娘は幼少期からずっと髪を伸ばしている。ディズニー映画「塔の上のラプンツェル」の21メートル近くの長さの髪を持つ主人公に憧れたのがきっかけだった。娘は飽きっぽい性格なのだが、普段の日も、出掛けて遅く帰ってきた日も、毎日お風呂から出てきては、入念に髪を乾かしていた。それでも髪を乾かす前に寝てしまうこともあり、何度か「髪を切ったら?」と勧めたが、いつも頑なに「いいの!」と言って伸ばし続けた。髪はどんどん伸び、ついには腰を越えるようになった。小学校4年生になっても髪を切らない娘を見て、まだディズニーのキャラクターに憧れて髪を伸ばしているのかと思っていた。
そんな娘が先日髪をバッサリ切った。男子児童くらいの髪の短さになったことに驚いたが、本人が持っていた髪の毛の束を見て、更に驚いた。50センチ近くの髪の毛の束だった。「ヘアドネーションと言ってね、髪の毛を寄付するの」。昨年、職業柄少しでも医療に興味を持ってくれたら、と夏休みの読書感想文の課題図書として、とある小児がん闘病記を一緒に選んだのを思い出した。その中で、化学療法で髪の毛を失って悲しんでいた主人公が、ウィッグをもらう場面が娘にとって、とても印象に残っていたのだった。いつしか娘は「小児がんで頑張っている子の力になりたい」と思うようになり、ヘアドネーションすることを妻に相談していたのだ。
ヘアドネーションは言葉では知っていたものの、中身は知らないことばかりであった。カット当日は朝から髪の毛を洗ってはいけないため、体育やスポーツなどがない日を選ぶ必要があること、切った髪の毛は美容師が営利目的に利用しないよう自分で寄付の手続きをしなければならない(例外あり)、切った髪を半分にしてウィッグに植え付けるために30センチ以上の長さがないと寄付できない、髪の毛は1年に10センチ近くしか伸びないため、特に50センチ以上は貴重である......など。一つのウィッグを作るために30~50人近くの髪の毛の束が必要になるため、同級生の中でヘアドネーションに少しでも興味を持ってくれる子がいてくれたら嬉しい。
手前味噌(みそ)ではあるが今回誰から言われるわけでもなく、困っている人のことを考え、行動した娘の成長に驚かされ、またとても誇らしく思った。
そんな娘は今2回目のへアドネーションを計画中である。