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平成30年(2018年)9月5日(水) / 南から北から / 日医ニュース

趣味は遺伝するのだろうか?

 私の父は多趣味な人であった。父は祇園の芸妓の置屋に生まれたが、水商売が嫌でサラリーマンになった。その父は、私が大学を卒業してすぐ、直腸がんであっけなくあの世に行ってしまった。私とは大人の会話をすることなど全くなく......。
 私には1歳違いの姉がいて、子どもの頃、何度も姉に宝塚歌劇へ連れて行かれた。子どもの私にはそれはとても退屈で嫌なことだった。電車好きの私には宝塚ファミリーランドの電車館の方が楽しみだった。
 そんな私だったが、大学を卒業した頃から歌舞伎やミュージカルなどの舞台を観に行き出した。きっかけは全く覚えていない。観始めた当時、劇場には男性客は少なく、気恥ずかしい思いもした。それでも私は歌舞伎やミュージカルを観続けた。
 娘が大きくなり、宝塚歌劇を一緒に観に行くようになった。あんなに退屈だった宝塚は、大人になって観てみると全く違っていた。日常生活と隔絶した豪華できらびやかな世界は私を魅了した。
 最近は一人でも宝塚を観に行く。2500人以上入る大劇場に男性は100人くらいだろうか。それでも今となっては気恥ずかしさなど全くない。
 先日、父の法事で母がポツリと言った。
 「お父さん宝塚好きだったし、あんた良く似てるわ」と。
 えっ?? 私にとっては全くの初耳であった。姉の付き合いで連れて行かれていたと思い込んでいた宝塚。実は父の趣味で、姉を宝塚に入れたいと父はひそかに企んでいたという。父の宝塚好きはまさに筋金入りである。
 ところで、私の息子はどうだろう? 小さい頃には"ライオンキング"などに連れて行ったことはあるが、今は演劇には全く興味はない。私と同じように小さな時から電車好き、飛行機好き。以前は親子で"乗り鉄"を楽しんだものだ。これは遺伝というより親がそう仕向けた感はある。
 中学・高校では鉄研、大学では航空部で4年間グライダー操縦に明け暮れ、愛知県の航空関係の企業に就職した。自分に正直に生き、誠にうらやましい限りである。
 聞けばドクターヘリや臓器移植の搬送をする航空機の運航管理にも携わるらしい。親子で少しは接点もあり、ちょっぴり嬉(うれ)しい。
 息子が暮らす愛知県にある中高一貫校で、男子生徒が宝塚歌劇の再現をやっている、という記事をネットで目にしたのは昨年の秋だった。男子生徒による宝塚歌劇なので、その名を"カヅラカタ歌劇団"という。
 カヅラカタ歌劇団の動画をネットで見ると、まさに舞台好きの心を揺さぶる出来栄えである。一般の人も観劇できるが、毎年1日2回公演約3000席に1・5倍の申し込みがあり、なかなか観劇のチャンスもないと聞く。しかし、応募しないことには始まらない。幸いご縁があり、作年の10月に観劇することができた。
 今回の演目は「1789―バスティーユの恋人たち―」。フランス革命を題材に、若者達が権力に立ち向かうストーリーは、まさに中高生が演じるにはピッタリである。ほぼノーカットで宝塚と同じ3時間を超える舞台。フィナーレには、ラインダンスから本家と同じ大階段を降りるパレードまである。男子中高生がここまでできるのかというすばらしい舞台であった。
 すばらしいのは出演する生徒だけではない。工夫して衣装を作り、何着もある衣装の着替えを手伝う親御さん達、舞台を支え、満員の客を見事に誘導する裏方の生徒達、生演奏をするオーケストラ部の生徒達、照明・音響を担当する専門学校のスタッフの若者達、卓越した発信力を持つ顧問の先生の力で集まったダンス、歌唱、演技、メイクの指導者など、実に多くの方々の見事な協力で舞台を作り上げている。
 更に、北海道や沖縄からも集まった観客が一体となり、彼らを応援する空間に大きな衝撃を受けて帰ってきた。
 さてさて親子で趣味は遺伝するのだろうか? 親が好きなことなら、自然に子どもも興味を持ち好きになるだろう。私の舞台好きは、父親から引き継いだのは間違いない。
 もし将来、その遺伝子が愛知で暮らす息子の子ども(つまり私の孫)にも引き継がれれば、私の遺伝子を受け継ぐ孫が「カヅラカタ」の舞台に立つ日もあるかも......とひそかに期待している。私も亡き父と同様、筋金入りの宝塚好きかも知れない。

(一部省略)

滋賀県 滋賀県医師会報 第836号より

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