運動不足のせいか、昨年、診療中に履いていた白ズボンのウエストがきつくなったので、一つ上のサイズの太めの物を求めたら確かに楽である。息を吐いてボタンをとめることもない、だが緩めのズボンが楽だからと気を許せば体重はまた増えるだろう。高齢者の体重増加は良いことがなさそうなので、食事と運動に気を付けることにした。
スポーツクラブに行くなどの特別な運動は特にせず、まず1日1万歩を目標にした。上京すると駅の階段の上り下り、駅から目的の場所までの1キロメートル程度の歩行で、軽く1万歩はクリアしている。ところが山形にいると、診療では椅子から立ったり座ったりするが、ある程度の距離を歩くということがない。
山形の人は近くのコンビニに行くにも車に乗ると言われる。自分では歩く方だと思っているが、目標の歩数に近付けるために、近くの店ではなくあえて遠くのスーパーまで歩いて行く。
今年の健診で無事5キログラムの減量成功だった。薬剤の使用なしで血圧も130台、空腹時血糖101で、昔ならOKなのだが新基準で黄色マークが付いてきた。
診療室の白ズボンも腹囲が太めの時の新しい物をやめ、10年前のズボンに替えてもウエストにまだゆとりがある。チノパンも太っていた時のものは楽だが、腰回りにタックができ過ぎて格好が悪いので新しいチノパンを買った。
私は診療室で白ズボンを履き替える時、室内履きの白スニーカーを脱がない。元の白ズボンや古いチノパンは問題なく、すんなり脱ぐことができる。ところが新しいチノパンは室内履きを脱がないと、どうしても足が抜きにくい。
確かに新しいチノパンは細くなっている、新旧比べてみると足首の裾周りは同じであるが、膝から腿にかけては古いチノパンは太い。股下のちょうど半分の膝のところで計ってみた。古いチノパンは畳んだ状態で26センチメートル、新しい物は23センチメートル、膝周りで6センチメートルも違う。
昭和5年頃、浅草でエノケンが歌った「酒落男」の、村中で一番モボだと言われた男は、ダブダブのセーラーのズボンで銀座に行く。昔のズボンはかなり太いが、水兵服のズボンは更に太く、ラッパズボンと言われたように裾は靴が隠れるくらい広かったらしい。
海上生活では船が沈没するリスクが常にある。その時は海に飛び込まなければならないが、靴もズボンも履いたままである。船が破壊され沈むときは、壊された色んなものが海上に浮かんでいる。舷側(げんそく)から垂らしたロープなどを使って海に入る。不用意に飛び込むと浮遊物で足にけがをすることがあるが、出血は肉食の魚を呼び寄せる。海中で靴やズボンを脱ぐので、すんなり脱げなければならない。
太めのズボンは立ち居振る舞いが楽である。鉄骨の上で働く鳶(とび)職の男たちが、ダブダブの紺のニッカズボンで、Gパンを履かない訳が分かった気になった。まず、楽に動ける機能性が求められたのだ。
(一部省略)
山形県 山形市医師会たより 第605号より