4月1日、整形外科医6人の元に病棟ナースたちから1箱のチョコが届いた。小さなメッセージカードには、こう書かれていた。「バレンタインチョコ、遅れてごめんなさい。今度こそ、先生方皆様で召し上がってくださいね(笑)」。
事件は2月14日、病棟ナース代表者がある整形外科医師に「先生方皆様へ」という想いを込めて大きなチョコ1箱を手渡したことに端を発する。例年、個人ごとのチョコであったため、彼は何の疑問も抱くことなく全部1人で平らげてしまった。
その後、義理チョコも贈りたくないほどの嫌悪感をナースが抱いていると思い込んだ医師らと、お礼の言葉すら掛けることができない非常識な人達と思い込んだナースらとの間に、鑷子(せっし)で渡された綿球を何度も落とすがごときギクシャク感が続いた。
1カ月後のホワイトデー、例年であれば部長から届くはずのクッキーを彼が持ってきたことから、ナース達は事件の全容を知ることとなった。その後、彼女達がとった行動は特筆に値する。「皆様で食べて」とはっきり伝えなかった自分たちを反省し、「彼」を守るため、スタッフ全員に箝口令(かんこうれい)を敷いた。そして、大学の人事により「彼」が晴れやかに当院を去った翌日のエープリルフールに、ほろ苦いチョコを贈ったのだ。
問題を即座に公表しなかった彼女達の行動は、医療安全上褒められたものではない。しかし、令月を愛で和を尊ぶ花鳥風月の島国にあっては、梅の花が咲き誇り蘭の花が香り漂う早春の風を運んでくれた。笑顔に酔いしれた1日だった。