診療報酬は2年に一度改定され、財務省や支払側はマイナス改定を主張し続けます。医療を行っていく我々にとって診療報酬の増減は大きな関心事ですが、さまざまな医療制度について国民に好ましくない改革案を出してくる勢力があります。しかしながら、今までは非現実的な意見は論理的な反論によって退けられてきました。
論理的な反論によって非現実的な意見が廃案になると10年程度はその案は出てきませんが、プレイヤーが新しくなると、またぞろ同じような案が浮上してくることがあります。我々はまた同じような反論をするということになります。
そこで、今までにどのような非現実的な意見が出てきたのか、またその顛(てん)末を記録として残しておくことが必要と考え、作成された日医総研のワーキングペーパーが、今回ご紹介する村上正泰主席研究員の「予算制・医療費給付率調整」「薬剤を中心とした保険給付範囲見直し論」です。
最近、国民医療費を予算制にする(医療費の伸び率目標を設定するなど)、経済の変化(医療費の伸びをGDP成長率以下にする)や人口の変化(人口減少すると医療費も同じように減少させる)に合わせて医療費も変化させるという案が再び浮上してきました。
これは2000年代初頭に「伸び率管理」として導入されそうになったもので、いくつかの問題があり廃案になっています。
薬剤の保険給付範囲の見直しについても、今までに多くの意見が出てきました。例えば、OTC類似薬や風邪薬などのリスクが低い薬を保険適応外にする案、薬剤の種類によって自己負担割合を変える案、参照価格制(同効の薬剤をグループ化し、それに価格を設定。その価格を超えるものについては自己負担とする制度)の導入、高額薬剤を保険適用外にする案などです。しかし、どれも益よりも害の方が大きいということで廃案になってきました。
今後も国民医療費の縮小を意図する意見はさまざまな形で出てくる可能性がありますが、過去の意見対立をもう一度見直すことによって、これからの議論の一助となるのではないかと思い、過去の議論を記録として残すことにしました。
本ワーキングペーパーは日医総研のHPでご覧頂けますので、ぜひ、ご活用下さい。
URL:https://www.jmari.med.or.jp/research/research/wr_745.html
(日医総研副所長 原祐一)
「医療費の伸び率管理」の問題点
・経済の規模から社会保障の規模は一義的には導かれない・医療給付費はその性質上、一律に枠をはめることは困難 ・医療費給付を管理しようとすると、自己負担率を更に上げるなどの方法を導入し、国民の医療を受ける権利を阻害する ・医療費給付水準を抑えると、国民の健康水準が低下してしまう |