戸外で食事をすると、どうしてあんなにおいしいのだろう。
小学生の頃、遠足の日、青空の下で広げるお弁当のおいしさ。気候の良い季節、子どもが幼い頃はピクニックやキャンプによく出掛けたものだ。子どもも喜んでいたと思うが、親も負けずに楽しんでいた。何でもないおむすびでも、不便なキャンプの夕食でも、自然の風を感じながら、何とおいしかったことだろう。
ウィーンに行った時、カフェのテラス席が心地良く、あちこちのカフェに通った。落ち着いた美しい街並みの空気を感じながら、おいしいコーヒーやランチを楽しんだ。コーヒーを頼むと海外では珍しく、銀のトレイに必ずコップのお水とともに持ってきてくれる。
レモンを半個たっぷり搾って、サクサクしたヴィーナーシュニッツェルの香ばしかったこと!
時にダイヤモンドダストが見られるという厳寒のウィーン、冬はもちろんテラス席はなく、気候の許す春~秋まで。あまりに交通量が多いと排ガスやホコリで快適とは言えないが、その点、ウィーンの街はぴったりで、そこここのクラシックなカフェの個性や活気や静けさを楽しむことができる。
パリのカフェは、より華やかでしゃれていて、ギャルソンの立ち居振舞いも洗練されてスキがない。動きに一分のムダもなくピシリと決まって、舞台俳優を見ているようだ。名門のしにせ「カフェ・ド・フロール」で、初めての日本人ギャルソンになった山下哲也氏によると、立ち位置や各テーブルに行く歩数までおのずと決まっている、とのこと。
椅子は、徹底的に外を向いている。二人席でも向かい合わせでなく、ハの字型に道路の方へ向けてある。そこで、街行く人を眺めながら過ごす。
女性は見られることで磨かれると言うが、パリの女性がすてきなのは、そのせいかも知れない。日本の女子と目覚ましく違うのは、歩き方。胸を張って堂々と、足をすっくと伸ばし、ハイヒールの踵(かかと)は地に突き刺さらんばかりである。美しい。
私のクリニックのある並木通りを歩いている若い女の子。何かしらブランドものバッグを下げてはいるが、膝を曲げ腰を落として内股で......。そう! 日本舞踊の歩き方。日本人のDNAか。
「カフェ・ド・フロール」の初めての日本支店が、福岡キャナルシティに開店したというので行ってみたが、ほどなく撤退してしまった。雰囲気も客も、パリ本店とは似て非なるものであった。日本の土壌には根付くことができなかったのであろう。