日本医師会シンポジウム「全ての子どもが健やかに成長できるために~小児在宅ケアの推進を目指して~」の収録を9月8日、日本医師会館において感染対策を行った上で、無観客で行った。
本シンポジウムは、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(以下、医療的ケア児支援法)が本年6月11日に成立したことなどを踏まえ、小児在宅ケア推進に向けた理解を深めるとともに、日本医師会として患者やその家族をしっかりと支援していく姿勢を国民に示すことを目的として実施したものである。
シンポジウムはフリーアナウンサーの竹内由恵氏の司会の下に開会。冒頭のあいさつで中川俊男会長は、医療的ケア児が令和元年度時点で全国に2万人いると言われていることに触れ、「在宅療養に移行した小児についても、高齢者と同様、各地域で構築されている地域包括ケアシステムにおいて、受け入れ体制を充実することが求められている」と指摘。このような状況の中で、今年6月に「医療的ケア児支援法」が成立した意義は大変大きいとするとともに、「小児在宅ケアを推進していくためには、国民の皆さんの理解が不可欠である」として、引き続きの支援を求めた。
シンポジウムではまず、三名の講演が行われた。
前田浩利医療法人財団はるたか会理事長は、医療的ケア児が増加している背景として、日本の小児医療の進歩を挙げ、高度な医療により多くの子どもの命が救われ、元気に退院していく一方で、医療機器・医療的ケアが必要となる子どもが生まれたと指摘。加えて2008年の都立墨東病院事件と呼ばれる妊婦の死亡を機に、NICU満床問題の解決のため、小児の在宅医療が進められてきた経緯を説明し、地域で医療的ケア児を支援できるシステムづくりが求められているとした。
また、実現のための課題として、(1)ケアマネジャーの不在など、在宅支援の仕組みの不足、(2)成人期になった時に診てくれる医療機関が無いなど、成人期移行の問題―を挙げ、その早期の解決を求めた。
その上で、前田理事長は医療的ケア児から実際にもらったメールを紹介しながら、医療的ケア児が家族と家で過ごす意義を強調。「日本では医療的ケア児であっても、子育ての問題として親御さんが責任を持つべきとの風土があるが、全ての子どもを社会全体で支えていく体制を構築していくことも必要なのではないか」と述べた。
自見はなこ参議院議員/自民党女性局長は、日本の子ども達を取り巻く課題として、虐待、いじめ、自殺などの問題を挙げるとともに、これらの問題を一元的に把握し、対応する府省庁がないことを問題視。その解決策として、こども庁の創設に向けた取り組みを進めているとした。
具体的には、今後超党派での活動へ展開も視野に入れて、勉強会を自民党有志で立ち上げ、専門家や当事者の声を徹底的に聞くとともに、アンケートも行いながら、緊急提言をまとめ、本年4月には菅義偉内閣総理大臣(当時)に提出し、本年7月には内閣官房の中に検討チームがつくられたことを紹介。また、こども庁は、「愛育」「育成」「成育」を三つの柱とし、全ての子ども達に必要な医療、療育、教育、福祉の支援を一体的に提供することを目指しており、その中には医療的ケア児への支援も含まれているとした。
本年6月に成立した「医療的ケア児支援法」については、国、地方公共団体だけではなく、保育所や学校にもその責務として看護師を配置することを明記した意義を強調。今後も医療的ケア児だけでなく、その家族が幸せだと感じる支援を行っていく考えを示した。
オンラインで参加した内多勝康国立成育医療研究センターもみじの家ハウスマネージャーは、令和元年度に民間の調査会社が厚生労働省の補助金を受けて実施した「医療的ケア児者とその家族の生活実態調査」の結果を基に、保護者の「慢性的な睡眠不足」「自らの体調悪化時に医療機関を受診できない」「自分だけの時間を持つことができない」といったことが大きな課題になっており、ひとり親家庭の場合には更に深刻になっている現状を紹介。
そうした家族を支えるために平成28年4月に完成した施設が「もみじの家」であるとして、「看護師による24時間の医療的ケア」「入浴、食事といった生活介助」「保育士を中心とした日中活動」の提供を柱とした施設の概要を説明。このようなサービスを提供できる施設が全国に広がることに期待感を示すとともに、そのためには経営状況が赤字となることの解消が求められるとした。
また、今後については、「『医療的ケア児支援法』に掲げられた精神がしっかりと形づくられるよう、当事者の声を行政に伝える活動を続けていきたい」と述べた。
パネルディスカッション
引き続き行われたパネルディスカッションでは、まず、松本吉郎常任理事が日本医師会の取り組みとして、会内に小児在宅ケア検討委員会を設置するとともに、国の各種審議会や検討会で、機会を捉えて、小児在宅ケアの推進、医療的ケア児への支援を求めていることなどを紹介。その後にはさまざまな問題に関して、活発な意見交換が行われた。
「動くことができる医療的ケア児への対応」については、前田理事長が映像を交えて、活発に動くことで家族が目を離せないといった課題があることを報告。内多マネージャーもリスクの高まりに伴うスタッフの業務増大などを挙げるとともに、こういった医療的ケア児を受け入れる施設の充実を求めた。
松本常任理事は医療的ケア児のきょうだいに対するケアの視点も重要になるとした他、重度訪問介護のような、ヘルパーがある程度の時間、介護や見守りを行うサービスを少しでも利用できるようにすることも必要になるとの考えを示した。
「災害時の対応」については、内多マネージャーが「避難自体ができない」と不安を抱えている家族も多いことを説明。自見議員は、今年5月に災害対策基本法が改正され、医療的ケア児への支援が強化されたことを報告。どこに医療的ケア児がいるのか、どういった対応が求められているのかを各地域で把握するなどの準備が求められるとした。
更に、前田理事長は、電源の確保に関して、発電機の誤った使用によって一酸化炭素中毒になる危険性を指摘し、どういった電源を確保しておくかも重要になるとした。
「医療的ケア児の登校を可能にするために必要なこと」に関しては、自見議員が、教育委員会がローテーションを組み、責任を持って看護師を派遣している豊中市の例を挙げ、「いかに教育委員会に当事者意識を持ってもらうかが大事になる」とした。松本常任理事は厚労省の研究事業を基に、保護者に付き添いを求めるのではなく、看護師がケアを行うことで医療的ケア児自身の自立心が養われるだけでなく、周りの子ども達にも良い影響が出ることを報告し、インクルーシブ教育の効果を強調した。
「医療的ケア児がケア者になった場合の対応」については、前田理事長が、小児科と内科の境界があいまいで、誰が診ていくのかに関して明確な答えは出ていないと指摘。自見議員は医療の問題に加えて、年齢によって行政サービスの所管が異なるといった「行政の横割り」の問題もあるとして、その解決に取り組む考えを示した。
また、松本常任理事は行政、多職種、地域の人が連携し、地域社会の一員として医療的ケア児を支えるコミュニティーが構築されることに期待感を示した。
「ケアの担い手の問題」に関しては、内多マネージャーが社会の隅々まで担い手は必要だとした他、前田理事長は医師、看護師だけでなく、介護職にも関わってもらう必要があると指摘。
自見議員は国からの財政的な支援が求められるとするとともに、医療的ケア児のことも考えながら、地域包括ケアを構築していくことが求められるとした。
松本常任理事は愛知県の瀬戸旭医師会による医療的ケア児とその家庭向けのイベントを紹介。「多くの地域でこのような取り組みが行政と共に行われることを期待したい」とした。
最後のまとめでは、まず、前田理事長が「医療的ケア児を支援してもらうことが全ての子ども達の幸せにもつながる」として、更なる支援を要請。
自見議員は、「子ども達は医療だけでなく、福祉や教育などのサービスを受けられることで初めて幸福になることができる。多くの皆さんが支え手となって、医療的ケア児を支援してもらいたい」と訴えた。
内多マネージャーは、「医療的ケア児支援法」の理念を早期に具体化する必要があるとした上で、日本が世界一子どもを守る国であると思ってもらえるよう、多くの人の力と知恵を借りながら取り組んでいくとした。
松本常任理事は、「障害があっても、医療的ケアが必要でも、地域の中で健やかに成長し、教育の機会が保障され、保護者も疲弊することなく、就労しながら子育てができるような社会の実現のためには、社会全体で支えていく方向に転換していくことが必要であり、国民の理解・支援が不可欠だ」と述べるとともに、日本医師会としても、地域医師会とも協力し、引き続きできることを考え、取り組んでいくとの決意を示した。
お知らせ |
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日本医師会シンポジウム「全ての子どもが健やかに成長できるために~小児在宅ケアの推進を目指して~」の模様は、11月1日より日本医師会公式YouTubeチャンネルに動画を、翌々日の3日には朝日新聞全国版朝刊にその採録を、それぞれ掲載する予定です。ぜひ、ご覧下さい。
日本医師会広報課
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