閉じる

令和2年(2020年)6月5日(金) / 南から北から / 日医ニュース

ムショ医になってみて

 レジデント時代も含め26年間勤めた国立がん(研究)センターを退職し、3年前に故郷の網走市に戻りました。
 網走刑務所に行くというと、冗談にしか聞こえなかったらしく、なかなか信じてもらえませんでしたが、嘘じゃないと分かると、そんな怖いところに行って大丈夫?と、多くの方が心配してくれました。
 確かに不安はありましたが、法務省幹部の方々が東京拘置所や網走刑務所を見学させてくれ、私や家内の不安を払拭できるようにご尽力くださり、また基本的に犯罪を犯すような受刑者は体が元気な人だろうと多少楽観視していました。
 網走刑務所は6年間常勤医不在の状態でしたので、私の赴任は大変喜ばれ、厚遇して頂けたように思います。がんセンター時代もそれなりの身分でしたので個室でしたが、その倍以上の広さのお部屋を与えて頂き、パソコンも新規に購入して頂きました。
 レジデントは居なくなり、研究費を失って秘書さんを雇えなくなりましたが、積もり積もった面倒な雑用(経営改善、広報、情報システム・電カル管理、診療情報管理、がん登録等)からは解放され、何より常に病棟に重症患者、時々は治療関連死になりそうな患者を抱えていたことからの解放感は大きいです。
 ただ、これまで肺がん一筋でやってきましたから、それ以外のことは全て一から復習し直しです。急病以外はあらかじめ症状を伝えられてから診察に連れて行かれるので、分からない場合はいろいろ調べてから診療に当たることができます。
 来てみて、確かに元気な人が多いのですが、抗精神病薬が必要な受刑者が多いことと、眠剤、鎮痛薬や鼻炎薬、外用薬の処方が一般社会に比べてずいぶん多いと思います。医療費は全額国負担ですから、症状を大げさに言って、私が本当にそうなのか見極めきれていないんだと思います。懲役労働をしたくないがために、腰痛症状やめまい症状を偽る人も時々いますし、アルコール欲しさに消毒液を飲むという事案もありました。
 つい先日は朝からろれつが回らず失調様症状が出現した受刑者がいて、脳卒中かと急きょ外部医療機関を受診させましたが脳に異常は無く、後で咳症状に処方してあった中枢性鎮咳薬をまとめ飲みしたと発覚した事例もありました。
 矯正ならではの苦労もありますが、転職したことを後悔はしていません。社会的地位は高くなく、誰もしたくはない仕事でしょうが、だからこそやりがいを感じながら続けていこうと思っています。

北海道 北海道医報 第1210号より

戻る

シェア

ページトップへ

閉じる