新型コロナ感染症の拡大予防の切り札として、ワクチンの免疫効果が期待されている。接種にはかかりつけ医が行う個別接種と、大規模な会場で行う集団接種と職域接種がある。
かかりつけ医が受け持つ個別接種は、被接種者に安心感があるせいか希望者が多い。また、医師も患者に感謝され、仕事冥利(みょうり)に尽きる。ただし、開発後間もないワクチンの副作用や長期的安全性がはっきりせず、ワクチン接種は強制ではなく任意である説明も欠かせない。
通常の診療と並行のワクチン接種は、インフルエンザワクチンの接種の時と違い、手間ひまが掛かり、思うように能率が上がらず負荷が大きい。事前の予約受付の電話の応対とワクチン接種記録システム(VRS)での事後報告は、スタッフにとって想像以上の負担である。
かかりつけ医は本来、患者本人だけでなく配偶者や親なども診る家庭医でもあるはずだが、今回、かかりつけ医の接種では本人以外の接種は断ることもあり、心苦しい。
そこに突然、ワクチン接種回数を一日100万回と、国から要請が掛かった。そもそも、ワクチン接種を前提としないオリンピック開催の準備が進められてきたはずなのに、いつの間にかワクチン接種が開催の必須条件となってしまった。
かかりつけ医のワクチン接種には人的・時間的限界があり、やはり集団接種に分がある。ならば始めから集団接種を主体にして、かかりつけ医の接種は補完的役割にすれば混乱は防げたかも知れない。
更に、突如ワクチン供給不足が露呈し、ワクチン接種を一時的に中止せざるを得なくなってしまった。接種を希望する方に、集団接種に回るようにと予約を断るにも神経を使う。これでは「もういいや」と、かかりつけ医の接種への情熱は冷めてしまう。かかりつけ医にとってワクチン接種は特別なことではなく、時間外や休日の接種、一日の接種者の数に応じて報酬が加算される仕組みはなじまない。
しかし、かかりつけ医は今日も、患者の労(ねぎら)いの言葉に元気付けられワクチン接種に励む。
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