令和4年度第1回都道府県医師会長会議が9月20日、WEB会議により開催された。 当日は「新型コロナウイルス感染症に対する医療提供体制について」をテーマとして、活発な討議が行われた他、事前に寄せられた質問に対して、日本医師会執行部から回答を行った。 |
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本会議は、松本執行部誕生を受けて開催形式を変更〔都道府県医師会を6グループ(A~F)に分け、毎回一つのグループを中心にテーマに則した議論を行うとともに、都道府県医師会から事前に寄せられた同テーマに関連する質問に対し、日本医師会執行部が答弁〕してから、初めて行われたものである(今期執行部中に計6回開催予定)。
会議は釜萢敏常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした松本吉郎会長は、これまでの新型コロナウイルス感染症の対応等に謝意を示した上で、第8波や秋・冬の季節性インフルエンザとのいわゆるツインデミックに備えて、オミクロン株の特性に応じた現在の医療提供体制を維持・充実させる必要があるとして、特に診療・検査医療機関の拡充に対する更なる協力を要請。日本医師会としても、引き続き医療現場の負担を軽減しつつ、フォローが必要な感染者に対して、適切に健康観察等が行えるように努めていく考えを示し、理解を求めた。
その後は松家治道北海道医師会長が進行役を務め、「新型コロナウイルス感染症に対する医療提供体制について」をテーマとしたAグループ所属の医師会(北海道、福島県、東京都、山梨県、滋賀県、鳥取県、香川県、熊本県)による討議が行われた。
Aグループによる討議及び全体討議
東京都医師会は、医師を始め医療従事者が総力戦で臨む体制を平時から整えておく必要性を強調。鳥取県医師会は、疫学調査の結果に基づき、死亡者数をいかに減少させるかが今後の重要な対策の柱となるとした他、熊本県医師会は、自宅療養・施設療養の患者が増えたことで、適切な医療を受けられずに死亡している可能性があることに懸念を示した。
香川県医師会から、コロナを特別な疾患として扱うことをやめても良いのではないかとの意見が寄せられたことに対しては、釜萢常任理事が①急激に感染者が増える②感染のピークが2カ月以上続く―など、オミクロン株の特徴を説明。医療従事者が罹患してしまう恐れもあり、現時点で感染対策を緩めることは難しいとして、理解を求めた。
その後の全体討議では、地方においては特に感染に対応できるチームをつくって準備しておくことが求められる(群馬県医師会)、死亡者を少なくするためにも高齢者をいかに守るかという対策が今後必要になる(岡山県医師会)といった意見が出された他、コロナの感染症法上の取り扱いについて、2類相当から5類に変更するには国民の理解が不可欠(埼玉県医師会)といった考えも示された。
また、栃木県医師会から診療・検査医療機関に対する財政支援が求められたことに対して松本会長は、その継続のため執行部が総力を挙げて、現在、厳しい折衝を行っていることを明らかにするとともに、そのバックアップを求めた。
更に、松本会長は新型コロナに多くの医師が関わるべきとの思いから、「コロナに限らず地域包括ケアシステム全体にわたり、医師会が主導権を持ち、全科の医師がオールジャパンで取り組んでいくことが重要になる」と強調した。
都道府県医師会からの質問に対する執行部の答弁
秋田県医師会は、第8次医療計画の中に盛り込まれる新興感染症対策と地域医療構想との整合性について質問した。
猪口雄二副会長はコロナ対応の教訓として、医療機関同士の役割分担の重要性が再認識されたとして、改めて436の再検証対象病院の再評価などを、地域で協議してもらうことが重要になると指摘。「日本医師会としても、重症度別の患者対応や専門的な治療を担う病院との役割分担と連携について、地域医師会が主導して協議してもらう制度設計を目指したい」とするとともに、2040年に向けたポスト地域医療構想と整合した政策として提案のあった、休床病床や閉鎖病棟をいざという時に利用できるようにしておくことについても主張していることを説明した。
茨城県医師会からの、2025年を目標に地域包括ケアシステムの構築と地域医療構想の実現を目指す中で、かかりつけ医機能の充実・強化を含む状況の評価及び今後の取り組みに関する質問には、黒瀨巌常任理事が回答。「地域医療の諸事情を熟知する郡市区等医師会並びに都道府県医師会が主導し、地域包括ケアシステムの構築と地域医療構想の実現を早期かつ確実に進めることが有事への備えとしても肝要であり、地域の医療提供体制を支える地域包括ケアシステムの中心的役割を担うかかりつけ医の機能強化は欠かせない」とした。
また、かかりつけ医機能に関しては会内の医療政策会議の下にワーキンググループを設けて検討しており、その成果を基に国の検討の場等で主張していく考えを示した。
東京都医師会からの、かかりつけ医機能の24時間365日体制と災害時体制の構築、責務意識の醸成のための具体策を問う質問には、黒瀨常任理事が「かかりつけ医機能には、地域医師会による連携体制づくりは欠かせない」とした他、医師会員全員が協力するための方策については、都道府県医師会が強いリーダーシップを発揮し、郡市区医師会や医療機関と密接に情報共有を行い、課題解決意識を高めることが必要とし、「医師会の組織強化こそが日本医師会の最重要課題であり、日本の平時有事の医療提供体制をより強固なものにするとの考えの下に今後も取り組みを進めていきたい」と述べた。
山口県医師会からの「地域包括ケア病棟入院料」を引き続き算定するための届出に関する質問には、江澤和彦常任理事が、9月30日までの経過措置とされている「重症度・医療看護必要度」「在宅復帰率」などについて、(1)10月1日以降も算定する場合は、10月14日までに改めて届出を行う必要がある、(2)同月末日までに要件審査を終え届出の受理が行われたものは、10月1日に遡(さかのぼ)って算定することが可能となる―ことを説明。また、診療実績に関する施設基準等については、「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱い(その26)」(令和2年8月31日厚生労働省保険局医療課事務連絡)が適用され、コロナの影響により、実績要件を満たせない場合であっても、直ちに施設基準の変更届出をしなくても良いとの配慮がなされているとして理解を求めた。
また、透析医療機関で無症状のコロナ透析患者に対して時間外対応を行う場合への補助を求める要望に関しては、長島公之常任理事が、ゾーニングによる感染防止対策を行っていることで院内トリアージ実施料(300点)の算定が可能であるとする一方で、特定の診療分野に特化した補助の実現は困難だが、今後は関連学会、関連団体の対応等を踏まえ、検討していく考えを示した。
熊本県医師会からの、高齢者施設等の集中検査用の抗原検査キットを医療機関で活用すること並びに医療と介護の連携について、柔軟な対応を求める意見に対しては、江澤常任理事が、各自治体が独自に確保した抗原定性検査キットの活用方法は自治体で判断可能とされていることを説明。医療と介護の連携に関しては、「引き続き、都道府県行政の医療・介護の連携に尽力してもらいたい」と要望するとともに、日本医師会としても医療・介護連携の推進及び現場での柔軟な対応が可能となるよう厚労省に要請するとした。
保険診療上の特例の延長要望に関しては、長島常任理事が、2類感染症患者入院診療加算や重症化リスクのある患者の療養上の管理に係る点数について、10月以降も継続して算定できるよう働き掛けていることを挙げ、新型コロナウイルス感染症への対応が続く限り特例を継続する方向で、今後も働き掛けを行っていく意向を示した。
その他の質問には、釜萢常任理事がまとめて回答を行った。
愛知県医師会から、ウィズコロナを見据えて今の感染対策をより簡素化した具体的な指針を示すよう要望があったことに対しては、「現時点では難しいが取り組んでいきたい」と答弁。兵庫県医師会からの「ワクチン・検査パッケージ」の問題点を指摘する意見に対しては、現状ではワクチン・検査パッケージを評価・利用することは難しく、コロナの特徴を踏まえた対応が必要だとした。
また、山口県医師会からの出口戦略への考えについては、「国の審議会等での議論も踏まえれば、日本においては出口戦略を考える状況にはない」と説明した。
また、日本版CDCの創設に向けた動きに関しては、日本医師会からもこれまで主張してきたことであるとした上で、(1)政府の司令塔機能を担う組織「内閣感染症危機管理統括庁(仮称)」の法律案が、令和5年度中の設置を目指して次期通常国会に提出される、(2)国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合することで、いわゆる「日本版CDC」の令和7年度以降の設置を目指している―ことを報告。指揮命令系統がどうなるかが重要であり、「内閣感染症危機管理統括庁(仮称)」との役割分担等について日本医師会としても注視し、意見を述べていく姿勢を示した。
長崎県医師会からの診療・検査医療機関の充実に向けた具体的な方策及び適切な受診行動に関する広報についての質問には、コロナ医療とコロナ以外の医療の医療体制を整えることが極めて重要であるとするとともに、八王子市における好事例を全国展開すべきとの提案がなされたことについては、今後開催する「都道府県医師会新型コロナウイルス感染症担当理事連絡協議会」において、引き続き各地域の取り組みや課題などを取り扱っていくとした。
また、熊本県医師会からのワクチン接種済みの軽症患者の自宅療養期間短縮の検討を求める要望については、発症日から10日間はウイルスを排出・感染させるリスクが残っていることを踏まえ、行動規範を示すべきであるとした他、国産ワクチンの早期承認に関する質問には、日本医療研究開発機構(AMED)の機能を強化するとともに、ワクチンの国内開発を先導する組織「先進的研究開発戦略センター(SCARDA:スカーダ)」を設置して、国産ワクチン実用化に向けて戦略的な研究開発を推進していく方針等を、日本医師会としても全面的に支持していることを説明した。
総括を行った松本会長は、今後、コロナの感染症法上の取り扱いを見直していく際には、体制の問題の他に診療報酬や補助金などの見直しの問題も出てくると指摘。「日本医師会としても、支援の継続を要望していくので、地元の国会議員等にも継続した働き掛けをお願いしたい」と述べた。
その他、松本会長は、「全ての医師に日本医師会に入会して欲しい」との基本理念の下に、臨床研修医を対象として会費減免期間を卒後5年目までに延長したことを説明。その実施に向けた協力を求めるとともに、10月19日には「都道府県医師会組織強化担当役職員連絡協議会」を開催することを紹介した。