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令和2年(2020年)4月20日(月) / 南から北から / 日医ニュース

「猫」をもっと詳しく知ろう

 こよなく愛くるしい。ネズミ捕りの本来の業務から解放され、専(もっぱ)らペットとして犬をも凌(しの)ぎペットNo.1と言われる。だが、猫はどこで発生し、どのように変化し、世界に広がったのか、人との付き合いはどのようにして成立したのか、猫の祖先はどんな動物か、人とはどのようにして密着するようになったのかなどについては意外と知られていない。
 ネコ科動物の系統樹を見ると、その頂点には「ミアキス」が存在し、そこから無数に枝分かれして猫に達するようだ。米の遺伝子調査によると、全てのネコ科の祖先はおよそ2000万年前、ヨーロッパ辺りに生息していたらしく、中でも1100万年前アジアに生息していた「ヒョウ」のような捕食動物の1種がネコ科の祖先であろうとしている。
 現在のようにネコ科動物が世界中に散らばったのは、地球上の海面が低くなったタイミングであると推測されていて、これは100万年前から400万年前のようだ。
 2007年、米の研究班はミトコンドリアDNAの解析を行い、その結果、現存している5種類の猫のうち、リビアヤマネコだけが家畜化されたと言われるが、これは、リビアヤマネコが生来備えていた性格の穏やかさと言う点が欠かせない要因であったようだ。かくして世界中に存在している猫の祖先は13万3000年前に、他のヤマネコ種から枝分かれし、13万1000年前から細分化を繰り返したリビアヤマネコである可能性が高いと考えられている。
 エジプト文化における猫は神聖視され、神の使いとされてきたが、これは4000年前のことで、猫がいつ頃から家畜化されたかは不明だが、推定では9500年前頃には既に、人と密接に生活を共にしていたと考えられる。
 人と猫との「馴れ初め仮説」と言うのがある。これを簡明に説明すれば次のようである。まず、当時(5560~5280年前)の農民はキビやアワなどの穀物を主食としていた。人が蓄えた穀物を狙い、ネズミなどが集まってきた。農民はネズミを厄介者とみなし、陶磁器類の容器を使い盗み食いを防いでいたが、猫はネズミを食べるので存在は貴重であった。
 2011年の研究によると、猫は人の住んでいる場所に寄り添うように生きていくのが得意だと言われる。その理由として、まず残飯が豊富、たまに餌がもらえる、水がある、狐などの天敵がいない、雨露を凌げる場所が多いなどなどが挙げられる。こうした事実から、猫の個体数や生息域の変動には、人の存在が決定的な役割を果たしていると結論付けた。
 日本における猫の歴史に触れたい。シルクロードを通じてアジア圏内に広がった猫達は、中国を経由して日本にもやってきた。おそらく飛鳥時代から奈良時代には既に存在していたと推測される。平安時代は、猫と言う言葉は存在せず、だが希少価値で、時の天皇が猫を溺愛し、貴族の地位を与えたという話もある。かの有名な枕草子、源氏物語、更級日記などにも登場するようになる。鎌倉時代になると、南宋から輸入した猫によって、仏教の経典をネズミから守っていたようだ。室町時代になると、貴重な愛玩動物として珍重がられ、ネズミを駆除するという本来の役割とはかけ離れた存在になり、現代の犬のように首輪につないで飼っていたようだ。ぐんと下って江戸時代になると、ネズミを駆除するためのお守りとして、猫の絵を描いて養蚕農家に売り歩くのがはやったとか。一種の守り神に近い存在だった。招き猫が誕生したのも江戸時代であるし、溺愛したと言ういろんな物語が残されている。例えば「化け猫物語」などである。
 このように、猫と人との関係は概して良好で、重宝がられ、溺愛されてきた歴史があり、古代エジプトでは大切なペットとして育てられ、死んだ後は王侯貴族と一緒にミイラとして手厚く葬られていたようだ。日本では概して人との付き合いは良好で、現在では100%ペットとして可愛がられ、家族の一員として飼い主と共存しているが、最後まで見守るべきであろう。

(一部省略)

山形県 山形県医師会会報 第813号より

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