令和2年度(第51回)全国学校保健・学校医大会(日本医師会主催、富山県医師会担当)が11月14日、「子どもたちを守り、はぐくむ」をメインテーマとして、富山市内及びWEB参加によるハイブリッド形式で開催された。
午前には、「からだ・こころ(1)」「からだ・こころ(2)」「からだ・こころ(3)」「耳鼻咽喉科」「眼科」の五つの分科会が行われ、各会場で研究発表並びに活発な討議がなされた後、「緊急メッセージ 新型コロナウイルス感染症から子どもたちを守るために~本当の敵はどこにいるのか~」と題して、種市尋宙富山大学医学部小児科学講師が講演した。
種市氏は、富山市の小学校で複数の感染児童例及びそれに伴う誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)等が発生する中、その対応について話し合うため小児科医や富山市の保健所医師、教育委員会等で立ち上げた「富山市新型コロナウイルス感染症対策検討会議」の活動を紹介。同会議は"子どもたちの日常を取り戻す"ことをスローガンに、感染対策強化ではなく、保護者やメディア等の理解を得ながらの対策緩和を主たる目的とするとともに、「この問題の解決のためには現在のみならず、未来も含め、俯瞰(ふかん)的に見ながら判断していくことが求められている」と訴えた。
学校保健活動に対する長年の貢献を顕彰
午後からは、まず、開会式と表彰式が行われた。
開会式のあいさつで中川俊男会長は、日頃の新型コロナウイルス感染拡大防止や学校保健の推進に向けた取り組みに対して謝意を示した上で、「新型コロナウイルス感染症下での『新しい生活様式』は児童生徒の心身にも問題を引き起こしている。今回のメインテーマは、まさにこうした厳しい状況の今、我々に求められているものである」と強調し、大会の成果に期待感を示した。
また、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行が懸念される中、各種課題の解決に向けて学校保健、学校安全の専門的な立場からの議論を求めた他、日本医師会としても、令和元年11月に宣言をした「学校保健を通して児童生徒等の健康を守る日本医師会宣言」に則った施策を講じていくとした。
表彰式では、長年にわたり学校保健活動に貢献し、当日出席した中部ブロックの学校医(5名)、養護教諭(6名)、学校関係栄養士(4名)に対して、中川会長が表彰状と副賞を、馬瀬大助富山県医師会長が記念品を、それぞれ贈呈。受賞者を代表して櫻井泉氏から、今回の受賞に対する感謝と、子ども達のからだと心を守るための更なる研鑽を誓う旨の謝辞が述べられた。
次期開催県からのあいさつでは、松山正春岡山県医師会長から、令和3年10月30日(土)に岡山市内で大会の開催を予定している旨の説明が行われた。
その他、祝辞では横倉義武日本学校保健会長や自見はなこ参議院議員等からお祝いのメッセージが寄せられた。
シンポジウム「健全な学校生活にむけて~医療と教育の連携~」
引き続き「健全な学校生活にむけて~医療と教育の連携~」をテーマとしたシンポジウムが行われた。
「学校における食物アレルギーの最近の話題」と題して基調講演を行った足立雄一富山大学医学部長・学術研究部医学系小児科学講座教授は、近年わが国においては食物アレルギーの頻度やエピペンの処方率などが増加するとともに、対応すべき食物の多様化等も進んでおり、教育現場の負担が大きくなっていることを説明。その上で、「危険を完全に取り除くことはできない。起きた時にどう対応するかが大事」と述べ、学校医として関係者にエビデンスに基づいた指導を行っていく必要性を強調した。
また、災害発生時の備えも併せて進めておくべきとした。
4人のシンポジストによる発表では、まず、五十嵐登富山県立中央病院小児科部長が、全児童生徒の縦断的発育評価のための「子供の健康管理プログラム」の事後対応で、特に非標準発育群の抽出で混乱が起きていることから、富山県医師会と同県教育委員会が共同で暫定的な事後対応マニュアルを策定・運用した事例を紹介。「今後も学校現場と協力して同プログラムの適正運用に努めたい」とした。
宮崎あゆみJCHO高岡ふしき病院小児科部長は、富山県高岡市の小児生活習慣病予防健診の概要及び全国郡市区医師会へのアンケート調査の結果を紹介。肥満について新型コロナウイルス感染症下における運動不足の影響に懸念を示した他、アンケート結果で同健診の全国での実施率がいまだに低いことなどが判明したことから、学校保健安全法に規定して全国で実施すること及びユニバーサルスクリーニングとして活用することを提言した。
藤田修平富山県立中央病院小児科部長は、初めての失神発作で突然死を来す可能性もあり、正確な診断と適切な管理が要求される心原性失神について、学校における対応などを概説。特に運動時や運動直後の失神発作の危険性を強調し、ためらわず、速やかに心肺蘇生及びAEDを使用することを求めた。
種部恭子富山県議会議員/富山県医師会常任理事は、積極的勧奨が中止されてから約7年が経つHPVワクチンの現状や子宮頸がん増加への懸念を説明。救えたはずの命は1日当たり3人とされる中、接種率向上のため、同県医師会を中心に、同県の小児科医会や産婦人科医会と共に取り組んでいる活動内容を紹介するとともに、これまでの活動により、同県では少しずつ接種率が増加してきているとして、今後も更なる啓発強化による接種率の向上に努めるとした。
質疑応答の後、石原祐司富山市ファミリーパーク園長による特別講演等が行われ、大会は終了となった。参加者は現地245名、WEB357名、合計で602名であった。