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令和3年(2021年)12月20日(月) / 南から北から / 日医ニュース

へんなおじさん

 診療はしていると言っても、非常勤で週3回の外来のみであれば、1週間のうち4日は在宅となる。4日間、朝から晩まで書斎にこもっているというタイプではない。晴れればなるべく、外の空気を吸いたいし、歩きつつ、町内、近隣の季節の移ろいを肌で感じたい。
 ぽかぽか陽気のある日、9時半過ぎにずだ袋を肩に掛け帽子をかぶって、ウォーキングと称する散歩に出た。ウォーキングと言うと、膝を伸ばして大股でかかとを蹴って歩き、時折速歩を加えるのだが、とっくの昔にその型は崩れ、他人が見るとのんびりと高齢者がぶらぶら歩いている姿に見えるだろう。
 約1時間、町並みや雑木林を巡って間もなく自宅の見える坂にたどり着いた。ちょうど近くの幼稚園から午前の散歩なのだろう、2人1組で約15列の隊列が坂を上りつつあった。前に1人、中間に1人、後尾に1人の3人の先生が付き添って子どもらを誘導していた。私は坂の途中の横道から園児らの隊列に合流した。ぺちゃくちゃ、きゃあきゃあ、明るく、楽しく、活気あふれた隊列であった。つられて、私は手を振り、「こんにちは」と笑いながら声を掛けた。
 すると、隊列から1組の子どもがにこにこしながら近付いてきたのである。私は頭をなでてあげたくなり、立ち止まった。と、突然、後尾にいた先生が駆け足で追い付き、「ダメ、ダメ、変なおじさんに付いて行っては」と、強く叱責したのである。その子らは、きょとんとして、戸惑ったような悲しそうな表情で、元の隊列に戻された。
 まあ、仕方ないかと思いつつ、笑いながら隊列と2メートルのソーシャルディスタンスを取り、平行に歩き出した。子どもらも笑いながら、誰かが「へんなおじさん、へんなおじさん」と唱え始めた。その声はトントン拍子に隊列に伝染し、全員の大合唱になった。「へんなおじさん、へんなおじさん、へんなおじさん」と。皆笑っているので、自分も笑いながら「変なおじさん」と口ずさみつつ、園児の隊列が離れていくのを見守った。
 自宅に到着して家内に報告したところ、「服装が変なのかしら。ずだ袋が変なのかしら」と首をかしげつつ、「いや、今の幼稚園の先生、大人に過敏になって愛想良く近付く人物を警戒したのでは」との結論になった。
 そもそも「変な~、へんな」とは何ぞや。「変」とは、「異常な出来事、事態が移り変わること、普通でない様、怪しい様、思い掛けない様」と国語辞典にはある。
 一見、優しそうな穏やかな人物であっても、心の中身は何を考えているか分からないことはあり得る。あるいは、幼児の声高な発語や泣き声を騒音公害だと言って、幼稚園や保育園建設に反対する地域もある。
 コロナ禍の現在は言うに及ばず、ウォーキング途中で見掛ける若夫婦の、2~3歳児の手を取ってよちよち歩きを支えている姿は、ほほ笑ましく、ほっとした安らぎを与える。自然に湧いてくる幼児への慈しみは、この時代には御法度(ごはっと)なのだろうか。
 書斎に引きこもって読書を始めたが、頭の中で「へんなおじさん、へんなおじさん」の音声がリフレインしていた。

秋田県 秋田医報 No.1591より

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