2019年12月、中国武漢で発生した新型コロナウイルスの感染は瞬く間に世界的流行となった。正体のはっきりしない厄介なこのウイルス感染症に根本的治療法がない現在、医療は対症療法とならざるを得ない。
「新型コロナウイルスも風邪ウイルスの一種であり、感染した人の8割が軽症もしくは無症状に経過し、日本の致死率は他国に比べ低い。しかし甘く見てはいけない、正しく恐れなければならない」と、ウイルスの医学的知識と日本の感染対策の狙いを一般の人々に説明すれば、ウイルス感染への不安や恐怖が少しは和らぐようだが、テレビなどのメディアの煽(あお)り立てる報道には到底太刀打ちできない。
どの医療従事者も一般の人々と同様に、新型コロナウイルス感染への不安を感じながら仕事をしている。特に、命の危険に曝(さら)されながらも怯むことなく、新型コロナウイルス感染者の治療に専念している医療従事者の緊張感と意識の高さや、治療に携わり無念にも感染した医療従事者の動揺と恐怖は想像に難くない。
一方で、感染症の治療に携わる医療従事者と新型コロナウイルスを、科学的根拠なく関連付ける悲しい言動が相次いでいる。「ばい菌扱い」「無視や嫌がらせ」「偏見や差別」など、医療従事者への誹謗中傷は決して容認されるべきことではない。しかも、医学的知識のある医療従事者の中にも、新型コロナウイルス感染症に携わる同僚への心無い発言もあると聞くから驚きである。
欧米での新型コロナウイルスの感染拡大による感染者数と死亡者数の多さは日本の比ではない。国家の危機とも言える状況での人々の生活や経済の窮状は、まさに戦時下を思わせる。
ところが、不要不急以外の外出禁止を強いられ、暮らしに制約のあるロンドンやパリなど世界各国で、新型コロナウイルス感染症の治療に日々奮闘する医療従事者に市民が一斉に拍手を送ってエールを送る行動が起きている。午後8時になると、玄関や窓から一斉に拍手が起こり、歓声が上がる。イギリスでは、約66万人が医療スタッフボランティアに参加を表明し、医療従事者を支援する動きが広がっている。
医療崩壊の危機に瀕している今の日本の希望の支えは「我々の医療は感染拡大を必ず制御できる」という確信と、新型コロナウイルス感染症に携わる「我々の医療従事者への信頼と感謝」である。
(文)