閉じる

令和2年(2020年)4月20日(月) / 南から北から / 日医ニュース

忘れられない症例/忘れられない患者さん

 医者になって12年になりますが、患者さんからイモを預かってと頼まれ、預かったことが2回あります。このような経験をした先生はなかなかいらっしゃらないのではないでしょうか。しかも東京の大学病院にいた時のことなのです。
 その患者さんは70代の女性で、1カ月に1回内服薬を取りにいらっしゃるのですが、ある時、「これ、私が趣味で育てているサツマイモなの。お子さんと食べて! すっごく甘いから!」と頂きました。いい品種のサツマイモの苗をわざわざ鹿児島から取り寄せて育てているそうです。輪切りにして、フライパンで焼くだけでも甘い、おいしいサツマイモでした。
 ある日、その患者さんが再診の際、「先生のロッカーって病院の中にあるの?」と突然聞かれました。「うち木造ですごく寒いの。来年の春に植える種芋になるサツマイモなんだけど、夜寒くなるとだめになっちゃうの。病院なら1日中温かいでしょ。先生のロッカーにお芋預かってくれない!? そしたら苗をわざわざ鹿児島から取り寄せなくても済むの」と言われました。
 ただロッカーに入れておくだけでいいそうでしたので、「いいですよ」と言うと、「ほんと!? ありがとう!」と次の診察日に早速持ってきました。重たそうなリュックサックから出てきたのは、一つひとつ新聞紙にくるんだサツマイモが6本。私はロッカーで会った先生に、今日患者さんにサツマイモを冬越しさせて欲しいと頼まれ、預かったのだということを説明しながら、ロッカーの上の段に入れました。
 そのまま3カ月くらいでしょうか、患者さんのサツマイモ達は私のロッカーの中で冬を越したのです。
 春になり、ちょっと気になったので、新聞紙を開けて見てみると、サツマイモからは根っこが生えてきていました!!
 患者さんが次に来た時にお返ししましたが、そのお芋を種芋にして、うまくいったようです。次の年の冬も、また私のロッカーにお預かりしました。
 その後私は岩手に引っ越してきてしまったので、それっきりですが、またどなたか別の先生のロッカーで冬を越しているのかも知れません。

(一部省略)

岩手県 奥州医師会月報 第663号より

戻る

シェア

ページトップへ

閉じる