理事の座長の下、永井良三自治医科大学長が総括講演として、生存科学の多文化性と統合への思慕(しぼ)の理解がUHCの基盤であり、ポスト近代医学を考える上で重要であることを論じた後、三つのセッションの座長による総括が行われた。

武見プログラム設立35周年フォーラム

180320b4.jpg 翌18日午前には、「少子高齢社会における健康格差是正」をテーマとして、武見プログラム設立35周年フォーラムが東京都医師会館講堂で開催された。
 本フォーラムは、武見プログラムの設立35周年を記念し、フェローの連携の強化、将来展望を議論することを目的として行われたものである。
 横倉会長はあいさつで、国際保健における武見フェローの更なる活躍を期待するとともに、武見プログラムはハーバード大学でも高い評価を得ているとして、日医としても継続して支援していく考えを示した。
 引き続き行われた基調講演で、武見参議院議員は、医療分野の人的資源に投資することの意義を指摘し、「今後はその効果を定量的に示すことが重要になる」と述べた。
 また、ライシュ主任教授、バンプ事務局長、エミリー・コールズ コーディネーターからは、武見プログラムの歴史、将来展望、現在のフェローについてそれぞれ説明があった。
 その後のセッションでは、「地球規模課題に挑む武見フェローの活躍と今後の展望―少子高齢社会における健康格差是正の成功事例」をテーマに、日本、韓国、台湾のフェローによる講演が行われた。

2020年東京オリンピック・パラリンピックのレガシーとしての健康・タバコフリー社会づくりに関する国際会議

180320b5.jpg 同日午後からは、「2020年東京オリンピック・パラリンピックのレガシーとしての健康・タバコフリー社会づくりに関する国際会議」が同会場で開催され、小池百合子東京都知事のあいさつの後、ロンドン、リオでのオリンピック・パラリンピックの経験から得た教訓、スポーツによる健康長寿、健康増進の効果や影響が論じられた。
 尾﨑都医会長は基調講演で、「運動により健康になる」という意識を国民全体に広げ、一体感を得ることが、未来に続くこの大会の健康面でのレガシーとなり、本大会を開催する重要な意義ともなると強調した。

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