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令和3年(2021年)4月5日(月) / 日医ニュース

「つながれ、輝け 医療ICT」をメインテーマに開催

「つながれ、輝け 医療ICT」をメインテーマに開催

「つながれ、輝け 医療ICT」をメインテーマに開催

 令和2年度日本医師会医療情報システム協議会が、「つながれ、輝け 医療ICT」をメインテーマとして、3月6、7日の両日、日本医師会館小講堂でWEB会議システムを用いて開催され、571名が視聴した。
 長島公之常任理事の開会宣言に続いて、中川俊男会長があいさつを行い、新型コロナウイルス感染症に関する会員の尽力に感謝の意を示すとともに、いまだに予断を許さない状況にあることを強調。その上で、本協議会の各プログラムの狙いを概説し、この2日間が有意義な時間となることに期待感を示した。
 続けてあいさつした須藤英仁運営委員会委員長/群馬県医師会長は、ICTの活用について、詳しい者にとっては情報収集等に大きく役立つとした一方で、取り残されている者へのフォロー等が今後の課題になるとの考えを示した。

Ⅰ.日医ICT戦略セッション

210405g2.jpg 引き続き行われたセッションⅠでは、長島常任理事が、日本医師会における医療・介護分野のICT化の取り組みを紹介した。
 同常任理事は、まず、「日医IT化宣言2016」のその後及び現在の状況について解説。同宣言の内容を改めて紹介するとともに、「オンライン資格確認等システム」のカードリーダーを本年3月末までに申し込む重要性等を説明した。
 次に、現在のトピックスとして、①オンライン診療②情報収集ICTツール③オンライン資格確認とPHR④AI活用―について解説した。
 ①では、必要な時に対面で診察できる医療機関が地域になくなっていたという事態を避けるため、その導入の際には地理的な要件も考慮する必要があると強調。また、ICT技術の活用等については、「引き続き、″光"の部分を育て、″影"の部分を減らすというスタンスで各種議論に臨んでいく」とした。

Ⅱ.オンライン診療の在り方と展望

 セッションⅡでは、山本隆一医療情報システム開発センター理事長/自治医科大学客員教授が、「遠隔医療」と「オンライン診療」の定義の違いや医師法20条(無診察診療の禁止)との関係性等、基本的な事項や、新型コロナウイルス感染症下での時限的・特例的なオンライン診療の取り扱い等について解説した。
 原田昌範山口県立総合医療センターへき地医療支援部診療部長は、離島へき地のオンライン診療実証研究について報告。離島などが多く、医師の高齢化も進んでいる山口県におけるICT技術の活用事例を紹介した他、厚生労働行政推進調査事業費による「へき地医療の推進に向けたオンライン診療体制の構築についての研究」研究班の取り組み内容について発表した。
 土屋淳郎東京都医師会医療情報検討委員会委員長/土屋医院院長は、同検討委員会のオンライン診療に関する検討内容や自院での事例を報告。加えて、「新型コロナウイルス感染症対策としてのオンライン診療規制緩和に関するアンケート」の結果及び、同感染症の軽症者等に係る宿泊療養におけるICT利用状況などについても紹介した。
 平田善康日本産婦人科医会常務理事は、同会によるオンライン妊婦健診・遠隔妊婦健診に関する実証研究として、①家庭血圧②遠隔胎児心拍数モニタリングの多施設ネットワーク③在宅モバイル型胎児モニター(iCTG)④オンライン診療・相談―の検証状況を説明した。
 本田学国立精神・神経医療センター神経研究所部長は、情報を受け取る際の脳の働き等を解説。オンライン診療では、患者が発する情報が受信者に届く過程で大幅に削ぎ落とされることが課題であるとして、その解決のため、今後のICTツールに求められる要件について説明した。

Ⅲ.新たな感染症と共存するために必要なICTツール

210405g3.jpg セッションⅢでは、まず、羽鳥裕常任理事が、今後のeラーニングシステムのあり方について概説。「日本医師会生涯教育制度におけるWEB講習会」について、予定期間終了後の4月1日以降も継続を求める声が多いことから、出退等を厳格化した上で継続するとした。
 また、「日本医師会が構築する新たなWEB研修システム」にも言及し、生涯教育制度だけではなく、他のさまざまな制度で活用できるシステムとして、5月稼働を目途に開発中であること等を紹介した。
 引き続き、佐藤康弘厚労省政策統括官付情報化担当参事官室政策企画官が「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER―SYS)」、佐藤拓也厚労省医政局地域医療計画課(同本部医療班G―MISチーム)が「新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G―MIS)」、三宅邦明厚労省新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する厚労省対策推進本部技術参与が「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」について、それぞれ解説した。
210405g4.jpg 総括を行った自見はなこ参議院議員は、主に昨年のダイヤモンドプリンセス号でのクラスター対応などを紹介した上で、セッションで説明が行われた各システムの共通課題として、「目的の明確化」を挙げるとともに、政策を企画するためには、①人事②人材③権限④時間―の要素が重要になると指摘した。
 1日目の最後には、セッションⅡ、Ⅲの演者及び長島常任理事による総合討論が行われ、聴講者や講師の質問に対し、各講師から回答を行った。

Ⅳ.オンライン資格確認とそのインフラを活用した今後の医療

210405g5.jpg 2日目午前のセッションⅣでは、まず長島常任理事が、オンライン資格確認に対する日本医師会のスタンスについて「資格確認の機能のみでは医療機関のメリットは大きくないが、全国の医療機関等の安全・安心につながるネットワークの基盤となり、役に立つさまざまなサービス提供が期待されるため、協力している」と説明した。
 山下護厚労省保険局医療介護連携政策課長は、3月下旬に稼働するオンライン資格確認等システムについて、資格過誤によるレセプト返戻が減り、窓口業務が削減されるなどのメリットがあるとした上で、マイナンバーカードに医療情報が記録されるとの誤解に対しては、クレジットカードのように資格情報にアクセスするための鍵に過ぎないことを強調。顔認証付きカードリーダーの導入については3月中に申し込みをすれば、導入費用の補助(診療所は上限42・9万円)が受けられるとした。
 西川好信日本医師会ORCA管理機構開発部長は、オンライン資格確認を導入するに当たっては、(1)単独導入(オフライン連携構成)、(2)レセコン・電子カルテ連動(厚労標準)、(3)レセコン・電子カルテ同居型(メーカー独自)―の3パターンがあることを説明。マイナンバーカードを健康保険証として使用できるのはオンライン資格確認のシステムを導入している医療機関だけであるとして、積極的な検討を求めた。
 上田悠介厚労省医薬・生活衛生局総務課薬事専門官は、オンライン資格確認等システムを基盤とした電子処方箋システムを構築することで、紙の処方箋の持参が不要になり、重複投薬や偽造・再利用を防止して適切な薬学的管理が可能となるなどのメリットを紹介し、令和4年夏の運用開始を目指して準備中であるとした。
 松田晋哉産業医科大学医学部公衆衛生学教室教授は、特定保健指導が当初見込まれていたほどの効果を上げていないとして、かかりつけ医を中心に継続して健診・指導を行う母子保健の仕組みの有効性を主張。自身が開発したシステム「U―HMS」を用いて、熊本県医師会では、住民がかかりつけの診療所・病院で特定健診・特定保健指導を受け、決済業務は医師会事務局が一括代行するモデルが成功していることを紹介し、日本医師会のPHRシステムへのU―HMSの連結が有益であるとした。
 中島直樹九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター長/日本医療情報学会代表理事は、母子健康手帳やお薬手帳など、今まで紙が主軸であったPHRについて、今後はマイナポータルが主軸となると説明。レセプト情報と特定健診情報が格納され、患者のスマホやパソコンから閲覧が可能なマイナポータルは、国民の自己健康管理の骨格になるとし、今後は生涯PHRを適正に社会実装するために、データ二次利用の相互運用性の確保が極めて重要になるとした。
 総合討論では、オンライン資格確認等システムの導入が任意であることを踏まえた上で、各演者が積極的な活用を求めるとともに、質疑応答を行った。

Ⅴ.特別講演

 その後は、樋口範雄武蔵野大学法学部特任教授/東京大学名誉教授が、「『個人情報は誰のもの?』から医療情報の活用へ」と題して講演。医療情報は、感染症・遺伝情報など他者に影響を及ぼすものであることや、他者の医療情報の集積によって意味が与えられるという特色があることから、差別や悪用を防ぐ仕組みをつくりつつ、活用・共有することが本義であるとして、医療情報の活用に向けた法的問題点などを説明した。

Ⅵ.医療現場での夢のあるAI活用

 午後からはセッションⅥが行われた。
 多田智裕ただともひろ胃腸科肛門科理事長/(株)AIメディカルサービス代表取締役は、内視鏡AIが画像から病変の位置を指し示す「拾い上げ」と、画像から菌感染の有無、腫瘍の有無、重症度を判別する「鑑別」が可能であることを紹介し、実用化が進めば、がんの見逃しリスクの低減や医師の負担軽減、患者の予後改善が期待できるとした。
 佐藤寿彦株式会社プレシジョン代表取締役社長は、同社が開発提供している診療支援システムでは、患者がスマホで入力した問診を電子カルテに取り込むことで入力の時間が半分以下に低減する他、教科書を「臨床シナリオ」ごとに切り出し、「臨床チェックリスト」と「検査処方例」を確認しつつ診療できることを概説した。
 目々澤肇東京都医師会理事は、自院では慢性頭痛の初診患者にタブレット端末を渡して「ユビー」で問診していることや、スマホから来院前の問診も可能であることを紹介し、「AI問診」は患者と向き合う時間を確保するツールであると強調した。
 陣崎雅弘慶應義塾大学医学部放射線科学教室(診断)教授/慶應病院副病院長は、慶應病院で電子カルテの音声入力システムや、案内・モノ搬送・患者搬送などにおけるロボットの活用など、AIを用いた研究開発を進めていることを報告した。
 村垣善浩東京女子医大先端生命医科学研究所副所長/教授は、外科医が手術において摘出を追加するか終了するのかを決断する際、AIが選択肢ごとに生存延長予測などを示して意思決定をサポートする「スマート治療室SCOT」を紹介した。
 松村泰志大阪大学教授・医学部附属病院医療情報部長は、鑑別診断支援システムの構築に向け、疾患名―症状関係のデータベースを作成するに当たり、言語処理にAIを活用して、教科書からの知識抽出や自由文で記載された電子カルテデータの構造化を図る日本語医学「BERTモデル」を研究していることを解説した。
 最後に演者及び羽鳥・長島両常任理事による総合討論が行われ、羽鳥常任理事は各演者の発表に対する講評を述べるとともに今後の発展に期待を寄せた。

閉会式

 閉会式では、次期担当県の金井忠男埼玉県医師会長が次の協議会に向けた抱負を述べた後、運営委員会委員の服部徳昭群馬県医師会理事が2日間の協議会を総括し、閉会となった。

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